あな
彼が生き残った要因について考えて、考えて、本人にその時の状況を訊いても覚えていないの一点張りで進展もなく。むしろ泣いてしまった気まずさから彼を隔離している部屋から逃げて、とりあえず牧場に駆け込んだのは正解だったようだ。想像以上に癒される空間がそこには出来上がっていた。昼寝するナイン、子守唄を歌うエース、ヒヨチョコボに囲まれて本を読むクイーンといった具合に。
係りのヒショウさん逹は大量発生したらしいヒヨチョコボに付きっきりでもふもふしている。いやお仕事だと知っているけれど。
私、引退したら飼育員になりたい。無理だろうけど。
「クイーン、まーぜーてー」
「あらツバメ、ならこちらにどうぞ」
干し草を均した特等席を空けてもらい、うきうきとクイーンの隣に座る。仰向けのナインの頭上を三人で囲むような形で日陰に座ると、もう悩んで荒んだ気持ちがこれでもかと凪いでいく。一旦口を閉じていたエースが、また小声でいつもの歌を口ずさんだ。
「あー、平和だー……」
「そうですね、大きな作戦もありませんし」
「あ、明日演習あるよね。私も呼んで」
「……大丈夫なのか?」
歌が途切れて、干し草の束に座っているエースが屈んで覗き込むように私を見る。暫く顔を出せなかった理由をキングから聞いていたんだろう、ますますお父さんのようだ。こうやって心配してくれるのが嬉しくて、思わずにやけながら大丈夫だとがっつりうなずく。
「研究も一段落ついたし、一日で済む内容でしょ?私だって0組なんだからたまには手伝うよ」
「……ツバメ、最近元気ないだろ」
「そうかな」
「そうだぜコラァ!」
寝ていたはずのナインが飛び起きて、ヒヨチョコボと草と一緒に私に手をつき出してきて肩をがくがく揺さぶられる。呆気にとられるというか、ちょっと慣れてきたというか、諦め半分で首の運動のつもりで揺らされてみる。
「てめぇ、んな怖え顔で作戦に出てみろ。ヤル気削がれるだろうが」
「心配なんですね」
「心配なんだな」
「心配してくれるのは嬉しいんだけど……」
「な!べ、別に心配とかじゃねーし!」
ばっと顔を赤くしたナインが伏せた。
そのつんつんの後頭部にヒヨチョコボを乗せて遊んでいると、それを救出しながらエースがこちらを向く。
「ツバメ、笑わなくなっただろう。前はもっと騒ぐ方だったのに最近は静かだ。だから、まだ本調子じゃないのかと思って」
「そう、そうだ、無駄死にされても困るだろうが!」
ナインから避難してきたチョコボ逹を抱えて、クイーンの確認をとるように覗き見る。クイーンは読んでいた本に丁寧にしおりを挟んで、「ジュデッカ会戦から、ですね」とうなずいた。そうか、私、前はもっと笑っていたのか。驚くけれども、納得もする。膝の上で跳ねるヒナチョコボを見詰めて、顔を上げた。
「大丈夫、手伝わせて」
ナインに額を小突かれて、クイーンがそこを撫でながらナインを叱る。エースと顔を見合わせて、笑った。
大丈夫、私は笑えている。
13.07.16
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