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▼西洋ツツジと呼ばないで02

 包丁がまな板に当たる音と味噌汁の良い匂いが、僕の意識を目覚めさせた。
 目覚まし時計を頼らなくても起きられたのは今日の朝練がないからだろう。いつもより遅い起床となったが、瞼を上げればいつもと変わらない朝。
 あくびをかみ殺しつつ、パジャマから制服へと着替える。週末にクリーニングに出した学ランは糊が効いているのかパリッとしていて入学式の日を思い出す。

「士郎おはよう」
「おはよう、朝ご飯出来てるわよ」
「父さん母さん、おはよう」

 アツヤはまだ寝ているらしく、朝食を食べているのは父さんと母さんの二人だけ。僕もそれに加わって朝食に手を付ける。
 今朝はご飯と味噌汁に焼き鮭といった和食の代表みたいな料理で、とても美味しかった。

「アツヤ起きなさーい!」
「ふぁーい」

 二階に向かって母さんが大きな声で言うと、少し間が空いてから間の抜けた返事が返ってくる。
 それから暫くして、アツヤが学ランのボタンを留めながら降りてくる。
 寝ぼけているせいかボタンを掛け違えていることにも気付かず、僕が指摘してやるとようやくきちんと着ることが出来た。もう中学生だというのに、世話の焼ける弟だ。
 ようやく覚醒したようで、アツヤは時計を見やって慌てて朝食に手をつける。それを母さんがしっかり噛んで食べなさいと注意する。
 こういったやりとりは毎朝のことなのに、思わず笑ってしまう。

「ほらアツヤ、早くしないと置いてくよ」
「げぇっ。少しくらい待ってもいいじゃん!」
「アツヤを待ってたら遅刻しちゃうよ」
「ケチ!」
「何でケチになるの?」

 にっこりと笑顔を張り付ければアツヤは顔を蒼くして冷や汗を流しながら謝ってきた。はは、本当に世話の焼ける弟だ。



「吹雪くんおはよう!」
「おはよう」

 アツヤと別れ自分の教室に入った所でクラスメイトに挨拶をされたのでいつものように笑顔で返す。
 それから、早くサッカーがしたいなぁと考えながら少し退屈な授業を受けて、放課後を待った。

 そして放課後、隣の学区にある中学校のサッカー部との練習試合が始まる。
 得点は一対一のまま後半戦へ。相手のシュートを函田君が止めて、攻めあがもボールを奪われる。
 一進一退の攻防が続く中、ボールは相手のストライカーへ渡ってしまった。

「華麗にシュートを決めてやるぜ!」
「させないよ……アイスグランド!」
「吹雪くんナイスブロック!」
「アツヤ!」
「任せろ!」

 ディフェンダーの僕が相手からボールを奪いエースストライカーであるアツヤへとパスをする。その勢いのまま、アツヤはエターナルブリザードで点を入れた。
 同好会から部活動になったばかりでの、初めての練習試合はアツヤの活躍で勝利を収めた。

「兄ちゃん、さっきはナイスパスだったぜ!」
「アツヤも、ナイスシュートだったよ」
「勝てたのは吹雪くんとアツヤくんのお陰だべ」
「ううん。僕とアツヤだけじゃ勝てなかったよ」

 アツヤの活躍と言っても、僕や他のチームメイト、みんながそれぞれの役目をしっかりと果たしたからの勝利だと思っている。
 そのことを素直に言えばみんなも素直に照れいて、言った本人である僕も何だか少し照れくさい。

 部活動に成ったとはいえメンバーもギリギリの人数で、男女混合のチームなのでフットボールフロンティアなどの公式試合には出場出来ない。
 それでもみんなで楽しくサッカーが出来ていて僕は幸せだ。
 家族がいて、友達がいて、こんな当たり前な日々が時々堪らなく愛おしくなり、充足感でいっぱいになる。


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