005(体育授業)
「新しい塾生の杜山しえみさんです」
「よ…よろしくお願いします」
着物姿の可愛い女の子がモジモジしながら教室へ入ってきた。
既に塾が始まって数日が経ったが、途中参加も有りなようだ。
彼女は奥村くんと知り合いらしく、彼の隣の席に座った。
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「朔子ちゃん、出雲ちゃん、おはよう!」
平日の朝、食堂で二人を見かけて声をかけた。
食器を片付けて学校へ向かうところだった。
ルームメイトたちは皆、なにかしらの運動部に所属しており、既に朝練に参加していると言って先に出ていた。
「くるみちゃんおはよー」
「おはよう」
出雲ちゃんも慣れてくれたのか、はじめのような刺々しい雰囲気は少し柔らかくなった。
クラスも三輪くんと私と同じく1-A。
自然に会話をする回数は増えていった。
「くまがい、髪の毛そのままで学校行く気?」
「へ?うん」
「ちょっと座って」
出雲ちゃんは箸を置くと、「そっち向いて」と言って私に背中を向けるように促すと髪の毛を編み始めた。
「せっかくキレイにしてるんだから、たまには結いなさいよ。朝は特にボサボサで気になる」と文句をブツブツ言いながら、
彼女は編んだ髪の毛を結い上げていく。
「出雲ちゃんが…デレた…」
「はぁ!?デレたってなによ!し、しずかに座ってなさい!!」
思った以上に早く慣れてくれて笑えてくる。
可愛らしいなあ。いいなあ、若いって。
「もう、素直じゃないんだから」といって朔子ちゃんが笑う。
手鏡を使い、編み込みを作ってもらったサイドポニーテールをさまざまな方向から確認する。
「えー、すごーい!こんな髪型に凝ったのなんて何年ぶりだろー!普段はまとめて終わりだからなあ」
「何年ぶりって…あんた年頃でしょう」
「あー、えーと、めんどくさがりでね」
あぶないあぶない、年寄りくさい発言禁止。気をつけないと怪しく思われちゃう。
女子高生に髪を結ってもらえる身分…よい…
結ってもらえた髪型に機嫌を良くし、3人で学校へと向かった。
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「なんやと!」
魔法薬学の授業、小テストの返却中に勝呂くんの怒声が響いた。
手元のテスト用紙から顔を上げ、声のした方へ目を向ける。
「塾におんのはみんな真面目に祓魔師目指してはる人だけや!お前みたいな意識の低い奴、目障りやからはよ出ていけ!!」
「な…何の権限でいってんだこのトサカ!俺だって、これでも一応目指してんだよ!」
授業中にも関わらず、教壇の前で勝呂くんと奥村くんが言い争いをしていた。
「あかん…」と言って、三輪くんと志摩くんが駆け寄り、今にも掴みかかろうとしているところを止めに入る。
なんだなんだ、ケンカか!?
他の生徒はその様子を呆気に取られて見ていた。
キーンコーンカーンコーン
「今日の授業はここまで」
奥村先生がそう言って、生徒たちに教室から出るよう促す。
この年頃の男の子は、すーぐ熱くなるなあ。
少し呆れながらも、興奮冷めぬ様子の勝呂くんに近寄った。
「勝呂くん、次の授業体育実技だから早めに移動しないと。奥村くんも、着替えなくちゃ」
「…チッ!行くぞ、志摩、子猫丸。」
苦笑する志摩くんと三輪くんを連れて、勝呂くんは教室を出ていった。
「あいつ、すっげーまともなこと言ってた…」
ぶーたれてる奥村くんを見て思わずプッと吹き出した。
「ふふっ、勝呂くんって見た目に反して真面目だよね。私も最初はうわっヤンキーだって思っちゃったもん」
「だろ!?くるみはあいつらとも仲いいよな。俺にも学校で会うと手振ってくれるしよ」
「私、あんまし人が自分をどう思うかーとか、気にしてないから」
適当にごまかして答えたが、たぶん歳の所為だろう。
年齢が上ると、ある程度常識範囲内の社交性がついてくるようにできているのだ。
大人になってからも変わらない人は変わらないが、個人に対してはそうそう悪態なんてつくものではない。
感情丸出しで人と関わる彼らを見ていると、反射的に「若いなあー」と口から出そうになってしまっているのを
必死で抑えている。
「しえみちゃんも、早く着替えたほういいよ。じゃあ奥村くん、また後でね」
奥村くんの隣で一言も発さずに固まっていたしえみちゃんにも声をかけた。
彼女は「あわわ」っと言いながら私の発言に対して頷いた。
チラチラとこちらの会話を伺い、そわそわとしたその仕草。
こちらに興味はあるが、少し人見知りを拗らせているような女の子だなという印象を抱いた。
「くまがい、あんな奴ら放っておけばいいのに」
「んー、いやー、放っておけないでしょ、あれは」
悪態をつく出雲ちゃんをなだめて、朔子ちゃんと3人で教室を出る。
体育実技の授業を控えているので更衣室を目指した。
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「はは…坊もけっこう速いのに、やるなあ、あの子」
体育実技は、呼ばれたら2人づつ競技場に下りて悪魔の動きに慣れる授業だった。
蛙のような見た目の悪魔は、蝦蟇(リーバー)というらしい。
そんな悪魔と向き合うことがこの授業の目的なのだが、現在参加中の勝呂くんと奥村くんは
まるで徒競走の如く、競い合っていた。
案の定、目的を履き違えている二人は先生に注意を受けていた。
またしてもケンカになりそうな様子に、志摩くんと三輪くんが止めに入る。
「男子って本当にバカ」
「あはは」
これは擁護しようがない。
「注ゥ目ゥーー!しばらく休憩にする」
先生が声高らかにそう告げる。
「いいかネ!基本的に蝦蟇は大人しい悪魔だが、人の心を読んで襲いかかる面倒な悪魔ナノダ!」
「私が戻るまで競技場には降りないように」そう注意して、先生は駆け足へと何処かへ去っていった。
「今行くよ、子猫ちゃーん!」と言っていたが、まさか授業中に私用…?
いったいこの塾はどうなっとるんだ…
「なんやあれ…!あれでも教師か!!」
勝呂くんが憤怒の表情で椿先生の背中を睨みつけると、奥村くんに向き合って嫌味ととれることを言った。
歯止めが効かなくなり、根比べを持ち出した。周りの静止の声すらお構いなし。
「俺はやったる…!お前はそこで見とけ!腰抜け!」
「坊!」
「おい…やめとけ!」
「ちょっと本気…?」
「どーせ引き返すでしょ、バッカみたい」
勝呂くんは先ほど居た競技場に向かって踵を返すと、折から出ていた蝦蟇に向かい合った。
あんな近くに立って…うそでしょ、え、あれ、大丈夫なの…?
「俺は…サタンを倒す!」
「プ、プッハハハハハハ!」
野望と取れるその宣言に、周りの生徒たちを呆気にとられた。
「あはは!子どもじゃあるまいし」と言って笑う出雲ちゃんの声に動揺したのか、勝呂くんの拳が強く握りしめられた。
途端、蝦蟇の瞳の色が変わった気がした。
それは気のせいではなかったらしく、蝦蟇は「ゲボオオオオ」と鳴き声を上げ、目の前の勝呂くんに飛びかかった。
「勝呂くん!」
「坊!!」
瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。
「燐!」と叫ぶしえみちゃんの声で、それが奥村くんだとわかった。
一瞬、「この距離、無理」と思ったが、目の前の光景はその考えを吹き飛ばす。
蝦蟇に噛まれる奥村くん、
女生徒たちの悲鳴が競技場にこだました。
蝦蟇はゆっくりを口を開けて奥村くんを開放すると、遠慮がちに後退して座った。
その様子を見て安堵の声が出た。
「いいか、よーく聞け!」と言う奥村くんの声が大きく競技場に響く。
「サタン倒すのはこの俺だ!!!!てめーはすっこんでろ!」
は…?
え、そうゆうこと…じゃなくない?
彼がそう言うと、勝呂くんも言い出して言い争いが始まった。
おねえさんびっくりしちゃったよ…若さってすごいな…
なにはともあれまぁ、無事なようである。
少し気が抜けた。
仲睦まじい彼らの様子に、無意識に口角が上がっていた。
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ヒロインはやはりまだお姉さん感覚が抜けません。
そろそろ魔法少女設定を徐々に出していきますよっ