前日
リフレで注文を済ませて隅のほうで待っていると、魔方陣から見知った顔が出てくるのを見つけた。そいつはにこり、と笑顔でこちらに手を上げながら近づき、私はマスターに目配せして、彼ににこり、と笑って席を立った。
「おいおいここでなんで立つんだよ!」
「だってナギが来ると仕事の愚痴か仕事の話か仕事の自慢じゃんか!」
「もちろん今日もそれが目的だ!」
「マスター、テイクアウト!あと出来たらマフィン追加!」
「なるほど場所変えるんだな、マスター、日替わりパスタテイクアウトで」
「……ツバメちゃん、諦めな」
ナギのしつこさはマスターのような民間業者にも伝わっているんだろうか。サービスだ、とマスターから差し出されたカフェオレに、余計絶望的になりカウンターに伏せった。隣にナギが何食わぬ顔で座った。教室に帰りたい。しかしお腹も減りに減っている。
「そんなあからさまに嫌がんなよー、今日は奢ってやるから」
「マスター、クッキーも追加で」
「あいよ」
「容赦ないな!」
当初の予定よりも重くなった昼食を抱え、仕方なくナギに続き魔方陣でテラスに向かった。人気のない日陰に陣取り、紙袋の中のものをベンチに広げる。よし、ちょっと気持ちが癒された。
「さて、首都攻略戦が近いわけだが」
「食欲無くなりそうな話題を堂々と持ってくるね」
「こんくらいで食えなくなってたら諜報部なんてやってらんねーって」
「まあねえ」
「さて本題。お前、あの人はどうするべきだと思う」
ハンバーガーに噛みつくのを途中でやめて、ナギに向き直りため息を吐く。私なんて末端の意見なんて通らないだろうに、私の希望を言わせるつもりなのか。確かに彼のことは私に一任されているけれど、私の意見が通るのは彼の体調管理についてくらいだ。配属だとか作戦の配置については言ったってどうしようもないと思うのだけれど。まあ、希望ぐらいは言ってみるか。珍しくナギの顔は笑っていないし。
「傷はほぼ完治したよ。魔力はどうしても戻らなかったけど、歩兵扱いはできると思う。それにあの人はまだ軍人だから、指示があれば前線に出ていく」
「さすがツバメ。仕事速いねぇ」
「元4組ですから。……まあ、でも、私は行って欲しくないな」
「どうして?」
くるくる巻かれるパスタはもう半分もない。食べるの早いと胃腸に悪いよ、と注意すればナギはもごもご噛んでなかなかシュールで面白い。面白いついでにクッキーを二つ分けてあげる。
「どうしてだろうね」
私達は候補生だ。必要があれば戦えるように訓練を積んできた。前に、隣の席の子も亡くなったこともある。目の前で、何秒かが遅れてしまって間に合わなかったこともある。0組の皆が前線に行くなら、私も皆が戦うサポートをする。戦うのは身近なことだ。当たり前のことだ。きっと、彼の記憶があった頃も当たり前に彼を送り出した、と思う。
「とにかくナギは、すぐ治るような怪我以外しないようにしてよね。治すの私なんだから」
「なんで怪我すんの前提なんだよ!」
「だってナギだし」
「その不思議そうな顔止めて」
「え?」
「いやいや、いやいやいや」
散々騒いでお茶をして、翌日に私に下った指示は魔道院での待機、および治療だった。あの人ももちろん待機。戦力が減った状態でのこの指示だ。
……なんかしたな、あいつ。
お礼を言うべきか怒るべきか考えて、作戦が成功して顔を合わせてから選ぼうと決めた。
13.08.19
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