004(入塾)

「あんた、さっき魔障受けてる人で手挙げてたけど子鬼のこと見えてたわよね」
「実は、魔障がなんだかわかってなくて」

「面目ねえ」といって笑うと、「そんくらい前もって勉強してなさいよ」と言ってそっぽを向かれてしまった。
なんだなんだ、難しい子だな…

「魔障っていうのはね、悪魔から受ける傷や病のことをいうの。これを受けていると、悪魔のことを見れるようになるんだって。私はまだ受けていないから見えないけど、さっきのあなたの様子見てると魔障受けたことあるみたいだね」

「私は朴朔子、よろしくね」そう言って彼女はニコッと微笑みかけてくれた。
朔子ちゃんは隣に立つツンとした少女、出雲ちゃんと小学生の頃からの友達らしく、祓魔塾へは誘われて一緒に入ったらしい。

「よろしく!くまがい くるみです。えっと…出雲ちゃん?もよろしくね」
「…よろしく」

ちょっと愛嬌に欠けるが、まぁこれも可愛らしく見える。

教室の扉の向こうからは、
奥村先生の銃声と、一緒に残った少年との怒鳴り声、そして子鬼の騒ぐ音が聞こえる。
子鬼の鳴き声を聞いて、先ほど目の前まで迫っていたことを思い出し身震いした。
あれを悪魔の一種というのだから、きっとまだたくさんの種類がいるのだろう。

私は魔障を受けている、らしいが、心当たりがない。
悪魔に傷をつけられたことなんて…

ん?あれ、いや…?

「あるわ…あいつ悪魔か…」

目線を落とし、自分の太もものあたりを見る。
昨夜踏まれた痕、あれはきっと悪魔に踏まれてできた傷。
であれば、先ほど子鬼が見えたことに合点がいく。

こいつぁ、てーへんなものをつけられたもんだわぁー
今後もあんな恐怖体験をするのかと思うと気が滅入る。

ガチャッ

「すみませんでした皆さん。別の教室で授業再開します」

静かになった教室から奥村先生が出てきた。
無傷な様子の先生に少し安心しつつ、私たちは教室を移動した。

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「教材多いねー」
「くるみちゃーん!少し持ったげてもええよ」

本日の授業は終了した。
今日の受講分の教材を担ぎ、教室を後にすると志摩くんが駆けて来た。

「ありがとう、でも持てない量じゃないから。かばんに入っちゃうし」

そう言うと、志摩くんは「ほんに?」と念を押しつつ隣を歩く。
明るい茶色に染まった志摩くんの髪の毛は、光の当たり方でキレイなピンク色を跳ね返す。
大学を卒業してからはそこまで明るい色に染めたことはなく、少し羨ましく感じた。

「髪の毛いいなあ。私も色抜いちゃおうかな」
「えー!くるみちゃんはそのままがいっちゃん似合てはると思うわぁ」

「なんでも合いそうやけどね」そう付け加える志摩くんの女慣れっぷりに思わず苦笑する。

「志摩、チャラチャラすなや、お前何しに来てはんのや」

近い距離から声が聞こえ、後を振り返ると勝呂くんと三輪くんも廊下に出ていた。
勝呂くんは不機嫌そうに、三輪くんは苦笑いしながら「くまがいさん気にせんといて」と言って気遣ってくれた。

「女と遊ぶためにここ入ったちゃうやろ、見苦しいことやめい」
「坊ー、またいけずなこと言いはるなあ。くるみちゃんがほんにかいらしいから、俺が仲良うしてはるの、気に食わんとちゃいますー?」
「…んやとおお!?アホか!!!!」

志摩くんがそう言ってニィッと笑うが、勝呂くんに耳たぶを引っ張られてすぐに顔が痛さに歪む。
「ぃぃい痛い痛い!堪忍!」と言って志摩くんが身を捩る。

「俺はな、ほんに祓魔師の資格得るためだけに塾に来てんのや!」
「えー、勝呂くん、私とは仲良くしてくれないってこと…?」

少しだけ、いたいけな少年をからかいたくなってしまった。
「初めての東京だから…友達になってもらいたいな…」私の発言に勝呂くんは照れくさそうにしながら、
「そないなこと言うてへんやろ…よろしくな」と言ってあらためて挨拶し直してくれた。

がたいのいい彼は自然と見上げる形になってしまう。
頬をほんのり染めた彼が可愛らしく見えた。
まっすぐな人柄で、礼儀正しい。お育ちよさそうな子だなあ。

「意地悪いってごめんね、こちらこそよろしくお願いします」
「くるみちゃん油断なれへん子やなー」

志摩くんたちは「また明日ー」と言って鍵を使い、男子寮に向かっていった。

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早めに終了した初日、寮の部屋へ戻って荷解きをする。
必要最低限のものしか持参しておらず、下着も部屋着も日用品も足りていなかった。

高等部の始業は明後日、塾は明日昼過ぎから。
明日の昼までには買い物を済ませようと決める。

入寮案内にあらためて目を通し、門限時間を確認していたところ、同じ部屋の女の子が声をかけてくれた。

「外出案内?明日、休みだもんね。前日の21時までに寮長さんに出せばいいみたいだよ」
「あー!そうそう、それが知りたかったのー!ありがとう」

時計を確認して、急いで部屋を出る。
寮は4人1部屋。
といっても、さすがは金持ち学校、ひと部屋が広く作られている。
間仕切りもあってパーソナルスペースもばっちしだった。

ルームメイトとなる女の子たちは皆気さくで話しかけやすく、これからの学園生活が楽しめそうだ。
祓魔塾に居た時とは打って変わって、ルンルン気分を味わえている。

寮長室へ向かおうと階段を下っていると、背の高い人影が目に入った。
白いスーツを着た、男性…?

「理事長こんばんはー」
「はい、こんばんは」

通りかかった上級生と思わしき生徒が挨拶する。
えっ、この人が、理事長!?

理事長と目が合い、私も「こんばんは」と挨拶をした。
そのまま前を通り過ぎようとしたところ、「待ちなさい」と声をかけられた。
恐る恐る彼の方へ身体を向ける。
特に悪いことをした覚えはないが、自分で入学手続きをした覚えがないだけに、少しドギマギとしてしまう。
学費とか…ちゃんと、振り込まれてるよね?

「あなたが、くまがい くるみさんですね?」
「はい、そうですけど…どういったご用件でしょうか」

気のせいか、空気がピンッと張り詰めているように感じる。
これまでとは打って変わって、女子寮から音が聞こえない。静かだ。

理事長は私との距離を詰めると、

屈んで、スカートを捲り上げた。

「…え、ええええええ!?」
「なるほど、これが彼のつけた足跡ですか」

彼はスカートを捲る手を引っ込めると私と目を合わせた。
あまりにも急なことに、まったく抵抗ができなかった…
女子生徒のスカート捲るってこいつ…

「いやぁ、失礼した。淑女のスカートを捲るなど。ただ確認しておきたくて」

「その傷」と言って彼は目を細めた。
その独特の雰囲気、昨夜、馬に出会ったときと同じものを感じた。

「あなたが昨夜出会った悪魔のこと、そして、あなたが本来この世界の住人ではないこと、私は存じ上げている」

不思議な喋り方をする彼は「実は私も一枚噛んでましてなあ」と言い、私の顎に指を添えてくいっと上げた。
あれ、やっぱり馬じゃなくて悪魔だったんだ…
昼間の子鬼や祓魔師のことを思い出し、この世界では特別おかしなことでも無いことを学習する。

「あの…あなたたちは、何者なのでしょうか」
「私たちは悪魔ですよ。あなたも薄々気づいていたのでは?察しが良くて助かります。彼はあなたに呼ばれないかぎり物質界には来れないのでね、代わりにあなたのことを頼まれておりましてな」

この世界は人間が生活する物質界、悪魔の住まう虚無界の二つの世界が対を成して存在しているのだという。
彼は悪魔であり、虚無界を捨てて、この物質界で祓魔師に協力しながら人間の生活を楽しんでいるのだとか。
理事長は私をジロリと見て「彼も面白いことをする」と笑った。

「私は可憐な美少女の頼みとあれば、可能な限り手を貸します。困ったことがあればここに連絡を」

理事長はそう言って名刺を渡すと「フェレス卿とお呼びください、では」そう言って闇夜に消えていった。

「怪しすぎでしょ…」

私は彼の背中を見送ると、手元に残った名刺に目線を戻した。
この世界の道先案内人は年齢不詳の奇抜な格好をした悪魔のようだ。

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京都弁むつかしっ
セリフに使われる方言は、皆さんの優しさに頼らせてください…

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