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▼あつやマイマイ 壹

 これは私がとある事情で北海道の地に訪れた際の話で、その子供は還れずにいた

 その日の北海道は天気も至極穏やかで交通機関を利用せずとも目的地に行けると踏み、手探りで歩き始めたのだが市街地を抜けたあたりで本格的な雪道へと出てしまいやはり何かしらの交通機関を利用すべきだったと後悔するも遅く、市街地で購入した冬用のブーツを頼りに進むしかなかった
 しばらく歩くと広い道に出たが双方を山に囲まれていたためここが北ヶ峰という場所なのだと理解した、先ほど市街地で昼食を摂った際にこの場所のことを店主に聞かされた、危険な場所であると
 この北ヶ峰という場所は山と山の間を通るようにして唯一の道が存在するため雪崩が頻繁に起こると聞いた、数年前にここで起きた雪崩が原因でこの世を去った家族がいるという記事を新聞か何かで読んだことがある
 他にも雪崩で亡くなった人は数知れず仕舞いには熊も出てくると言うことだったので、私もその中の一人にならないよう早々にこの場を去ろう足早に、と悠然と立つ樹木に差し掛かったときだった、その少年がこちらを見ていた
 マフラーを着け色素の薄い赤い髪を後ろで跳ねさせた幼い少年はそのコペンブルーの瞳で私を見ていた
 背格好からまだ小学生だと伺えるが保護者の姿が見受けられない、迷子か、それともこの少年はすでに
 そこまで考えたところで少年が私の方へ歩いてくる、恐る恐るといった風に戸惑いの色を見せるその瞳は実にいたいけで私に何かを訴えていた

「お姉さん俺が見えるの?」
「ええ、見えているわ」

 その言葉に少年は表情を緩ませたのも束の間、今度は口を紡ぎ何かを決心したようにごくりと喉を鳴らした、何かを言いたそうに私を見るので私は少年が喋るのを待った
 私のスカートの裾を掴んだその手は小さく震えておりこの広い雪原でどのくらいの間一人でいたのか、どのくらい寂しい思いをしていたのかが伝わった

「なぁ、お願い、助けて……!」
「どうしたの?」
「家に帰りたいだけど帰れないんだ」
「……詳しく教えてくれる?」
「ああ、」

 話を聞くところこの子は迷い牛という怪異に取り付かれているから帰れずにいる、もう少し発見が遅れていればこの少年自体が怪異となっていたかもしれない、発見できたのが今で良かった
 可哀想にこの子は住んでいた家に帰れば自分が生きていないと思い知らされることをどこかで理解している為にその恐怖から怪異を引き寄せてしまったのだろう
 だから本当に行きたい目的地に辿り着けず成仏することすらも出来ないでいる
 この子のためになるのか分からないけれど手っ取り早く怪異を取り除く方法は一つしかない

「仕方がないから君ごと喰う」
「ひぃっ!」

 途端にその少年の表情が山姥でも見ているかのように一変した、私の言い回しに非があったことは認めざるを得ないがこの少年にも少なからずの非はある
 始めから説明するのも面倒なのでとりあえずこの少年が怪異に取り付かれているということとそのままでは帰宅することはおろか永延に彷徨い続けることになると、掻い摘んで説明すれば案の定少年の表情は曇る
 仕舞いには泣き出しかねないこの状況をどう打破すべきか考える、このままいればこの少年が目的地に辿り付くことも私がこの少年の怪異を喰らうこともできない
 頭の中で勝手に利害の一致ということにして少年を目的地まで連れて行くという結論に至った

「少年、私が家まで連れて行ってあげるよ」
「俺の名前は少年じゃないやいっ、吹雪アツヤだよ!」
「そう、アツヤ、行くよ」
「うん!」

 私が差し出した右手に意気揚々とアツヤの小さな手が重なる、この寒さで冷えていたのか握った手から手が冷たくなっていたが徐々に温かさを取り戻していった、アツヤは幽霊であったとしても少なからず温もりは持っていた


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