041(イルミナティ編)


「ユニコーン、もう一仕事!」

辺りを見渡すと天井から張り巡らされているパイプが複数、そしてその下には先ほどまで私が入っていたと思われる箱型の部屋。

素材を見てピンッときた。
ステンレス製の床に手で触れると腕を伝ってピリピリとした感覚が脳に届く。
やっぱこれって…!

私は想像を具体化するために集中した。

素材一つひとつに気を集中させる。アイアン・メイデン、それが鉄を操ることに長けているのであれば物を具現化する以上に素材の分解、操作が可能であるはず。

その仮説を今、検証する。

脳にたくさんの情報が流れてくる。
鉄、クロム、ニッケルの合金鋼…炭素が1.1%、クロムが10.5%ほど…

それらが溶ける想像をし、みんなを箱型の部屋から助け出す…!
なくなれ、鉄の檻よ!!

瞬間、パイプが張り巡らされる根本がガコンッと凹み、ポロポロと原料別に分解される。

これだ!

確信を持った私はさらにイメージをふくらませる。
みんなが入れられてしまったであろう、箱の形をしっかりと目で捉え、分解。

「…!くまがいさん、排気口とか、もっと脆いところにできませんか!?」
「三輪くん、下がってて」

うまくいかず、手元のステンレス鋼も分解され、足元が薄くなっていく。
…自分も味方も巻き込まれちゃあ困る。鉄操作は練習量でカバーするしかないか…

集中して空間全体を捉えていく…
途端、ガゴンッ!ガゴンッッ!!と響く音。私はチラリとそちらを見やる。

そこには排気口を蹴破る三輪くん。
ぱちっと目があると、彼は声を張って「くまがいさんのおかげで脆くなってはります!その調子で頼んます!」と檄を飛ばしてくれた。

「ありがとう」と声をだす余裕もなく、私は口角をあげることで応えた。

「奥村先生!」

そう呼びかける三輪くんの声で、蹴破った排気口の中に奥村先生がいることを知れた。
やっぱり、この部屋一つひとつに、仲間たちが閉じ込められている。

そう思うとより熱量が上がる。

「ユニコーン!もっと分解を進めたいんだけど、どうすればいい!?」
『うーん、火の眷属の力があれば溶解することもできるんだけど…それって、ぼくの力がもっと必要ってこと?』
「え?う、うん!お願い」
『じゃあさ、くるみをもっとーーー』

『ちょうだい?』

「どういう意味?」と聞きかけた時、槍に擬態化したユニコーンがグイッと動いた。
私の視界を覆うように遮る、途端、ボンッ!と大きな爆発音がして熱風が私を覆った。
ユニコーンが動いてくれたおかげで、槍で顔をカバーできた。

しかし、熱い。

やばい、集中力がキレる…!

私はその一瞬に力を集中させて、原料がはじけるようなイメージをとっさにした。
瞬間、凹んだパイプの付け根あたりがドムッ!と破裂し、煙が上がる。
煙のなかから薄っすら箱の内部が見え、検証が成功したことがわかった。

「奥村くん!!」と三輪くんの声が聞こえ、さっきの熱風が彼によるものだと察した。

「子猫丸!…と、くるみ!皆は!?なんかすっげー嫌な気がしたんだけど」

そういって燐はキョロキョロと当たりを見渡す。

「奥村先生も無事やけど、他の皆はまだ…!奥村くん、倒さはったんやね!?」
「いや、逃げてきた!!」

そういってごまかすように笑う彼に「おいおい…まじか…」と苦言が垂れる。
彼のバックにはなんとも巨大で、且つ直視できないほどの醜さを持つ屍人が現れた。

逃げようと踵を返す燐を三輪くんが制止する。

「僕の言ったこと覚えてる!?奥村くんは"切り札”やって言ったやろ?戦ってよ奥村くん!!奥村くんなら皆を助けられるはずや!」
「んな事いったって…俺にとって、誰の味方かは大事なんだよ!俺は”人”の味方でいないと…そうでなきゃ…」

彼は屍人がもともと人間であったことに気がついて、困惑しているようだ。

屍人から逃げようと踵を返した瞬間、正面の部屋の天井がベコベコッ!バリィイ!!と壊れた。

「ニーちゃん…?」

ニーちゃんらしき悪魔が、茂った樹木を纏って出てきた。

「ぷぁっ!」
「しえみ!!」

ニーちゃんが出した木をよじ登るかのように、しえみちゃんが姿をあらわした。

「みんな!?よ…よかった…!」

「お前大丈夫か」と心配そうな燐に、しえみちゃんは「戦えたよ」と答える。
屍人は土に還した、そういった彼女は逞しく見えたが、手が震えていた。

それに気づいた燐は声を掛けるが、しえみちゃんは気丈に振る舞う…
悪魔を成仏させるには、息の根を止めなければならない。
しえみちゃんは戦闘のなかで、深く考えたうえで、成仏させる道を選んだ。

それを選択できない燐は、今後、祓魔師としてどのように身の振り方をしていくのだろう。
苦虫を噛み潰したような表情の燐を見て、私も毒気を抜くかのように息を吐いた。

「皆さん…!無事で何よりです!」
「「先生!!」」

奥村先生につづいて、勝呂も集まってきた。

「…あっ坊!よかった!よかったぁ…!!」

そう言って三輪くんは安堵の表情で勝呂に駆け寄った。

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キィーーーーーン

『キヒヒッ静粛に!ようこそ、目障りなゴキブリ共。ぼくはこのイルミナティ極東研究所 所長、外道院ミハエルだ!』

辺りに響く声からは高圧的な態度がうかがえて、不快だ。

『キサマら、よくもこのぼくの聖域を侵してくれたな!ここは不死の妙薬、エリクサー実験の聖域だ!!聖域を侵したお前達は万死に値する!その罪深さを存分に理解させてから皆殺しにしてやる…!!!』

勝呂は「エリクサー?不死…?」「何の話や…」と狼狽える。
一方で、私と三輪くんハッとして顔を見合わせる。疑惑は確信へと変わった。

「神木さんはエリクサー…不死の薬を作る為の実験体として攫われたということでしょう」

勝呂くんの疑問に答えるかのように、奥村先生が口を開いた。

「そして恐らく、今まで戦わされてきた屍人達もこの実験の犠牲者…!」
『そうともブキキッ!屍人共は全て、人体実験の失敗作、稲生ゆめタウンに集めた観光客だよ。より強力な再生能力を持つエリクサーを創るためには大量の人体実験が必要だ』

外道院ミハエルは続ける。
おきつね横丁で販売している飲食物には幸福感を持続する麻薬が混入されており、依存度が高いのだという。
食べれば食べるほどさらに欲しくなり、結果、稲生ゆめタウンへの移住希望…実験体へとされてしまうのだという。

その非人道的なやり方には返す言葉も出なかった。

燐が唖然として立ちすくんだまま、つぶやく。

「お前…悪魔なのか?」
『いーや、ぼくは人間だ。残念ながらな!!』

その瞬間、仕留め損ない、牽制していた屍人が暴れ出す。
応戦してくれていたクロも様子を見るべく間合いを取った。

ボコッボコッと体が蠢くその様子を見て、ピンとくる。

「まさか…細胞が活性化しはじめた…?」

私が元素分解を試みたように、
これが人体実験をもとにしているのであれば、彼は人体組織を操れるようになにかを仕掛けていたのかもしれない。

『利口なゴキブリがいるようなだぁ!?元々、体内に埋め込んでいたエリクサーカプセルを爆発させた。まぁ、ドーピングのようなものだと思ってくれればいい!エリクサーの過剰摂取により、肉体は破壊と再生を繰り返し人の原型を保っていられなくなるブキキキッ』

眼の前の屍人…もはや、何なのかわからない。悪魔なのかすらわからないその蠢くものは、外道院ミハエルに肉塊と呼ばれる。

「皆さんッ下がって!!」

とてもじゃないが、目が当てられずに思わず目を伏したその時、「神木さん!!」と叫ぶしえみちゃんの声に、みんなが彼女の視線の先へと視線を向けた。

それは一瞬で、燐が勢いよくその場を蹴り上げて出雲ちゃんに向かって走り出した。

「いずもおおッ助けに来たぞ!!」
「そーはさせへんで

出雲ちゃんへ手を伸ばしかけたその手は横から繰り出された打撃によって弾き飛ばされた。

「志摩!!」

聞き慣れた声、見覚えのあるピンク髪。
勝呂の声によって、みんなが眼の前の現実を本当に起こったことなのだと認識した。

志摩廉造が、神木出雲を助け出そうとした奥村燐の行く手を阻んだ。

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あと2息…!

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