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▼あつやマイマイ 貳

「アツヤ、自宅の住所は分かる?」
「うん、えっと……」

 まあ住所を聞いたところで北海道に来たのは初めてなので分かるわけもなく、アツヤから聞き出した自宅の住所を地元の人に訪ね歩くことになった
 歩く間もアツヤの手は離さずにいたため見える人にはきっと似ていない親子に見えていたのかもしれない

 どうやらアツヤはサッカーをやっているらしく試合や必殺技の話をしてくれる、子供ができたらきっとこんな感じなのだろう、アツヤはフォワードをやっていて兄はディフェンダーらしい

「この前の試合で、俺が決勝点決めたんだぜ!」
「凄いじゃない」
「でも兄ちゃんはミスしたんだよ」

 嬉しそうに話す姿はただの子供であまりにも微笑ましくて思わず笑みをこぼした、それが嬉しかったのかさらにアツヤは色々な話をしてくれた

 途中雪の中に立っている建物が目に入りアツヤにあれが何かを尋ねれば中学校であると教えられた、あと数年で俺もここに通えるんだと言われたときは胸が痛んだ
 ここならば人がたくさん居るだろうと考えその私有地に足を踏み入れれば授業はすでに終了しており殆どの生徒は下校していた、はてさてどうしたものか
 どこからか声が聞こえるとアツヤが言うので引っ張られるままついて行けば道が途絶えており崖かと思いきや下へ続く階段があった
 下にはよく整備されたグラウンドが広がっていてサッカーをしている少年たちが見える
 雪が払われているとはいえ滑らぬように注意を払って下りていけばユニフォームを纏ったサッカー部員たちが私に注目していた
 誰だ誰だとあっという間に集まられてしまい、大人数に威圧されたのかアツヤが私の後ろに隠れた
 怪しい者じゃないと言っても信用してくれないだろうと思いつつも一応形式的に言ってみる、しかしやはりと言うべきか少年たちの表情は険しい
 後ろで跳ねさせた色素の薄い髪と幼さを残した顔を持つ少年が率先して私の前に現れた、見た目からの情報だけでこの子がアツヤと何らかの関係があるのだとすぐに分かった、そのくらい二人は似ていた

「何か用ですか?」
「知り合いの家を探してる途中なのだけれど、サッカーしているのが見えたから」
「サッカー好きなんですか?」
「ええ、知り合いにサッカーをやっている人がいるから興味があって」
「そうなんですか、よかったら見て行って下さい」

 いつの間にやら身の潔白が晴れていたみたいで見学の許可が下りた、もう少しで部活が終わるのでそれからで良かったら道案内をしてくれるようだ
 私はお言葉に甘えることにしてアツヤとベンチに座る、アツヤはサッカーに興味津々といった様子で目を輝かせている
 かくいう私は携帯電話を取り出して調べ物をしていた、数年前この地の北ヶ峰で起きた事件のことを詳しく知りたくて検索をかければすぐに情報は手に入った
 少年サッカーの試合の帰り道、車に乗っていた一家四人が雪崩に巻き込まれ両親と幼い弟が死亡、偶然車から放り出されたこれまた幼い兄が重態であったが一命を取りとめ今は元気に生きているそうだ
 きっとキャプテンマークをつけているあの少年がそうなのだろう、家族の分まで元気に育っているのは良いことだ、きっと高いところにいる両親も安心していることでしょう
 今度はアツヤを二人の元へ届けなくてはいけない、それは単なる義務感であったり偽善のようなものかもしれないがあの場に居合わせたのが私であったというのは単なる偶然には思えない、きっとこうなることは決まっていたのだ、所謂必然というもの
 シュートを打ったのが兄だとは分からずめいっぱいはしゃぐアツヤの頭をそっと撫でた

「な、何だよ姉ちゃん」
「可愛かったからつい」
「かっ、可愛くねーし!」

 彼もこれくらい可愛げがあれば良いのにな、と知り合いの少年を思い出した


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