きらきら星みえた
 




簡易式のテントの前は元候補生で込み合っていて、これはランチに間に合わなかっただろうかと悲観しながら列に並ぶ。携帯食料はあるけれどもあまり手をつけたくないというか、本音を言ってしまえば手作りの料理を食べたいというか。
馴染みのあるマスターの声と姿が見えるようになる頃には大量の食糧と忙しく働く従卒が見えて安心し、いつものように軽食を頼んで、素早く渡されたそれにクッキーが混じっていたことに大声でお礼を伝えてさて、と思う。
ここのところクラサメさんとの二人での遠出が多かったのもあり休暇を提案したのは私で、こうして結局は魔導院に来てみたけれども行くところは思い付かない。かといって0組の誰かを任務の邪魔をしてまで付き合わせるわけにもいかない。
今日はひとりランチか、と腹を括ったところでひらひらと揺れる手を見つけた。手のひらから順を追って赤いマント、赤いバンダナ、どうにも嘘臭い笑顔へと目を向ける。私も同じように笑い、紙袋を抱え直して踵を返し研究所へと向かった。


「いやいや待て待てここは笑顔で走り寄ってきて席空いてるかなとか恥じらいながら訊くところだろ!」

「やだよどうせナギのことだからまた任務の追加とか討伐依頼とか迷いチョコボの依頼とかの話されるのに決まってる!首苦しいからマント離して!」

「残念だがその通りだ!ほらイチゴミルクやるから話聞いてけ!」

「何でそんな貴重なものを……!」

「ふふふ、お前を釣るための餌ならたんまりあるんだ……」


なにやら物騒なことを囁くナギから離れることも戸惑われ、というよりも正直に言えばイチゴミルクにつられ、ここじゃなんだからと9組教室に招かれてしぶしぶお昼を共にする。あの日以来顔を合わせることはあれどゆっくり話すことはできていなかったのでいい機会だとは思うのだけれど、なんとなく腑に落ちなくて不満を現すようにパンにかじりついた。美味しいのでだいぶ満足した。
9組は院の中心部に近いのもあるのか損傷箇所は少なかったらしい。備え付けの机や椅子は簡易ベッドへと変貌したのか撤去されていたけれども小さな椅子は置かれているし、窓ガラスは新品を入れたばかりなのか曇りひとつない。未だに吹き抜けとなっている0組教室とは大違いだ。
そもそも他教室を覗けることなどあまりないことなのであちこちを観察していれば、「ツバメは変わりねぇようだな」と遠回しに揶揄されて笑うナギを睨んだ。


「ほらあんま会えないしさ、魔法局から任務任されてんだろ?忙殺されてるかと思えば元気そうじゃん」

「それをいえばナギもでしょう?鎮圧とかしてるって聞いてるよ」

「お?聞いてる?俺の活躍」

「リィドが心配してたんだよ。あちこちの、暗殺とかの任務ばっかりしてるって」


朗らかに笑っていたナギの顔が静かに曇り、この教室に人がいなくてよかったと思う。こういう話ができるように、というナギの配慮だとは分かるが、そんな気を使えるなら私にだけじゃなく自分の保身にも使って欲しいと思う。言っても聞いてくれないとは思うので言えないけれども。こうして、私や0組のクラスメイト達に遠慮なく話して笑顔を止めてくれるのだけが彼の甘えなのだろう。嬉しいけれど甘え方なんて他にもあるだろう、と思う。きっと彼はそれを見せてはくれないだろうがそれでも。


「お前にもそのうちいくかと思うから言っとくな。各地で物資のむらがある場所、主に白虎で内乱が起こりかけてる」

「弾圧の任務?軍じゃなくてこっちに来るの?」

「軍は元首都にかかりっきりだからな。少人数で各地に飛ばせる俺らを使いたいらしい。0組の実績も買われてるから確実に来るはずだ」

「そっか……殲滅命令とかが出ないといいけど」

「……記憶も残るし、なにより統治が優先だ。もうそんなに簡単には下りないだろ」


やはりというか仕方ないというか、昼食時には向かない話題に勤しみながらの食事は進まず、ナギからもぎ取ったイチゴミルクばかり啜りながらついでとばかりにこちらの近況報告をする。心残りの昇華のことやエネルギー代用研究の進行がなかなか思うようにいってないらしいこと、植えた花のことやら最近ようやくトンベリを撫でさせてもらえるようになったことなど諸々。あの人の研究を続けるのはとりあえずは断念したことを報告すればクオンと同じように「もったいねー」と嘆かれたけれども笑ってごまかした。


「まああれだ、お互い無事でよかったなー。突撃組の0組メンバーは全滅だったっていうしな。お前引き留めなかったら行くつもりだったんだろ」

「よく覚えてないんだけどね。こっちはこっちで死ぬかと思うくらいしんどかったし」

「ま、どっちを選んでも結果なんて分かんなかったしな」

「うん、院に残ったことは後悔してないよ。だからナギも気にしないで」


案外情に厚い友人が私を引き留めたことを気にしているのが明白で、笑ってやりながら言いたかったことを言ってしまう。こうしてなかなか会わなかったのも、やっと私を呼び止めてこうしてお昼を食べているのもきっと謝るためで、面倒な生き方をしている友人はサンキュ、と軽く言いながらも複雑そうな顔をしている。半分は私の意思だったというのにと呆れるけれども仕方ない。


「なあ、俺、」

「あ、私、今度ナギに会ったら殴ろうと思ってたんだった」

「何で!」

「忘れた!とにかく殴らせて」

「いやいや理由があるならともかく理不尽に殴られたくねえよ!」

「もろもろチャラにするから!治療もするし!」

「うわ断れねえじゃねえかそれ!」


なんだかんだ言いつつも食べ物だとかマグだとかを避難させるのを見守り、盾を構えない利き手で殴ることによりどうにかすっきりする。どこか女々しく倒れて「痛ってー!」と叫ぶナギのために詠唱していれば、複雑な表情はどこえやら快活に笑っているのが見てとれた。つられて笑って、回復ついでに起き上がるのにも手を貸した。



14.04.20



前へ 次へ
サイトトップ

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -