告白
「隊長、好きです!」
テラスの下の海は荒れていて、潮騒がいつもよりも大きく付近に響いている。
その音に負けないようにか、ツバメは人気の無い場所を選んだ意味がないほど大きな声でそう言った。普段の声量が嘘のように、普段の態度が信じられないほどにその言葉は力強かった。顔は真っ赤で、そのまま倒れるなり何なりするのではないかと危惧してしまうほどだ。
眩しいな、と感じて、すぐに申し訳なさが思考を締める。彼女の感情が向く先として私は相応しくない。
「それで、どうして欲しい」
「なんにも、いらないです。知っていてください」
彼女の笑顔を正面から見たのは初めてだった。「心残りがあるのは嫌なんです」と真っ赤な顔を反らさずに笑う。その言葉と彼女の行動に合点がいった。明日は彼女が0組に配属されてから初めての作戦日だ。彼女も前線に出る予定になっている。
それに気付いてしまうと彼女の眩しさが陰るようだった。
諦めているのだろうか、自分の命も気持ちも。何時からだ、何故、諦める。放棄する。私はそんなことを教えた覚えはない。
「ツバメ」
「は、はいっ」
「今から模擬訓練を行う。付いてこい」
「はいっ?」
魔方陣に向かうため足を進めると、彼女が小走りで付いてくるのが分かった。つまずく気配がしたので足を緩め、半歩ほど下がった位置に彼女が落ち着くのを待つ。
「あの、どうしてですか」
「何がだ」
「いえ、あの、訓練です。お忙しいんじゃないですか」
「死なれては困る」
ちらりと隣を見やるとまだ顔の赤らんだ彼女の顔が目に入る。反らされないそれに少し満足して言葉を続けた。
「私が諸君に教えているのは生き残る術だ。潔く死ぬことではない。明日の作戦、なんとしてでも生き抜け」
「はい、でもえっと、」
「成績が良ければ褒美も考えよう」
「頑張ります!」
「装備を見直してきます!」と素直に駆け出したツバメを見送り、一人苦く笑う。彼女の拙い告白を、自分はただ流した。彼女は最初から答えを聞くつもりはなかったようだが、それでもあんまりだろう、良識ある対処とは言えない。
それでも、生徒が生きる要素が増えるならいい。
先に闘技場に向かってしまおうと足を進めた。
13.07.26
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