被害者一名
 




「0組にんむかんりょー。これから街を回ったら帰還しまー……あ」


通信のため顔の高さに上げていた腕を下ろし、刀を召喚して踏み出した。
もう青龍軍はこの基地を放棄した。残党は捕虜として隔離が進んでいたはずで、つまりはこの飛び出してきた青龍兵は捕虜になることを逃れた残党だろう、自棄になったのだか忠誠心が凄まじいのだか知らないけれども。ともかく、気配に気付けなかったのはこちらの落ち度だ。
高所からトレイに斬りかかった青龍兵は落下の衝撃で動きが鈍い。一気に間合いまで詰めて切り捨てれば、一撃で仕留めることができた。


「今度こそ殲滅かんりょー……ってありゃりゃ。切れちゃってるね、ツバメちゃん心配してるかもー」

「私の心配はなしですか……」

「トレイ、大丈夫か?回るの止めて帰ったほうが良さそうだな」


今回の唯一の女子メンバーであるセブンが、冷静にではあるけれどトレイを心配してそう言った。とっさではあったが致命傷を避けることはできたようだが、胸のあたりがさっくり裂けている。これで歩き回られでもしたら殺されてしまう。僕が。
患者を目の前にしたツバメちゃんを思い出して身震いしながら、セブンに加勢してどうにかトレイだけでも帰るように促すことにする。


「そうだよトレイ、僕らより体力ないんだから速く休んで治すべきだってー」

「……体力はともかく、治すのは賛成だ。その状態じゃ依頼も辛いだろ」

「腕は動きますし支障はありませんよ。依頼を片付けてからマザーに診てもらえばすぐに……」


そこまで言って、トレイが固まった。得物が長距離向きのトレイは耳がいいからなにか聞こえたんだろう。例えば、ツバメの足音だとか。
通信基地にいたはずのツバメのマントが目の前を横切り、トレイに飛び掛かるようにして引き倒す。さすがは前線を駆けた4組出身、隙のない足払いと衝撃を消す技術は鮮やかだ。すでにボロボロの制服を破り、怪我の度合いを確認して回復魔法の詠唱を始める。ツバメにはおそらく、赤面して顔を覆っているトレイなんて見えていないのだろう。怪我以外はまさに眼中にないといった様子だ。
珍しく一緒に合流しに来たらしい隊長を見て、「あれー、隊長?心配して来てくれたのかなー?」と訊いてみれば、無言でツバメを見詰めて息をついていた。あ、トレイの心配じゃなかったんだ。トレイ可哀想。
一歩離れた場所から一部始終を眺めていたセブンが、青春だな、とひとり頷いていた。この場で一番男らしい反応、な気がした。言ったらトレイが可哀想なので言わないけれど。



13.12.22



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