盾に
 




飛行艇の発着所を徘徊するルルサスを倒し、ファントマを抜き完全に沈黙したことの確認。ナギの本当の目的はこちらだったらしい。
ぐっと見えない糸を引っ張ることをイメージして、倒れているそれの中身をこちらに寄せる。それを引きちぎり、私の手元に引き込んだ。生肉を裂くような、とても嫌な手ごたえだ。これが苦手であまりファントマを抜くのは控えていたのだけどもそうも言ってられない。
引き抜いた三つの発光体をナギに手渡して、ルルサスを観察する。

起き上がる気配もなくそれは地面に溶けて消えた。


「……よし、実証完了。怪我人の輸送も無事済んだな」

「戦闘なら戦闘って言って欲しかったな……」

「いやあ、この人も来るなら何とかなるだろうと思ってな」


刀をしまい口元のマントを直す彼に目配せしたナギは「やっぱ書類通りすげえな」と感嘆の声を漏らす。確かに、二体はほとんど彼だけで倒したようなものだ。魔力は使わず、腕力のみで。
盾でぶん殴るしか能のない私なんか要らなかったんじゃないかとも思うが、「それじゃファントマ抜ける奴いなくなるだろ」と珍しくナギが慰めてくれた。


「でも、ファントマ抜くのだって私じゃなくてもさあ」

「いや、今魔道院は人員不足なんだ。特に専門職のやつは逃げたり最前線に送られてぽっくり死んだりな。それでなくてもファントマの認知度も扱えるものも限られているのにこの状況だ、抜けるってだけで貴重な人材だぜ?」

「嬉しくない!」

「撤退するぞ」


ふいに駆けだした彼に驚いて続くと、すぐに後ろで剣が振り下ろさせる音が響いた。もうルルサスが迫ってきたのだろう。軍令部に報告に行くと言うナギと別れて負傷者が向かったという教室に向かった。

輸送の時にも思ったが、怪我人自体は極端に少ない。襲われたものはファントマが抜かれて手遅れになる者が多いかららしかった。倒すこともできない敵に向かっていったのだからこの結果は想定内だっただろう。……それは分かるのだけれど納得はいかない。
私達なら、倒せたのに。
0組はもうすぐ神殿に向かってしまう。そうしたら、ここには戦力が極端に減る恐れがある。

治療をする間ずっと控えて待ってくれていた彼が私の背中を押した。立ったまま考え込んでいたらしい。
治療は済んだ。あとは0組の教室に戻って決断するだけだ。挨拶ももう済んだだろうし、決めて言わないと。いや、もう気持ちは決まっている。


「……あなたは、どうするんですか」


顔も見れずに訊けば、迷う様子もなく彼はすぐに答える。最初から決めていたかのように。


「ツバメの向かうところに」

「どこでも?」

「守ってくれるんだろう?」

「それを今掘り返すんですか」

「今しか使いどころがないと思うが」

「いやもう使わないで頂けるのが一番嬉しいです」

「それは残念だ」


人気のない廊下を歩きながら、決意を固めた。
私はここを守りたい。皆が帰ってくる場所を、守りたい。



13.09.11



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