002

※年齢制限はありませんが、生々しい表現があります。ご注意下さい。

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『勝呂竜士、お前はのりこの唾液を飲め』

そう言ってのけたキューピッドをあ然と見つめる。

唾液を、飲め?
私の唾液を、勝呂くんに飲ませる…?

「「はああああああああ!?」」

大声を出した所為か、勝呂くんは盛大にむせて、そのままベッドに倒れ込んだ。
「あかん、立ち眩みや…ほんにどないなっとんねん…」と言って呆然と天井を見つめる彼。

『願いは叶えた。直接飲ませないと意味は無いから』

そう言って、キューピッドはパッと消えてしまった…

「え、うそ、消えちゃった…どうしよう…、嘘でしょ…」

どうして良いかわからず、狼狽える。
変な汗が出てきた。

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保健室には二人きり。

外からは、部活動をしている生徒の元気の良い声が聞こえる。

勝呂くんはベッドに倒れ込んだまま、息も荒く、何も言わない。
あのキューピッドが言うことが確かなのであれば、私は、彼に唾液を飲ませなければならない。
しかも、直接。

そうしなければ、彼はこのまま謎の症状から開放されない。

私は意を決して、勝呂くんに覆いかぶさる。
ギシッとベッドがなる。

「たかはし…?」

勝呂くんは意識朦朧としている。
息絶え絶えの声で名前を呼ばれ、不覚にも、ドキッとしてしまう。

「勝呂くん、ごめん」

これはきっと、私の所為だ。
私が、あんなこと願ったから。
欲張った私への罰は、大切な人を傷つけてしまうことだった。
こんな弱った彼を見たいわけではなかった…

私は耐えきれない雰囲気をなんとか我慢し、ゆっくりと彼に顔を近づける。
そして、彼を押し倒したまま、唇に軽く、口付けた。

少し柔らかい唇で押され、熱い舌を口の中へと放り込む。
唾液を少し垂らして、すぐに顔を離そうとした…

が、頭を掴まれて再度口付ける形になる。

「……ん……っ!?」

今度は勝呂くんが、私の口に激しく舌をねじ込んだ。
私の唇を貪り食うように、カーテンで仕切られた薄暗いベッドの上で、深い、深い、口づけをされる。

息を吸う暇も無いほど、勝呂くんの舌に私の咥内は隅々まで舐められる。
力が抜けて抵抗できなくなってしまう。

どれぐらい時間が経ったのだろう…

長い時間深く口付けられて、私は腰も砕けて勝呂くんの項に頭を埋めて寄りかかる。
ほんの軽いキスのつもりだったのに、強引に舌を捩じ込まれてしまった。

頭がぽーっとする。

肩を掴まれて、ベッドの上に仰向けにされる。
不意にまともに見た勝呂くんの顔は真っ赤で、私もきっと、同じ顔をしているのであろう、気恥ずかしくてたまらないといった表情をしていた。

「なんや治まった…。たかはし、ほんにすまん。途中、意識トンでたわ」
「いや、大丈夫…」
「ほうか…」

気まずい雰囲気が二人の間で流れる。
すると、勝呂くんは床に両手を付き、頭を下げて「ほんに申し訳ない!!!!」と謝り始めた。

「どどどどど土下座!?勝呂くんあかん!ねっ!やめよ!大丈夫だから!!むしろ、ね、私こそごめん!?」
「いや、いや…、あかん、女やぞお前、こういうのはあかんのや、ほんに申し訳が立たん…」

床に頭を打ち付けて、何度も謝る彼を説得して、なんとか顔を上げてもらう。
相変わらず目は合わせずに、視線をそらす彼の顔は真っ赤に染まっている。

「すすす勝呂くんは、まだ、休んでて…。私は教室に戻るから…!」

そう言って急いで保健室を出て、廊下を全速力で駆ける。

私の願いは、とんでもない形で、聞き届けられてしまった。

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「お願いします、願いはもういいです!結構です!もう、ああいうのやめてください!」

今日は早く起き、夏期講習参加前にと朝イチで神社に乗り込んだ。
心当たりのある、8番目の祠にお願いする。

きっと、変な願いをしてしまった所為だ。
今後、もし、同じようなことが起こったら、勝呂くんは憔悴しきってしまう。
そんなの、ダメだ…!

「別にそうゆうのは、いらんのや!」

ちょっと強めに言うと、目の前にパッと、昨日出会ったキューピッドが現れた。
きっと、きっと、コイツの所為であんなことになってしまったに違いない…!

「ちょっと、アンタ、キューピッドなのか悪魔なのかは知らんけどな、私の願いはそーゆーこと違う!」
『おお、おお、ちょっと強気に来たねえ』

キューピッドはふわっふわっと辺りを飛び回り、目の前の祠に着地をして座った。

『契約をけしかけてきたのはそっちでしょ?「私無しじゃいられないように」って。「私でいっぱいになりますように」って!キャハハハッ!たーのしー!』

こいつ、悪魔だ…絶対キューピッドなんて嘘だ…
人の恋心を弄んで、楽しんでるんだ。
勝呂くんとは気まずさのあまり、あの後はまったく目を合わせていない。
むしろ、教室に戻ってきた彼の姿を一切見れないでいた。

もう、恥ずかしすぎて、消えてなくなりたい…

『すごいねえ、すごいねえ、キミたちまだ十五年しか生きてないのに、獣のように貪りあってたよお。いいねえ、飢えてるねえ』
「や、やめて…!」

昨日のキスを思い出して顔が赤くなる。
キス自体初めてしたのに…、あんな、あんな激しいものだなんて、穴があったら入りたい。

『剥き出しの欲情、アタイはそれが見れて楽しくて堪んないよ。また頼むよ、のりこちゃん』

そう言ってキューピッドは消えていなくなってしまった。

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「なあ、たかはしちょっとええか」

今日も一切、勝呂くんの姿を見ずに一日を過ごした。
それに安心しつつも寂しい思いだ。
早々に帰ろうとしたところ、自転車置場で勝呂くんに呼び止められる。
いつも一緒の志摩くんや三輪くんは辺りに見当たらなかった。
彼らも先ほどまで同じ教室にいたはずだが…

私は彼の顔を直視できず、黙ってたたずむ。

「あのな、昨日のアレ、ありがとう。おかげで昨夜はなんともなかったわ」
「そ、そうなんだ…よかった…」

お礼を言われるだなんて思いもよらず、私はチラッと彼を見る。
すると、彼とばちっと目が合い、お互いにそらしてしまった。

「じゃあ、そんだけやから」と言うと、彼は足早に立ち去ってしまった。

あー、あーーーーーーーあ、
もっと、なにか、うまく言えたんやないのか、私!

私はがっくしと肩を落とし、自転車を引く。
こりゃ夏のうちに告白はハードルが高すぎるなぁ…無理や…

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ブブブブブッ…ブブブブブッ…

今週の講習分の復習をしていると、見慣れないナンバーがケータイディスプレイに表示された。
今日は土曜日。講習はおやすみだ。
きっとまた友人の誰かが番号を変えて知らせてくれたのだろう、そう思って放置した。

ブブブブブッ…ブブブブブッ…

少し置いて、また鳴るケータイのバイブ音に痺れを切らし、通話ボタンを押した。
遊びの誘いならば、今はそんな気分でもない、断ろうと思いながら「はい、たかはしですけど」と出た。
すると、受話器の向こう側から聞こえてきたのは「のりこちゃーん!げんきー?志摩さんどすえー」というなんともから元気な声だった。

「志摩くん?番号知ってたの?」
『いややわー、前に教えてくれはってん。忘れてもうたん?寂しいわぁ』
「あはは、ごめんごめん」

「何の用?」と尋ねると、彼は『ちょっと待って』と断りを入れる。
なにやらゴソゴソと雑音が聞こえ、その後には電子音でも間違えるはずのない、片想い中の彼の声が耳に届いた。

『たかはし、急にすまん…』
「え!…勝呂くん、だよね…?」
『連絡先知らんさかい、志摩に繋いでもろたんや。堪忍な』
「別に大丈夫…です…」

急な出来事に言葉がおかしくなる。
彼は控えめに事情を話すと、本題に入るようにゆっくりと話し始めた。

『あんな、この間の、アレがまた来てん。せやから、なんちゅーか…』

ほんに…?
もう、来なければいいなあとは思っていたが、さっそく来てしまったようだ。
きっと彼の傍には志摩くんがおり、話しづらいことを察する。
私は少しの絶望と深い罪悪感と淡い期待を同時に抱く。

彼が、私の所為で苦しんでいる…。

「うち、長谷町の方やから。今から駅まで行くわ」
『…ほんに助かるわ、よろしゅう』

私は通話を切ると、一瞬呆けた後、瞬時に行動に移す。
汗臭いかもしれないと思ってシャワーを軽く浴び、着替え直す。
ボサボサの髪型にクシを通して整髪剤で整える。

必要なものをハンドバッグに詰めて、ダッシュで家を飛び出した。

彼をあんな身体にしてしまったのは私の所為だ。
しかし、休日に彼に逢えるという嬉しさは何ものにも変え難く、抱いていた罪悪感に少し蓋をしたくなったのだった。

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京都弁むつかしいよー
添削必要なところあったら指摘してもらいたいですm(__)m

キスシーンを文章に起こすのは、難しいですね。
キスだけの表現のボキャブラリーって…
することしてくれたほうがやりやすいわ←

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