既視感
 








行ったら帰れないかもしれないこと、蘇生・回復をしてくれていたドクターアレシアの行方が分からないため回復は各々で分担するしかないこと、あの怪物がルルサスと言ってあの建造物から来ていること、ルルサスを倒すにはファントマを抜けばいいこと。あの建造物に行けば、赤い空を戻す手掛かりがあるかもしれないこと。
トレイのとても丁寧な説明を聞いて、戸惑う私にエースはゆっくり考えるようにと教室で休むことを勧めてくれた。知り合いに挨拶をして、覚悟を堅めてから行くからと。それまでに決められなかったら置いていくからなとナインに半分脅されてしまった。
教室の机に、顎を乗せて考えた。私がいれば少なくとも彼らの回復の負担は減るはずで、私の得意分野を生かせられる。でも、はっきり言うと今でも戦闘自体が苦手だ。あちらに行ったらそうも言ってられないだろうし、足手まといだけにはなりたくない。
でも、ここで待っているというのも、戦う皆に失礼な気がする。
で、どちらかを今選ばなくちゃいけない、と。


「……考えたくないー」

「放棄するな」


脱力して拗ねようとしたら横からぴしゃりと注意され現実に戻された。すみません、と謝ってもう一度真剣に悩み始めると、挨拶を済ませたのか教室に戻っていたサイスがなあ、と口を開く。


「こいつ、我が物顔で教室にいるけどなんなの。ツバメの知り合い?浮ついた理由で入れたんじゃないだろうね」


顔隠してやがるし、というサイスの意見はもっともである。誰も彼のことを思い出さなかったことは想定内で、こういったことを訊かれた時の対処法は打ち合わせていた。警戒しているサイスに話を合わせていた通りの答えをしようとして、その前に彼が答える。


「少し前に彼女の世話になって身を寄せている。候補生としての経験もあるので戦力面では安心して欲しい。ちなみに、今のところ俺からの片思いだ」

「士官ちょっと異議ありです」

「へえー、そう、ふうーん」

「サイス、ちょ、聞いて!聞いて!」


だいぶ打ち合わせと違うというか、最後の一言を聞いていないというか、意味深なサイスの表情と距離感にどう言ったらいいかだとか、結局結論が出ていないだとか、クラサメさんを見て違和感だとかがないかサイスを質問攻めにしたいだとか、もう、考え疲れてまた机に伏せた。サイスからの視線が痛い。
デュースやケイト、クイーン達も戻ってきて、何やら集まってひそひそと話し合いを始めたようで、時折こちらに向けられる視線がもう恐ろしい。
うううん、と二重の悩みに頭を抱えているとまた扉が音を立てて開かれた。


「ツバメいるか?先遣隊の生き残りがもうすぐ着……」

「今行きます」


タイミングよく現れてくれたナギに半ば突進するように向かい、内心ものすごく感謝する。彼の監視をしなければいけない身なので振り返って声を掛けようとすると、察してくれた士官が立ち上がりこちらに来てくれる。それで余計ひそひそ声が盛り上がってしまったけれども。
いや、悪ノリだと分かってる。分かってるけど。
思わずへへへ、とから笑いを漏らすと生温かい目をしたナギがエーテルをくれた。あまり嬉しくない。



13.09.05



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