003(入塾)

「子猫さんが…女連れや…!」

塾の教室と思わしき部屋に入ると、髪の毛をピンクに染めた少年がこちらを見るなり勢い良く立ち上がった。
面食らったように目をぱちくりとさせ、ぐんぐんとこちらへ近づいてくる。

入学式が終わり、私は三輪くんに祓魔塾について尋ねた。

ー祓魔師を目指してこの鍵を手に入れたが、どう使えばいいのかわからない。

それだけ伝えると、察してくれたようで塾まで連れてきてくれた。
きっと「祓魔師」とは、異世界転生のお決まりパターンのうちのひとつだろう。
ずばり、謎の世界観設定。

既に魔法少女なはずなんだけどなぁー

今のところ、妖精登場も変身シーンもない。
魔法少女である上に祓魔師とやらを目指すのは、さすがに欲張りではないだろうか。
そもそも祓魔師ってなに。ホラー映画しか知らない。

かばんに入っていた用途不明のおしゃれな鍵は、いつでもどこの扉からでも塾へ行けるという
便利アイテムだった。

豪勢な作りの廊下へ繋がっており、数ある扉の中から一一〇六号教室に入室した。
そして冒頭に戻る。

「しかも、えっらいかいらしい子ですやん!?」
「ハハッ!君、ずいぶん素直な子だねー」

「こちら、幼馴染の志摩さんです」そう言って三輪くんが紹介してくれた。
こんなどストレートに、女の子に可愛いを言える15歳に初めて出会った。
美少女だとこんな体験ができるのか…

「くまがい くるみです、志摩くんも塾生?よろしくね!」
「志摩言いますー、くるみちゃんよろしゅう!」

「ささっこちらへ」と言って、志摩くんが席を案内してくれた。
彼が座ってた隣の列の座席が空いていることを確認し、腰掛ける。

「坊も来てたんですね」と三輪くんが話かけたのは、
髪の毛を金髪に染め、ピアスをいくつも開けた少年だった。

えっ、うわっ!派手!ヤンキーかよ!
三輪くんが声をかけるようなタイプには見えない…

彼は三輪くんの声に気がつくと、手元のキャンパスノートから顔を上げて
こちらを振り返った。

「おう、子猫丸……そちらさんは誰や」
「くまがい くるみです。えっと、三輪くんの幼馴染さん?」
「ほうです。僕も志摩さんも、坊のお父さん…和尚さんの弟子なんや」
「和尚さん?え、うそでしょ、寺の息子なのこの子!」

思わず本心から出た感想が引っ込める隙無く、口から出てしまった。
「あっ」と思ったときにはもう遅く、誤魔化すために名前を尋ねる。

「ご、ごめん、ここ自由な校風だもんね…!で、お名前は?」
「別に…。勝呂竜士や」

少々ムッとした表情にはなったが、彼は名前を教えてくれるとすぐにノートへ目線を戻した。
「くるみちゃん、気取った感じなくてええなー」と言って、志摩くんは次々と質問をしてくる。

女好きの志摩くん
見た目ヤンキーの勝呂くん
社交的で人のいい三輪くん

性格がバラバラのこの3人、幼馴染として育ったと言えども、よくもまあこのお年頃になっても一緒にいるとは。
おねえさんびっくらだよ。
男の子ってこんなもんなのかねえ?
だいたい女はティーンなお年頃だと、協調性を大切に振る舞っているか、気の合う友達を見つけるかのどちらかに分かれる。
クラスタが異なる友人は大人になり、ゼミが一緒とか、職場の同僚とかの環境の共通点が無い限りは関わる事はない。
幼馴染って、ちょっと羨ましいな。

「はーい、静かに。席についてください、授業を始めます」

眩しく見える少年たちを微笑ましく見ているうちに、塾生は全員既に入室しているようだった。
先生が来たようで、教壇に視線を向ける。
そこには、入学式で生徒代表挨拶をしていた同級生が立っていた。

「はじめまして。対・悪魔薬学を教える奥村雪男です。」
「ゆきお???やっぱり!?」

同じ列の前方に座っている少年が勢い良く立ち上がる。
水玉のスカーフをした犬を連れた彼は、とてつもなく動揺しており、奥村先生に詰め寄った。

「授業中なので、静かにしてくださいね。お察しのとおり、僕は皆さんと同い年の新任講師です。
ですが、悪魔払いに関しては僕が二年先輩ですから塾では便宜上、”先生”と読んでくださいね」

ということは、13歳の頃には祓魔師とやらの免許皆伝状態だったわけである。
ほぉー、祓魔師、未だによくわかっていないが、優秀な方なのねー。

眉目秀麗、成績優秀、なんてハイスペックなんだ。
さては、正十字学園のF4の一人だな?

それにしても、奥村先生の口から出た「悪魔払い」という言葉。
つまり、やはり祓魔師とは、私がイメージしていた職業設定でほぼ当たりということだ。
ということは、だ。
この転生された世界には、「悪魔」と呼ばれている存在があるということ。
私たちは悪魔を倒す祓魔師になるべく学ぶ、候補生なのだ。

さらに、まだ謎を残す「魔法少女」の設定。
あくまで憶測だが、その悪魔と戦うことが私のミッションなのかもしれない。異世界転生のセオリーに基づくと、ね。

どんどん得られる世界観の情報を目ざとくキャッチし、なんとかストックさせてゆく。

「まず、まだ魔障にかかった事のない人はどの位いますか?手を上げて」

ま、魔障…?
えっどうしよう!さっそく専門用語が飛び出してしまった…
さすがにこれは困った、ここはとりあえず手を挙げとくに越したことは無い。
私は勝呂くんも手を挙げていることに少しの安心を覚え、恐る恐る、小さく手を挙げた。

「4人ですね。では、最初の授業は”魔障の儀式”から始めましょう。実はこの教室、普段は使われていません。鬼族(ゴブリン族)という悪魔の巣になっています」
「え!?大丈夫なんですか…?」
「大丈夫です。鬼の類は、人のいる明るい場所には通常現れません」

女子生徒の不安を拭うように、奥村先生が答えた。

「イタズラ程度の魔力しか持たない下級悪魔なので、人が扱いやすい悪魔なんです。皆さんは僕が準備するまで、少し待っていて下さい」
「おい!説明しろ…!」

先ほど、奥村先生に詰め寄った少年は大きく声を荒げた。
なんだなんだ!ケンカか!?

「なんで、俺に言わねーんだ!!!!!」
そう言って少年がつかみ掛かると、その反動で奥村先生の手から試験管が滑り落ちた。

瞬間、腐臭があたりに立ち込み、
天井の配管が爆発音のようなすごい音をして破裂した。

「悪魔!」
「え、どこ!?」
「子鬼だ…!!」

女子生徒が指差した方を見ると、私の背後に化物がいるのが見えた。
ツノが生えた球体のボディ、見開かれている目、大きい口にするどい爪を持つその生物を目にして、
思わず身体が強張る。

バンッ!バンバンッ!

奥村先生が打ったと思われる銃弾が悪魔に当たり、その音で意識がハッとした。

「あんた見えてんじゃない!」
女子生徒が私に言っているのを聞いて、先ほど反応が鈍かった勝呂くんをはじめとして、
見えていない人もいることがわかった。

「教室の外に避難して!外で待機していてください」

そう言うと、奥村先生は私たち生徒を教室の外に追い出した。

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原作沿いに入りました。
ここからキャラクターとの絡みがはじまります。

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