006(悪魔召喚)

「くまがい、くるみさん…!」
「はい?」
「放課後、時間あるかな?」

昼休み、出雲ちゃんとベンチに腰掛けて焼きそばパンを頬張っていたところ、
男子生徒から声をかけられた。

少しであれば時間つくれる旨を伝えたところ、「じゃあここに来てね、待ってます」と言って駆け足で去っていった。
これは、これはもしかすると、

「「呼び出しキターーー!!!」」
「あ、ハモっちゃったね」
「ちょっとくまがい!今の人、2年生の佐藤星也じゃない!?軽音部の人気ボーカリストよ!」

出雲ちゃんは興奮して私に詰め寄る。
こういった色恋ごとには関心の無い子だと思っていたけれど、そうでも無いらしい。
彼女のデータベースによると、私を呼び出した彼は2年生の佐藤星也先輩。
入学生歓迎会で演奏していたバンドのギター・ボーカルとのことだ。
たしかに、バンド演奏中の盛り上がりは凄まじいものだったが、なるほど、あのルックスじゃ
モッテモテだわ…

「どうすんのよ!」
「どうもなにも…イケメンだけど…知らない人だし、そもそもバンドマンって地雷だよね、3B」
「…3Bってなに?」

3Bが通じない…だと…?
バンドマン・美容師・バーテンダーはやめとけっていう、あの暗黙のルールなんだけど…
「もしかして、死語?」と言って説明すると、出雲ちゃんは「あんたたまにおかしなこと言うわよね」と言って
呆れられた。

「いやほんと、特に美容師とかやばいんだって!すぐ浮気するんだよ!」
「まるで付き合ったことあるかのような言い方だけど、くまがいはこれまで何人と付き合ったことあんの」
「えっと…4人、かな?」
「はぁ!?4にんん!?いったいどんな中学生だったのよ!」

し、しまったーーー!
あんなに気をつけていたのに、誘導されるがまま本当のことを答えてしまった…

「えーーー!くるみちゃん早熟やーん!」
「うそでしょ!なんつータイミングで志摩くん聞いてんの!?」

声がした方を振り向けば、志摩くんがウキウキした表情で立っていた。
よりにもよって…面倒くさい人に聞かれてしまった…
嘘を重ねるのは忍びないけど、ええーい!仕方ない!

「じ、じつは中学1年生のときに1人、中学2年のときに2人付き合ってて、その後に20歳の美容師と付き合っててね…全部長続きしなかったんだぁ、あはは、あはははは」
「はぁー、あんたモテるだろうなとは思ってたけど、すごいわね」
「ほんで気取らない感じがええなあー」

社会人になってから、なんて言えるわけがない。
中学生にギュッと詰め込んだ分、早熟ガールの設定が出来上がってしまった。
美少女フィルターのおかげで、なんとか信じてもらえた模様。
設定を貫き通すの、めちゃくちゃ苦労するなあ…

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「夏休みまでそろそろ1ヶ月半切りますが、夏休み前には今年度の候補生(エクスワイア)認定試験があります」

奥村先生はそう言いながらプリントの配布をおこなう。
夏休み前に、今年度の候補生認定試験があり、それの参加希望をあらためて取るという。
さらに年明けには、祓魔師認定試験が控えている。
ここまで流されて来てしまっただけに、本気で目指すべきなのか少々悩ましくもある。
せっかくの異世界ならではの職業、選んでおいたほうがいいのかなあー

「…そこで来週から一週間、試験のための強化合宿を行います。合宿参加するかしないかと、取得希望“称号(マイスター”をこの用紙に記入して月曜までに提出してください」

問題は、これ。
称号を何にするか決め兼ねている。

「くまがいさんは決まってはるん?」
「いやー、実はまだ決め兼ねてて…」

三輪くんからプリントを受け取り、決まっていないことを打ち明けた。
そこへ奥村くんが寄ってきて、「“称号”って何だ?教えてくれ…」とおずおず尋ねてきた。
あ、これはヤバいと思い勝呂くんを見やると、案の定、不機嫌丸出し。

「そんなんも知らんで祓魔師なるいうてんのか!たいがいしいや!!」
「ははは、奥村くんてほんに何も知らんよなあ」

ここまで無知だと呆れるしかない。
奥村先生の苦労が垣間見えた気がした。

「僕と志摩さんは“詠唱騎士(アリア)”目指すんやよ」
「坊は詠唱騎士と竜騎士(ドラグーン)二つも取るて、また気張ってはるけどな」
「へー、さすが坊!」
「勝呂や!なん気易く坊いうてん、許さへんぞ!!」

勝呂くんは京都組以外に坊と呼ばれることを嫌がる。
お寺のお坊っちゃんって意味なのかな?
三輪くんに「いつからそう呼んでるの」と聞けば、「物心ついた頃には」と答えられた。

「くるみはどれにすんだ?」
「私はまだ決まってないんだよねえ。奥村くんはいつも剣背負ってるよね、騎士(ナイト)志望になるんじゃない?」
「騎士?とか、竜騎士てなんだ?」
「あーーもう!難儀な奴やなぁ!!」

なんて面倒見のいい坊っちゃんだ…
勝呂くんの説明を聞いた奥村くんは、さっそく騎士に丸を付けた。

私も、早く決めなくちゃなあ。

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「くるみちゃんー!出雲ちゃんから聞いたよ!軽音部の佐藤先輩に呼び出されたんでしょ!?」

朴ちゃんが興奮気味に詰め寄って来た。
彼女は今日、同じクラスの子とお昼を食べる日であり、昼休みを別に過ごしていた。

塾の休憩時間、チャンスとばかりに女子二人に囲まれた。
「そういやどうだったのよ!行ったんでしょ」と、塾が始まる前に佐藤先輩と会っていた事の報告を求められた。

「それそれそれーー!俺も気になるぅー!」
「馴れ馴れしく入ってこないでよ!」

志摩くんも会話の輪に入り、出雲ちゃんがあからさまに嫌な顔をする。

「お付き合いを前提に友達になってって、連絡先交換しちゃった」
「「「それでそれで!?」」」
「来週、一緒にショッピングしようってことになりました…!」
「「「おぉーーー!」」」

「それってデートじゃない!きゃー!」と興奮した出雲ちゃんに揺さぶられる。
イケメン、しかもスクールカーストの上位であろう、軽音部のボーカリストに告白ともとれることをされる
経験をしてしまった…
思い出すとドキドキしてしまう。

付き合うとかは、まだ考えられないけれど、
というか、こういった人とは違う、色々な事情を抱えている私が恋人を作って恋を楽しむなど
してもいいのだろうか。

ちょっと相談できる相手が欲しい。

「あ、いたわ、相談相手」

「困ったことがあればここに連絡を」と言って渡された名刺を思い出す。
フェレス卿であれば、私の事情もわかっていることだし相談してもいいかもしれない。
彼が真面目な回答をくれるかどうかはさておき。
期待はできないが、連絡するだけしといてもいいだろう。

「ちょっとトイレに寄ってから教室向かうね、先に移動しててー」

そう言って3人から離れると、メールを打つべくケータイをポケットから取り出した。

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「これから悪魔を召喚する」

ネイガウス先生が召喚の詠唱を説くと、硫黄の臭いが辺りに立ち込み、屍番犬(ナベリウス)が現れた。

「悪魔を召喚し、使い魔にすることができる人間は非常に少ない。悪魔を飼い慣らす強靭な精神力もそうだが、天性の才能が不可欠だからだ」

先ほど配られた略図に目線を落とす。
針で血を垂らし、思いつく言葉を唱えるのだ。
これで、手騎士(テイマー)の才能があるかどうかがわかる。
試してみて、だめだった場合、さらに進路選択に頭を悩ますこととなる…

「今からお前たちに、その才能があるかテストする」

出雲ちゃんが一歩前に出た。

「“稲荷の神に恐み恐み白す”」

印章紙を2枚振りかざした彼女は、詠唱を始める。
途端、辺りに風が巻き上がり二体の白狐を呼び出した。

「す、すごい…」
「白狐を二体も…見事だ、神木出雲」
「すごい…出雲ちゃん…私、全然ダメだ」
「当然よ!私は巫女の血統なんだもの!」

彼女はそう言って得意気に胸を張った。
その様子を見て、しえみちゃんが目を輝かせる。

「わ…私も!おいでーおいでー!」

詠唱じゃなくともいいんだ!?
一見、何も起こらない様子に「なんちゃって…へへ」と彼女ははにかんだ。
しかし、瞬間、印象紙に異変が起きた。

ポンッ

「二ー!」

小さくて可愛らしい、マスコットのような生き物が現れ、しえみちゃんの手に着地した。

「それは緑男(グリーンマン)の幼生だな。素晴らしいぞ、杜山しえみ」
「しえみちゃんまで…すごい…!」

同級生が次々と成功していく。
私もやってみるしか、ない!
しかし、なんと詠唱を唱えればいいのかわからない。
印章紙に再び目を落とす。

「なんて唱えればいいの…」

そう言った途端、視線を感じてふっと顔をあげると、出雲ちゃんが召喚した白狐と目があった。

「えっ…あの、なにか…?」
『娘、それはいつからついておる』
「は?」

この狐…喋れるんだ…
唖然と彼を見ていると、こちらへ近寄って私を中心にくるくると回り始めた。

「ミケ?どうしたのよ…」

呼び出した本人である、出雲ちゃんも首を傾げてこちらを見る。
白狐が正面で足を止め、私と向かい合った。

途端、鼻の先にスカートの裾を引っ掛けて、くいっと持ち上げた。

「え、えええええええ!?」
「「「ぶぉーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」
「ちょっとミケェエエエエエ!?」

「あんた何してんのよ!」と出雲ちゃんが顔を真っ赤にして叫ぶ。
私は咄嗟のことに、抵抗することを忘れて脱力状態。
周りの同級生らも吹き出しながらも、見ないように顔を背けてくれた。

『めずらしい悪魔と契約しているではないか』
「え?契約…あ…」

ーーー「彼はあなたに呼ばれないかぎり物質界には来れない」

前に、フェレス卿が言ったことを思い出す。
呼べば、いいのか?

「…くまがい くるみ、ちょっとその印章を見せてみろ」
「え、あ、はい…って、え?」

ス、スカート捲ってみせろつったのか、このおっさん!

「訴訟もんやぞ…」
「ばかもの、勘違いするな。それが印章の役割を成しているならば、何と契約しているのか確かめられる」

たしかに、それは確かめたい。背に腹は代えられない…!

「はいっ…!」
「「「ぶぉーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」

恥じらいを捨ててスカートの裾を持ち上げた。
ぎりぎりパンツが見えていないことを祈る…!
ネイガウス先生もセクハラ発言をしたものの、気を使ってくれてチラッと見るだけで視線をすぐはずした。

「職権乱用や…魔法円・印章術の受け持ち権限で女子高生に淫行はたらいとる…」
「ほんに正十字学園は…もっとまともな教師採用しいや…」

ネイガウス先生は少し考える素振りをした後、目線を私に合わせた。

「それはユニコーンとの契約印の可能性がある」
「ユニコーン…!?とても獰猛な悪魔で、召喚できる人はほぼ皆無と言われている上級悪魔!くまがい、あんたそんな隠し手駒持ってたの!?」
「隠し手駒なんて…あはは」

食い気味の出雲ちゃんに言い寄られて少し後ずさる。
なるほど、ユニコーンだったのか。
おそらくフェレス卿はわかって教えてくれなかったんだろうな、と寮で出会ったときのことを思い出した。

「そっかぁ、ユニコーンだったんだぁ」

馬にしては小柄なボディ、ふさふさの尻尾、生えている一本の角。
私は針を刺した人差し指で、印章の刻まれている足の付根に血を付けた。

「ユニコーン、来て!」

とりあえず、呼べばいいと言われ声を上げると、辺りに風が巻き上がり、
目の前にユニコーンが現れた。

『くるみ!ようやく呼んでくれた!僕、ずっと待ってたんだから』

ユニコーンはそう言うと、私の身体に自身を擦りつけた。
人懐こい様子に拍子抜けする。

「獰猛な悪魔?こいつがか?」
「…本にはそう書いてあるわ」

奥村くんが何故か多少がっかりしてユニコーンを指差す。
「もっとゴツいのが出てくんのかと思った」と言う奥村くんに目を向けたユニコーンは顔をしかめた。

『お前、何者だ。くるみに近づくなよ』

牽制とも取れるその態度に疑問を抱きつつ、導かれるままにたてがみを撫でた。
ふさふさの毛はするすると指に通り、触り心地が良い。

『もー!また何十年も呼んでくれなかったらどうしようかと思っちゃったあ』

「そうだね!?きっとこれまでの契約者も気づかない人は多かったよね!?」と、転生前のことを慌てて誤魔化しながら、
私は授業を続けるように、ネイガウス先生を促した。
先生は悪魔を使役する際の注意点を述べ、授業を終わりにした。

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ヒロインをこの世界に呼んだのは、ユニコーンでした!
ユニコーンは処女厨です。

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