せつぼう
 





私はもとはただの訓練生だったのだ。
成績も平たく言えば好かったり悪かったり、とても普通だ。回復魔法に自信がある以外は特に特技もなく。
そんな私がこんなに薄暗い仕事に付いた理由と言えば、そりゃあもう0組しかない。優秀でシビアに任務をこなす癖におせっかいな0組はそりゃあ魔道院では注目されていて、会ったことがなくても名前を知っているのは当たり前なアイドルのような感覚だ。
演習で回復する機会があって、それで話すことが増えてしまってそれで……駄目だ、細かいことは思い出せない。という事は、亡くなった人がらみか、それとも目の前のこの人がらみか。

ともかく私は候補生の中では限りなく普通の部類なのだ。
だから、居眠りくらい許してほしい。

がくん、と頭が落ちて覚醒し、反射で「すみませんでした!」と言ってしまってから気付いた。ここは教室じゃない、研究室だ。叱る人もいなければ点を引く人もいない。それでも、まあ、気まずい。
とにかく記録表と時計を見比べて、何事もなかったように振る舞ってみた。


「………」

「……っふ」

「起きてたんですか!」


持っていたバインダーで顔を隠した。恥ずかしい。もう帰りたい。

いや、仕方ないじゃないか、もとからファントマ系の研究に係われる者は限られているし、今は人手がいくらあっても足りない状況なのだ。それに、彼に話を聴きだすには私が適任だという理由もあって、ここに缶詰めで、とにかく疲れたのだ。仕方ない。いや、寝ているうちに彼に逃げられてしまってはとても困るのだけれど。
逃げずにただ横たわっていたらしい彼は、笑ったことで傷んだらしい腹部の傷を抱えてじっとしている。
急いで駆け寄り、回復魔法を唱えた。


「変わりないな、お前は」


小さな呟きは、詠唱に消えてはくれなくて私の耳に入ってしまった。
それでもそれに応えることは私にはできない。私はあなたを知らないから。
三枚目に入った記録帳に、はじめて彼が口を開いたことと笑ったことを書き込んだ。



13.06.29



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