003
※年齢制限はありませんが、生々しい表現があります。ご注意下さい。
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「お待たせ…!」
「……おんっ」
駅に着くと、勝呂くんは既に到着していた。
私服の勝呂くんを見かけるのは修学旅行以来である。
深く被ったキャップから覗く彼の目は少し泳いでいる。
私もまともに彼の顔が見れない。
傍から見たら初々しいカップルのように見えてるの、かな。
だったら、ちょっと嬉しいな…
「ほんに、ええんか?その、なんだ、俺やぞ」
彼は今からする行為に対して改めて確認を取る。
むしろ、私の所為でこんな目に遭っているのだ。申し訳ないのはこちらのほうだ。
私は浮かれた気持ちをぐっと落ち着かせ、「何処にしようか」と問いかける。
「うち、ここから近いやけど、ええか?」
「うちって…勝呂くん家?え、勝呂くん家に行くの?」
思わず何度も聞いてしまった。
今、彼は自分家に行くと言ったのだ。
先ほど落ち着かせたはずの浮ついた心が、どぎゃーん!と出て来るのがわかった。
もうダメだ…明日死ぬのかな…いい事づくしやないか…
「やややや、やっぱあかんよな!?やめよ!」
「いいいい、いやいや、ええと思うよ!?場所、困るし!?」
お互いに顔を真っ赤にしながら歩を進める。
道中、何を話せばいいのかわからない。
彼は、「うちは旅館やってるさかい、従業員も家ん中おるから、なんか嫌やったらすぐに逃げてもええから」と言って顔をそらした。
私を安心させるかのように言ったその言葉は、むしろ「見られてしまったらどうしよう」という、他の悩みの種を私の中に植え付けたのだった。
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「ど、どうしましょう!?」
「ちょ、ちょっと待ってな、心の準備っちゅーもんがあるやろ…」
勝呂くんの家には勝手口のようなところから入り、急かされるがままこっそりと部屋まで通された。
ここまで人に会うことはなく、遠いところで日常の音が聞こえるが、立ち入ってくる気配はなかった。
土曜日の旅館やからね、きっと今は忙しいんちゃうかな…だと、ええな…
私たちは隣あって座り、なんとも気まずい雰囲気に飲まれてこの間のようなムードにはならなかった。
勝呂くんの症状も、先日よりは弱めのような感じがする。
私は、彼の顔をチラッと覗き見て、少し安心した。
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「あんな、勝呂くん、話があんねん。心の準備がてら、話しててええ?」
「あ、あぁ…」
私は、神社に行ってお願い事をしたということを彼に話す。
話してる最中の彼の表情は見れない。軽蔑されるだろうか、嫌われてもしょうがない、彼の身体を追い詰めてるのは自分だ。
自分の世間体や彼にどう見られるかよりも、私は、好きな人を苦しめる元凶となったことを黙していることが耐えられなかった。
「私、勝呂くんのこと…好きなんよ。せやから、勝呂くんが私のこと見てくれたらええなって思てて。ほんで、神社にお願いしたらこうなったんや。…ほんに、申し訳ないんはこっちのほうなんよ…」
私はこんな事態になったことを謝る。
彼は黙って全部聞いてくれた。
軽蔑された、だろうか。
私の事を、嫌いになってしまっただろうか。
もう、好きになってくれることはなくなっただろうか。
私はフラレることを覚悟して、全部言い切った。
彼の顔を見ることができない。
しばらく沈黙が部屋の中を包む。
そんな空気に耐えきれず、飲み続けた麦茶はすでに空だ。
数分の沈黙が、こんなに長く感じることはないだろう。
もう、耐えきれない…
帰って泣きたい…
そう思いはじめたとき、沈黙を破ったのは勝呂くんの方だった。
彼は私の肩を抱くと、耳元で呟く。
「嫌だったら止める、すぐに引き離してええからな」
そう言って彼は唇を、口づけすんでのところで止める。
私は急な展開に目を白黒させ、戸惑いを隠せずに狼狽える。
「でないと、俺、もう止められへんかもしれんぞ」
「え、勝呂く、んぐッ…」
抱きしめられながら口を塞がれることで、彼の鼓動が直に伝わってきた。
優しいキスをした直後、堰を切ったように、先日のようなむさぼり食うような口づけへと変わる。
舌を吸う彼の唇に力が入る。
絡めた舌から唾液がこぼれ、それがもったいなく感じられて、私は舌ですくい上げる。
どんどん引き込まれていく口づけに、それだけで気を失いそうになる。
しばらく口内を犯されていると、下腹部がキュンッとなる感覚を覚え、それが何なのかわかって余計に恥ずかしくなった。
「ふっ…んッ…」
激しい口づけで息を吸おうとすると声が漏れる。
勝呂くんの口づけが激しく、徐々に体重がのしかかり、私はその場に押し倒される。
「たかはし、今から変なこと言うけど、気にせんといてほしいんやけど」
「……うん」
息も絶え絶えに返答すると、彼は「お前の味、美味くてやめられへんねや」と言ってそのまま、再び乱暴に唇を奪った。
私たちは畳に倒れ込んだまま、何度も、何度も、お互いの唾液を交換する。
もしかしたら、今日、このまま…
そう思ったときだった。
廊下をドンドンと歩く音が近づいてくる。
勝呂くんは身体をバッと離して、私と距離を取る。
私も寝転がる姿勢から身体を起こし、いかにも、「今勉強してました!」を装うかのようにテキストをテーブルの上に開いた。
「坊!失礼します!」という威勢のよい声の後に、スパンッ!と勢い良く障子が開くと、そこには黒衣を着たお兄さんが座っていた。
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「廉造に聞いて参りました、坊が厄介な悪魔に憑かれてる聞いて、居ても立ってもいられず。致死節を唱えたら解けるはずやさかい、どんなんかお心当たりあればお聞かせいただけはりますか!」
「柔造…、来んの早すぎや…」
黒衣姿のお兄さんは早口でそれだけ話すと、勝呂くんの返答を待った。
このお兄さん…どっかで見たことあるような…
「柔兄ーー!置いてかんといてー、あ、のりこちゃ〜ん!来てはったんやねえ」
そうだ…!
志摩くんに面影があるんだ。
彼の口ぶりから察するに、この二人は兄弟なのだろうか。
志摩くんのチャラ付いた雰囲気はお兄さんには無いが、顔を見比べるとやはり似ている。
志摩くんと目が合うと、彼はニマアっと意地悪な笑を浮かべ、「のりこちゃん、御髪が乱れてはるよ、何してたんー?」と耳打ちしてきた。
コイツ…わかってるんやないか…
私は手ぐしで髪の毛を整えて、姿勢を正す。
「教科書も逆さになっとんねー何してたんー?」
「も、もうええやろ!志摩くん近いねん!」
「クォルアアアア廉造!坊の彼女さんに何失礼なことしてんねやあああ!!!!」
柔造さんが怒鳴ると、志摩くんはサッと立ち上がり、すぐに部屋を出ていった。
「たかはし、さっき言うた神社に連れてってもろてええか?」
勝呂くんはそう言って立ち上がる。
とんだ邪魔が入ったことをちょっと残念に思いつつも、私は彼の言葉に頷き、柔造さんに「学校のほうまで、ちょっと歩きます」と言って荷物をまとめ始めた。
また、機会はある、よね…?
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キスシーンを書いてるときの私「キース!キース!!」
次で完結させるつもりです。
もうちょっとお付き合いのほど、よろしくお願いします。
リクエストあれば、そのうち続編や番外編なんぞも書こうかなと思っています!
原作沿いでなければ時間軸融通聞きますからね!書きやすーい!