お互いの約束だったから
 





花束を買い求める客が増えたからと、花束の値段はフィニスの前と比べてかなり高騰していた。彼が花束を購入するのを後ろから眺め、金額に思わず息をのむ。これならいっそ危険を覚悟で街の外に採りに行くほうがいいなと一人考えるけれど、彼は値段なんて気にした様子もなく大きな花束をみっつ購入し、ついでにトンベリが気に入ったらしい真っ赤な花をこれだけは私が買ってあげる。彼から花束をひとつ受け取って、二人と一匹でお墓に向かった。
人気の増えたそこで待ち合わせていたレムと合流し、候補生の名前を伝えればレムがこっちだね、と迷いなく案内してくれた。


「思い出せなくてももぜひ供養したいって人が増えたから、案内してるうちにだいたい覚えちゃった」

「そんなにここに来る人増えたの?」

「アギトの墓標を見たいって人もたくさん来るから。ここもにぎやかになったね」


0組の戦死者のことを、総じて「アギト」と最初に呼んだのはクラサメさんだった。
それを広めたのはレムで、慰霊碑にそう刻んだのはマキナ。三人だけに通じる何かがあるのだろうけれど私には分からない。

クラサメさんが一際大きな花束を墓石の上に置くのを眺めていれば、彼の背中から二つの光が浮かび出て空にのぼっていった。


「花束を贈りたいという声と、花束をもらい損ねたという声が聞こえていたんだがな」


ひとつ余ってしまったと苦笑したクラサメさんは、罪人の合同墓標に余った花束を手向けた。知り合いがいるのだろうか、と訊きたかったけれど失礼かと思って黙っていれば、「記録の通りなら同期がここに埋葬されているはずだ」とクラサメさんが独り言のように言った。結局私には何も言えなくて、再び歩き出したクラサメさんの後ろを花束を抱えたままレムと一緒に付いていく。


「これは誰に贈るんですか?」

「アギト達にだ」


元0組教室まで戻り、たくさんの花に囲まれたアギト慰霊碑の前に立ち、促されて一番手前に花束を置いた。
レムは旗を模した慰霊碑に手を添えて、クラサメさんは立ったまま黙祷している。私はといえば素直に黙祷も出来なくて、私が付けているマントと同じ色をした旗が翻るのをただ見ていた。



遠くからの話し声に、一般人が墓標を見に来たことを知ってレムが案内をしに行った。続くように帰るか、と踵を返すクラサメさんに続こうとして、いつも私とクラサメさんの間にいるトンベリが居ないのに気付いた。周りを探すと、アギトの慰霊碑の前に立っていた。慰霊の上に登ったトンベリは、買ってあげた赤い花をひとつ供えると直ぐに飛び降りて駆け寄ってくる。あまりの可愛さに抱き上げて、そのままクラサメさんの背中を追った。いつもは嫌がるトンベリが、今日だけは大人しかった。



13.12.29



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