鼻が痛くなりました
 




皆、任務による怪我はなかった。
無かったけれど、レムの病気がもう手が付けられないほどに進行していた。魔法で治せるのは表面上の怪我だとかだけで、病気は私には治せない。情けないがこんな状況では安全な場所に運んであげることくらいしかできない。ついでに研究の書物をまとめようと奮闘していたカヅサ先輩を拉致し、レムの様子を見ていてもらえるように頼んだ。そうでもしないとこの人はいつの間にか忘れられるだろうと確信していたので。

……具合が悪いのを、前から知っていたのに。私はなにもしてあげられなかった。後悔していても仕方ないと分かっていて、それでも気持ちは落ち込んでしまうもので。
私に出来る治療を終わらせてとにかく0組に帰ろうと廊下を歩いていたら、誰かに当たって跳ね飛ばされた。そしてついでに受け止められた。


「おい大丈夫かコラァ!」


受け止めるのすら雑で、そのうえそんな声が上から降ってくれば誰かなんて明白なので、やたら厚い胸板に顔を押し付けたまま返事をすることにする。


「ナイン、ドア開ける前にもうちょっとこう、猶予を持とうよ」

「あ?おめえがどけりゃ良かったろうが。つうかレムはもういいのか」

「……できることはしたよ」


ぽんぽん、と、ナインにしてはやけに優しく頭を撫でられたので顔を上げると、エースが難しい顔をして私の頭に手を乗せていた。つられて眉間に力を込めて見返してしまう。


「レムが黙っていたのは僕達に余計な心配を掛けさせない為だ。だから、僕達は今できることをしよう」

「おう。ちょっくら宮殿に乗り込んでくらあ!」

「いえ、神殿です」

「……神殿?」


もぐりんの通信から聞いていたが、あの、魔道院の裏に出現したという建造物のことだろうか。確かあそこに向かった飛行船はすべて落ちたはずだ。思わず止めようと口を開くとナインの背後からトレイがにょっきりと出てきて「蒼龍ルシ、ホシヒメが我々を万魔殿まで運んでくれるそうです。何故かははっきりしないのが気がかりですが信用できるでしょう」と丁寧に説明してくれた。そうか、さっきのナインに対する突っ込みはトレイか。自然で気付かなかった。


「ちょうどよかった、ツバメのことを探していたんですよ」

「なんで?」


ごまかすように微笑んだトレイを見て、いいことではないのだなと構えた。ナインに促されたエースが私の頭をぽんぽんするのを止めて口を開く。


「ツバメも一緒に来ないか」


13.08.29





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