空いた手
 










いつもの教室でもぐりんや彼と一緒に皆の帰りを待ちながら、いつもの席で窓を眺める。彼は席には座らずに机にもたれて同じように外を眺めていた。ついでだけれど、もぐりんも彼の事は思い出せなかった。非常事態だというものの興味があって色々訊いてみたけれど駄目で、一応その記録をいつものように記帳しておいた。まあ、このデータが役に立つ日が来るかは分からないのだけれど。
空は赤い。そこから降る雨さえも赤く、地面は候補生たちの血がどこで流れたのかもどうでもよくなってしまうほど鮮やかな色に染まっている。
異常だった。初めてのことなのに、皆がこれがなんなのか分かっていた。
フィニスが来たのだ。世界は終わる。それは人が死に絶えるのか、この世界自体が消えてしまうのかも分からないけれど、どちらにしろ逃げられないことだ。作戦でもたくさんの人が死んで仮面の怪物が現れてもっと多くの人が殺された。怪我なら治せるのに、その間もなく殺されてしまった。私には待機しかすることがない。
回復しか取り柄がない私にはできることが見つけられない。

中心部と魔法局を隔離することでここも今は落ち着いているけれど、いつあの仮面の怪物がここまで進行してくるかも分からないし今ここには指揮するのに相応しい人材がいない。私なんかが出しゃばるシーンだとも思えず、ただ、待っていた。


「……どうしようね」

「クポ?」

「ううん、独り言。もぐりんは通信の確認続けて」

「任せて欲しいクポ!」


くぽおおお!と妙な掛け声と煙を上げ始めたもぐりんから眼を離し、また窓の外を眺める。
作戦は成功して、戦争は終わったのに。ついでに世界まで終わるなんて誰が思っただろうか。


「あいつらが帰ったら、どうする」


突然彼がそう問うたので、驚いて顔を上げた。彼は刀に手を添えたままこちらにゆるく視線を落としている。
雨音が小さく聞こえる。机にもたれて彼と話すと、いつものように話せる気がした。少なくとも、落ち込んでいた気が紛れる。

そうだ、落ち込んでいたってしょうがない。フィニスだろうがなんだろうができることをする。今までもそうしてきた。


「おかえりって言って、無事を確認します。怪我人がいたら治します。あともう一つ」


窺うように乗り出した彼に、ちょっと笑いながら顔を寄せて答える。


「研究のためにも記録を取りますので協力してください」

「……お前、カヅサに似てきたな」

「え、嫌ですよ先輩っぽいだなんて」


わりと本気でそう返したのだけれど、彼が微笑むのを間近に見て気持ちが和らいだ。
自分の急いていた気持ちに気が付くくらいは落ち着けたので、状況の確認ぐらいはしに行こうと腰を上げると、華麗に回ったもぐりんが鼻息……これは鼻でいいのか、いや、とにかく焦った様子でこちらに詰め寄ってきた。


「もぐりん近い」

「ふぐう、痛いクポ……。そ、それどころじゃないクポ!0組の皆が帰ったクポ!」


最後まで聞かずに、廊下から騒がしい気配が近付いてきたのが分かった。もう、懐かしような気がするその声を迎えようと、机をぬって駆けて扉を開いた。



13.08.24





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