布のなか
 





この問答は何回目だろうかと、呆れ半分と尊敬半分で彼に向かって詠唱しながら当の本人の胸元を眺めた。この状態で、よくもまあ。


「このままでは鈍ってしまうんだが」

「駄目です」

「魔力はもう、大して残っていない。せめて刀を振るうくらいはできんと困る」

「怪我を治すのが先です」

「何かあったときどうする」

「私があなたを守ります」

「……ほお」


大きな傷は見た目には塞がったが、彼の一番の問題は衰弱だ。本当なら一日寝て過ごしてもらいたいくらいで、無理に起き上っていてもらいたくはないのだ。それなのに私と話すときは起き上がる彼の肩を押して、ほぼ無理矢理ベッドに横たえてもらう。
毛布を引っ張り上げると、彼が顔まで隠すようにひっぱった。


「……というか、そんな状態で闘技場なんて行ったら悪化するに決まってます、動けなくなったらどうするんですか。私が丸一日傍に居れれば回復できるでしょうが、一応は候補生なのでやることがあって無理ですし。とにかく、傷が完全に塞がるまでは絶対安静です」

「あとどれぐらいだ」

「大人しくしてくだされば二、三日です」

「……分かった」


今日も何とか彼に納得してもらえたようだ、よかった。
バインダーに治療箇所を書き込んで会話内容をうつしているとき、うん?、と首を捻った。なんか、私結構恥ずかしいこと言わなかったか。売り言葉に買い言葉というか、ノリというか……。


「さっきの、もう一度言ってくれないか」

「……はい?」

「私があなたを……」

「っわああああ!なし!なしで!」

「ツバメ」

「わあぁああ!」


監視という仕事が拷問に思える日が来るとは知りたくもなかった、と、この日の記述はぼかしておいた。楽だと思っていたかった。まあ、うん、ここに楽な仕事なんてない。



13.06.30



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