あれが見つかったらもう一回死ねる
 




「片付け、ですか?」

「そうだ」


こくり、とひとつ頷かれたからには聞き違いでもなくて、魔道院内での心残りの昇華だと聞いていたから納得もするのだけれども、部屋の片付け。しかも、男子寮の。私にできることはなさそうだなとふむ、と考える。それでも彼はまだ私の監視下として通しているから、院内で離れることは控えたい。昨日の今日で、個人的には顔を合わせづらいのもあるけれど、これは言っても仕方ないことだ。


「私は外で待ちますね」

「ああ、出来れば見られたくないものだ。一人で済ませたい」

「……詳細は訊きませんね」

「有難い」


重々しくうなずく彼に倣いひとつうなずいて、空き箱だとかを集めて運ぶことばかり手伝い寮の部屋の前で待機、いや監視のはずなのだけれど、ともかくは暇なのでここ数日分の報告書を書いてしまおうと久しぶりにバインダーを抱えた。研究に必要な資料とまとめて今日中にもぐりんに出してしまおう。あまり暇だと昨日のことばかり考えてしまうため資料を無駄に丁寧に梱包し、報告書も書き終わってしまってからは今やただの個人的な研究となったファントマの情報を余った紙に書きこんでいく。

昨日のことがあって、私は帰ってすぐに彼に関する資料を見返した。そこには彼の身体的特徴、性格、肩書き、簡単な経歴、そして人間関係についてが長々と説明してあった。私の名前ももちろん途中編入生として明記してあった。そうして、0組の報告書から親密な関係にあるらしいと、恋人である可能性が高いと、どこかはっきりしたいのかぼかしたいのか分からない文章で書かれてもいた。情報元はもちろん諜報部。
どうやって物証を集めたのかとかは今さらなので構わない。構わないのだけども、どうして「可能性が低い」方だったのかと恨みたくなる。せめて正確な情報か、不確定ならもっとこういっそ書かないとかして欲しかった。そんなニュアンスを汲み取るとか高度なこと私に出きるはずないじゃないか、とか、言っても仕方ないし私の失敗でしかないのだ。

文章にまとまりきらなかったものを箇条書きにメモしていれば「ツバメだ」という呼び掛けとも確認とも声が聞こえて顔をあげた。廊下の左右を確認すれば、ムツキが登り階段から顔だけをひょっこりと覗かせている。


「ツバメどうしたの?誰かに苛められた?」

「大丈夫、ちょっと書き物……ってムツキなんでここにいるの」


人のことを言えた立場じゃないが、ここは男子寮だ。普段であれば女子の出入りなど罰則もので、せめて夜中にならないとそんなことをするメリットなんて見当たらないはずなんだけれども。


「僕は火薬の配合しに来たんだ。ここは2組の多かったフロアだから今誰もいないんだよ、だからここなら怒られないで実験出来るんだ」


ぱたぱたと走り寄ってきたムツキがへへへ、と笑っていて可愛いので、物騒な会話内容は忘れて頭を撫でてあげる。体を固くした様子だけれども逃げはしないので、撫で続けたまま「そっかー」と話を戻すことにした。


「苛めかあ……うん。否定できないかも」

「ツバメ苛められたの?誰?僕が吹っ飛ばすよ!」

「うん、それもいいかも……いやいや、ムツキ巻き込んじゃ悪いよ」

「いいから一緒に行く!どこに行けばいい?爆弾いくつ?」

「でも……」

「ツバメは友達だから、友達泣かしたやつは全部ぶっとばしてやる!」


ムツキが0組に配属されたのは最近で、正直あまり話したこともなかったはずだ。前は0組の皆と一緒に話していたはずだがはっきりとは記憶に残っていない。それなのに、こんなに、険しい顔になって親身になって聞いてくれてさらには討ち入りに協力してくれるなんて。今度からお昼に誘おうと心に決める。


「ありがとうムツキ。よーし行っちゃうか討ち入り!9組今揃ってるかな!」

「9組?分かった僕に任せて!9組教室だけ潰してやる!」

「事情は分からんがよしてやれ」


ムツキと私の友情結託討ち入りは、片付けが終わってしまったらしいクラサメさんの手によって阻止されてしまった。
惜しかったような、助かったような、複雑な気持ちでムツキに目を向ければ怒っているような困っているような複雑な顔をしていた。


「ツバメと僕、お揃いだ」

「……そうだねー」

「………」



14.02.27



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