043(イルミナティ編)

「あいつはあたしが倒す…!!」
「出雲ちゃん…」

ヨタヨタと歩みだした彼女を支えようとしたが、彼女の両脇の狐神たちの堂々たる様子から不要だと悟る。

「あたしが祝詞を唱えてる間、あたしは無防備になる。だから、お願い。みんな、あたしを助けて!」

彼女に頼られたことは、はじめてだと思う。
出雲ちゃんの目は覚悟の念で満ちており、とても力強く輝いていた。

「あんたは、母さんを守ってくれる?」
「あたりまえだよ!!」
「そーだ!!その為に来たんだからな!!」
「言われるまでもないわボケ」
「白虎は氣と光の属性…食屍鬼には効果があるかもしれへん、微力ながら援護します!」
「やってみる価値はありそうですね。全員で神木さんの詠唱を助けましょう!」

みんなで陣形を組み直し、食屍鬼の攻撃に身構えた。

『出雲!』
「だいじょうぶ…」

出雲ちゃんがよろけて片膝をついた。
私は彼女に近寄り、「ちょっとびっくりさせるね」と言って槍を彼女の胸元に当てて詠唱を唱える。

「これ以上やると私が役立たずになるから、ほどほどに、ね」
「!?だいぶラクになった…ありがとう、くるみ…」
「え、素直…かわいいじゃん、神木出雲…」
「ちょっとふざけないで!」

ツッコミできる気力はあるんだね、と言って笑い、私も食屍鬼と距離を詰めるべく地面を蹴り上げた。

出雲ちゃんは祝詞を説きながら舞い始める。

「『あめつちに さゆらかすはさゆらかす かみわがもかみこそはーー』」

召喚した扇は舞をより引き立て、鈴はリリンッと場を鎮めるように鳴らされる。
その舞自体、出雲ちゃんの集中力は高まっていき、白狐の耳が現れてシャランッと冠も現れた。

私達は彼女に襲いかかる食屍鬼の攻撃を受け流していき、こちらから仕掛けては注意を引くようにして彼女とタイミングを合わせた。

狐神たちの手元には太刀と弓が現れ、彼らは臨戦態勢に入る。

「『鎮魂の祓い』!!!!」

唱え終わった途端、狐神たちは光の如き速さで食屍鬼に飛びかかった。

「倒したの…?」
「エリクサー実験の成功者だとしたら、こんなもんじゃ死なないわ。それに、そいつにはまだ…話がある…」
「「出雲!!」」

出雲ちゃんがその場に倒れ込み、それと同時に狐神たちは消えた。
近くにいた三輪くんが出雲ちゃんに駆け寄り気を失っているだけだといい、体制を起こした。

「神木さんの救出任務は完了しました!一旦退いて、増援部隊の到着を待ってから仕切り直しましょう!」
「ま、待ってください!まだ志摩が!」

奥村先生の撤退の指示に大して勝呂が食ってかかる。
燐もそれに乗っかり、まだ任務が完了していないと言いたげに詰め寄るが、奥村先生は撤回するつもりがないようだ。

私も、できれば志摩くんも一緒に…と思う。
しかし、今のこの状況を見ても、さらに私もそろそろ限界が来ているのを感じている。
無茶をしては元も子もない…

その時、辺りに志摩くんの声が響いた。

「みんなさすがやなぁ…って、もう敵同士やし呑気に感心もしてられへんのんかははは」
「志摩!!まてぇ!」

志摩くんは外道院ミハエルの残骸を黒い塊で包み込むと、それを伴ってガレキの山を登る。
それを制止するように大きく声を張り上げた勝呂は「俺の所為か…!」と絞り出すように告げた。

「違います。これは、俺の為です。そんじゃ!!みなさんお達者で!」
「ちょっと、志摩くん!勝呂ッ!どうゆうこと!?」
「ッッ…!皆さん!!今すぐ脱出しないと!このままじゃ屍人に囲まれる…」

銃を打っていた奥村先生の手が止まる。
「チッ」と舌打ちが聞こえてきたところを見るに弾切れのようだった。

「奥村先生うしろッ!」

彼に襲いかかろうとしている屍人を突こうとしたその時、バシュッとなにかが先に屍人を貫通して飛ばしていった。

唖然として飛んできた元をたどると、黒装束の集団が目に入る。
瞬間、緊張が解けてしまったのだろう、力が抜けて変身が解けてしまった。

「坊!!ご無事でしたか!」
「き…金造!?」
「うすっ!この場は俺達京都出張所坊救出部隊にお任せくださいぃッりゃあああ!!」

すごい勢いで屍人を倒していくその様子、なんとも心強い…
「ただの増援部隊です」と補足され、編成部隊が稲生周辺を制圧したと共有をうけた。

助かった
気が抜けたのか、足から力が抜けて、私は床へへたりと座り込んだ。

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「お腹空いた…」

空腹で目が覚めた。
外はカラリとした秋晴れ。
昨日までの命をかけた戦闘が嘘のよう。

寝ている出雲ちゃんとしえみちゃんの邪魔にならぬよう、病室の外へ出た。
生きていることは運が良い、ということになるのだろうか。

いや、実戦と修行の成果は確実に出ていた。
しかし今回感じたものは、知恵と知識をもっと吸収し、修行で身につけたいということだ。
アイアン・メイデンという自分に科せられている運命を活用するには特殊スキルでの闘い方をしっかり身につけていなければ、命を落とすだろう。

さらに、大切な仲間たちは救えない。

売店で買った焼きそばパンを両手で抱き、来た道を戻る。
今回の戦闘をふりかえった。

排気口を狙って力を使え、そう言った三輪くんを思う。
とても頼りになる相棒のような、そんな心強さを彼の機転の速さから感じた。

泣きそうな顔で力を貸してほしい、と頼み込んできた出雲ちゃんを思い出す。
こんなにも友人に対して愛おしいという気持ちになることは、前の生活ではなかった。

咄嗟の判断にも信頼して付き合ってくれた勝呂。
命をかける状況で、彼は私の判断にゆだねてくれた、あの心地よさはなんだろう。

今回の戦闘は本当に命の危険を感じたとともに、ユニコーンの力に頼りきれないことのむず痒さも覚えたが、仲間たちのおかげで乗り越えられた。

助かってるな…
本当に…

「でももう覚えてないの、あたしの事…!!」

ドアの前に勝呂の姿を見つけ、声をかけようとしたが大きな怒鳴り声が聞こえてその口を噤んだ。
そして、ドアの前で立ち止まる。

中からは出雲ちゃんの嗚咽、そして、怒りなのか、悲しみなのか、感情をぶつける声が聞こえる。

「別れた時3歳だった。しょうがない…判ってるけど…!5年間、あの子を救うために生きてきたのに…!こんなのってない…!!あんまりよ…!!」
「うん」

しえみちゃんも起きたんだ。
相槌を打つ声が聞こえる。

「あんたなんかに判るわけない!!あんたみたいに幸せ家族に囲まれて、ぬくぬく育ってきたような奴には判らないわよ!!こんな…惨めな気持ち…!」
「…うん」
「泣くな!!すぐそうやってメソメソする…!傷ついたんら言い返せばいいでしょ!?怒鳴り散らしてるあたしが悪いんだから、そう言えばいい!あたしはあんたのそういうところが」
「よかった。朔ちゃんが…出発の見送りに来てくれた時にね、『出雲ちゃんをお願い。出雲ちゃんね、しえみちゃんが羨ましいって。奥村くんもだけど…あいつらは泣いたり笑ったり怒ったり、自由で羨ましいって、言ってたことがあるんだよ。助けてあげてね』って。だから…神木さんが泣いたり…笑ったり、怒ったりしてくれて…、よかった…!」

衝動を抑えられなかった。
私はガラッと扉を開くと、背中を向ける出雲ちゃんに抱きついた。
その勢いが強すぎたのか、出雲ちゃんは2,3歩歩くとそのままベッドに座ったままの、しえみちゃんの上に倒れ込んだ。

「うううぅぅぅぅうう出雲ぢゃん…ッ!わたしもッ!よがったってッ!思ったぁああ」
「ちょっ!?ちょっと、くるみ!?離れてッよおぉ、えっえええぇぇ!お前らも、ぱくも、帰ったら半殺しッしてやるッ!」
「…あはは!」

泣きながら怒っている彼女がおかしくて、しえみちゃんも、私も、腹の底から笑い声をあげた。
ずっと我慢していた出雲ちゃんが泣いている。
それだけで嬉しい。
きっと、しえみちゃんも嬉しいんだろう。

今日、彼女を縛ってきた何かが一つ、消えた。
きっと、それによってふらつくこともあるかもしれない。しかし、そんな不器用な彼女のことは今後も支えていきたいと思った。

もう、一人で踏ん張る必要がないのだから。

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イルミナティ編、完です。
編集後記もろもろはおってnoteに書き記します。
ここまで読んでくださった皆様、お疲れ様でした!

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