042(イルミナティ編)


「悪いけど、出雲ちゃんは渡せへんで奥村くん!」
「志摩…!お前どうしちゃったんだよ!友達だろ!!」
「まだそんなことゆうてるやー。せっかく忠告してあげたんになぁ?」

相手が志摩くん…ともなると、手出しができない燐じゃまったく勝負にならない…
と思った矢先、彼は倶利伽羅ではなく左拳で志摩くんを殴り飛ばした。

「出雲!!来い!早く!!」

燐が手を差し出したが、彼女はそれをとろうとはしない。

「出雲ちゃん!?」
「なんや、あいつ」

私たちは彼らがいる鉄橋を見上げながら名前を呼ぶが、彼女はそれにも反応しない。

「どうしたんだよ!?行こう!」
「…助けなんて必要ない!!邪魔しないで!!」

出雲ちゃんはそう言って燐の手を振りほどくと、踵を返して鉄橋の奥へと足を踏み出した。
その時、志摩くんが立ち上っがたのを視界の端で捉えた。

「燐!後ろ!!」

気づくのが遅かった。
志摩くんが放った黒い塊が飛んできて、燐の姿を弾き飛ばした。

『くるみ!こっちも来てるよ』

グンッ!と槍の力に引っ張られる。
気がつけば、屍人2体に挟まれるかたちになっていた。

「あーーーくそっ!これは、やばい!」

私は寄って来る屍人を槍で振り払う。
詠唱を試みるが、集中力がなく、まるで効果が実感できない。

個室で1vs1じゃなくなった途端、これか…

自分の集中力の無さを恨みつつ、がむしゃらに振り払っていく。

「くまがいさん!」

呼ぶ声がして振り返ると、奥村先生たちを乗せたクロがこちらへ向かってきている。
私はクロが通り過ぎる瞬間にタイミングをあわせて地面を蹴り上げ、彼の尾に掴まった。

「クロありがとう!」
「外道院の言うことが正しければ、強いエネルギーを放出している物質に引き寄せられます。兄さんに向かっているように、貴方がユニコーンの力を使えばヤツらは集まる。…もはや、僕達だけで太刀打ちできるレベルの敵じゃない!!」

蠢く屍人だった肉塊から距離を置き、私達は事態を飲み込もうと必死になって周辺を見渡した。

破壊されたダクトからは煙が上がり、さきほど出雲ちゃんが渡っていた橋はボルトがはずれてキィキィ音を立てている。

「奥村と志摩を追ってくれませんか」

ポツリとつぶやいた勝呂に目を向けると、途端、言葉が通じたのかクロは勢いよく飛び降りた。
下へ下へと地下へ潜っていく。
垂直急降下、下を噛まぬように閉ざすことでいっぱいだった。

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足場を確保しながら降りていると、爆発音のようなものが聞こえて、ピカッと炎が光ったように見えた。

「兄さんか!?急げ!!!」

ジッと先へ目を凝らすと、稲生ゆめタウンで遭遇した屍人が大量に徘徊していた。
他には…燐と、出雲ちゃんがいる!!

私は咄嗟に勝呂の弾薬帯へ手を伸ばす。

「勝呂!貸して!」
「なんや!?」
「私の力を使って、燐を援護して!『この刃は汝を慰め、励ますーーー』…」

私は詠唱に集中し、弾3つほどに祈りを込める。
「これを打って」と言って渡し、臨戦態勢へと立て直す。

「行くでっ!俺のバズーカッ!!」

ボシュっという音が聞こえたと同時、私は槍に持つ手に力を籠める。
飛距離を長く保った弾はパァッと光輝いた途端、ガクンと下がった弧を描き、速度を落とし、そのままの威力で燐と襲いかかる屍人の間へと落下し、襲いかかるのを防いだ。

「くまがい、お前何したん…」
「バズーカだと飛距離がないから、鉄とアルミニウムの成分をタイミングに合わせて変えたの」
「なっ!?んなことができてええんか…」

信じられない、といった彼を尻目にクロから飛び降りた。
燐に襲いかかろうとした屍人へと駆け寄り、槍で切りつけて詠唱の続きを説くと、屍人は動きを止めてその場に崩れ落ちた。

バズーカが効いたのか、肉体はだいぶ壊死しており、普通に掴んだだけでもボロボロと脆く崩れた。

私が屍人と応戦している間に、奥村先生は出雲ちゃんの様子を診るために駆け寄った。

「悪魔の憑依状態だ…!!まさか…九尾か!?一刻も早く専門の祓魔を施さないと…」
「もう…手遅れよ…!早く行って!!」

出雲ちゃんは肩で息をしながらも、弱々しく奥村先生の手を振り払う。

「神木…!!お前、さっきといい、何なんや!!」
「サンチョ…アロエさんで応急処置できるよ!まかせて!」
「うっ…るさい…ッ!あぁああッ!!…はぁッ、はッ、はッ」

途端、出雲ちゃんを包むように生えている尻尾が蠢き、皆が「ジャマだ!」と弾き飛ばされた。

禍々しい雰囲気、一掻きで人一人裂いてしまいそうな鋭い爪、近づくことを許されない9本の尻尾…
間違えなく、それが九尾の狐の姿だった。

「奥村先生!!九尾はどう祓魔するんです!?」
「古の強力な上級悪魔です!まだ明確な祓魔方法は解明されていないはず。むしろ、神木家がその専門家なんです!!」

スッとクロの方を見やると、抱えられていた出雲ちゃんのお母さんが地面に降り立つのが見えた。

「『我が娘の御霊屋に鎮め奉らるる玉藻御前の御霊に請祈願白し給う』」

一瞬、九尾が弱ったかのように見え、そのまま出雲ちゃんのお母さんに襲いかかった。
出雲ちゃんのお母さんは舞うようにその攻撃を避けながらも祝詞を止めない。

その美しさに一瞬、現状を忘れるところだった。
ハッとした奥村先生は「僕達で周囲の屍人を一掃します!」と指示し、私達は屍人を出雲ちゃんのお母さんの邪魔をしないように倒していく。

「んあーーッ出雲ちゃん!戻ってこい!!」
「気張れや神木ィ!祓魔師認定試験が三ヶ月後に迫っとるんやなかったんか!?」
「な、なんで神木さんが僕らと距離取らはるんかよー判りました!けど、でも、やっぱりそのクセやめてもらわんと!!」
「神木さん…!必ず助けるよ!!」
「出雲…!!俺達もいるぞ!!!!」

出雲ちゃんが自我を保ってくれるよう、私達はひたすら声を掛け続ける。
声を掛ける、というよりか、叫んでるようになっている。
必死で眼の前の屍人に斬りかかるが、先程までも倦怠感が吹き飛ぶような、不思議な火事場力が発揮されていた。

嫌な気配がぞわわっと動いた気がした。
バッと出雲ちゃんのお母さんを見やると、彼女に九尾が乗り移り、出雲ちゃんの身体が解き放たれたかのようにその場に倒れ込んだ。

その瞬間、「嘘だろ!?」と悲痛な叫び超えが響いた。
声の方に視線を動かすと、狼狽えた様子のメガネの男性がパソコンにかじりついている。

この声…さっきの…外道院ミハエル…?

「出雲のデータが…!どこだ!?どこに消えた!!」
「九尾は私の中に戻ったわ。そして、私の肉体と一緒に死ぬの。あなたの目論見も…ここまでね…」

そう言って倒れ込む彼女に、出雲ちゃんは駆け寄った。
彼女に意識があることをその様子から伺い、私は槍を持ち替えてそちらへと駆け出す。

癒やしの槍で、出雲ちゃんのお母さんを助ける…!

それを見透かしたようにユニコーンが『彼女のお母様は、もうだめだよ』と悲しげに制止する。

『肉体が壊死しきっている。こんな状態なのに、無理やり神を降ろしたんだ。もう、僕の力でもキミの力でも救ってあげることはできない』

気がついたら、出雲ちゃんのお母さんからは九尾も耳も消えていた。

「憑依させて肉体の最期と共にする…これが九尾の祓魔なの…?こんなの…」
「そうか、母ちゃん、出雲を守って死んだんだな」
「それが何だって言うんだよ!」

突如その声は静寂を破るように響き渡った。
外道院ミハエル、あいつがまだ生きていることを忘れていた。

彼はヘルメットのようなものを自身の頭にかぶると、スイッチのようなものに手をかける。

「ぼくが自分の身体でエリクサー実験してなかったと思うのか!?当然やった!そして、生き残ったんだ!!」

私は皆の前にスッと進み出ると、『モノケロースの盾となれ』と唱えて盾をだす。
辺りはバシィ!と明るく光り、姿を変えていく外道院ミハエルをしっかり見据えた。

「脱出口は…」
「一つだけあるが、外道院が邪魔だ!戦うしかないわけやな…!!」

出口をちらっと確認し、私達はすぐに臨戦態勢を整える。
外道院ミハエルは手を伸ばし、屍人を捕食しはじめた。

「食屍鬼(ネクロファージャー)が憑依しとるかもしれません」

無数に伸びてくる手のようなものを盾と槍で交わしていく。

「エリクサー実験で強化された肉体を持っている以上、弱点を特定できない可能性があります…!!」
「奥村くん!!また、不浄王や僕らを浄化したみたいに出来ひんかな!?」
「火生三昧か!?あれ難しいんだぞ!あん時はウチシュマーが手伝ってくれたからできたんだ」

『サタンボム!』そう言って攻撃を繰り出しても、燐の火は大してダメージを与えられていない。
熱風がボワッと巻き上がり、慌てて出雲ちゃんに覆いかぶさった。

「大丈夫!?」
「あたしも…戦わなきゃ…!」

そう言ってガレキを手にする彼女をしえみちゃんが制止する。

「ダメ!!その身体動いちゃ…!!」
「月雲、ウケ、ミケ、あたしに力を貸してね…!!」

そういって立ち上がった彼女をまばゆい光が包み込む。

『出雲!!遅い!!!』
『やっと呼んでくれたね…!待ってたよ!』

彼女は涙を流して狐神たちに抱きついた。

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