040(イルミナティ編)

「んぁっ!?」

一瞬気を失っていたようで、今の状況がまったく理解できない。
せま苦しい空間から急に開放され、身体が投げ出されたような感覚で気がついた。

その浮遊感から勢いがつき、地面に強打するかたちで着地。

「っった…」

じんわり痛むお尻をさすりながらその場に立ち上がる。
真っ暗の中、足場を探るとカンッカンッとブーツとステンレスの床がぶつかる音。
しっとりとした、湿気を感じる。

不穏な雰囲気が気味悪さを醸し出していた。
壁を探そうと歩みだしたその瞬間、

ガコンッ!

と大きな音がして、一面がまばゆい光で満たされた。
その急な明るさに視界が奪われ、咄嗟に目をつむる。
チリチリッと、蛍光灯に電気が通る音がした。

腕で視界を守りながら、徐々に目を開いてみると、足元はコンクリート張りでステンレス製のグレーチングが部屋の真ん中に敷かれていた。

その辺りには、血痕…のような、赤黒いシミが付着している。

「ま、まじかぁ…」

ピチャッ…ピチャ…

何かが滴る音が聞こえる。

目が光に慣れてきた。
部屋の壁に備え付けられた、檻に目が行く。

明らかにそこに、なにかが、いる。
すぐさま、槍を構える体制となり、声高にユニコーンの名前を呼んだ!

「ユニコーンッッ…!」

いつもの如く霞がかり、少し光りが差すと共にユニコーンが現れ、私は魔法少女の姿へと変身した。

『くるみ!なにここ…なんかいるよ…』
「うん…!だから、お願い!」

そう言って、手を天に高々と突き上げてユニコーンと目を合わす。

が、彼はキョトンとした顔のままこちらを見ている。

手をにぎったり、離したりする。
が、そこに鉄の感触はやって来ず空を切るばかり。
スカートをたくし上げ、印章を見ても反応がないことがわかる。

ん…?どうした?

「ねぇ、ほら、変身!」
『いまのくるみからは恥じらいの気持ちが感じられないよ…僕も力を貸したいけど、貸せるだけの力がそれじゃあ出ないよ…』

は?
いや、そうだ、そうだった、そうだよ!!
いつも誰かがいたから忘れてた。

霧隠先生は髪の毛を魔剣に食わせているように、ユニコーンは私の感情を食って魔力を貸す契約をしてくれる。

「髪の毛じゃだめ?」
『髪の毛食って興奮するような奴らと一緒にしないでほしい、僕はそんなんじゃ興奮しない』

どうゆうことだ!?この変態魔獣!

ガガガガガッ

徐々に開き始める檻、暗闇から姿を現したのはなんとも形容し難い怪物だった。
これは、やばいのでは…

肉体が壊死しており、目鼻がどこについているか判別がつかない。
しかし自立稼働している様子を見るに、先程地上に現れた屍人と似通う点を見つけられた。

「うっそ…屍人…?これが…」

まるで魔改造されたような、その巨大な化物にたじろぐ。

「お願い…ユニコーンッッ!」
『だから僕も貸したくても貸せないっっの…!』
『ア゛ドッル゛…ルゥウウウ゛』
「ちょっ!?キャァッ!!」

突進してきた化物を咄嗟に交わす。
コイツ、戦闘ができるわけではない…

ただ、ただがむしゃらに暴れてるだけだ…

『相手も屍人…しかも、自我を持っているような感じがないな…』
ッ!しまった!みんなといるうちに召喚しておくんだったー!」

戦闘の心得はあるが、攻撃は槍しか嗜んでいない。
ひたすら襲いかかってくるソレを交わす、逃げ惑うだけの戦闘だ。

『ゥ゛ド…ルゥウウウ゛』
「うぁっ!」

すんでのところでまた交わす。
屍人の行動パターンが読めてきた。
戦闘の素人とかの以前に、ただすがってきているだけなのかもしれない。
攻撃的な特徴から見て、おそらく屍人なのだろう。
しかし先程地上で遭った屍人は、脳幹を狙って攻撃したにもかかわらず蘇っては襲いかかってくるを繰り返していた。

脳幹を狙ってもダメ、なんだろう…
いや、今の私にはそんな強力な武器が無い…

「こりゃ、本当にまずいぞ…ハハッ…」

ついに口から漏れる独り言に、いよいよ乾いた笑みがまざる。

『くるみ!あそこから逃げて!僕が食い止めるから』

そういってユニコーンがクイッと上部にある空気孔に視線をやった。
彼は屍人の攻撃を華麗に交わし、角で貫いて奴の気を引いていた。

角で貫いたところはすぐに再生してしまう。

私が変身できれば、彼の力と水の精霊の力も借りながら屍人を浄化することもできるやもしれない。

「わかった。待ってて!」

私は助走をつけるとユニコーンの背に乗り、そのままジャンプする。
彼もまた、飛び跳ねて角で空気孔を跳ね除けるとそのまま胴体を押し上げて私を上げてくれた。

ガシャンッ!

ステンレスでできた空気孔に手が届き、腕の力だけで天井に身体を添わせる。
そのまま片手でネジを回していると、いともたやすくそれは外れた。

拳で殴るように押し上げると、ガシャンガシャンと音をした蓋は吹っ飛ぶ。
思わず「やった!」と声が出て、私は素早く脱出した。

『くるみ!』

ユニコーンも同じところから出てくる。
すり寄ってきた彼に、感謝を込めてギュッとハグをした。

その時、「くまがいさん!」と三輪くんの声で呼び止められる。
声の方を振り向くと、彼が手を振って駆けてきた。

「三輪くッんんんッッ!?」
『あ、ひっかかっちゃった』
「ぉう!?わゎゎ!!!!」

彼に手を振り替えそうとしたその瞬間、ユニコーンがその角でスカートの裾を持ち上げようとしたのか、
スカートどころかその角はパンツの脇部分をぐいっと引っ張り上げる形となった。

「ちょっとユニコーンッ!?」
『くるみ、まだ戦闘は終わってないよ!』

そう言いながら彼はペカーッと光瞬き、槍へと姿を変えた。

「ごめんなさいごめんなさい!くまがいさん堪忍してください!」
「いや、三輪くん、こちらこそごめん。そして、ありがとう…変身できたわ…」

顔を覆いながら伏せる三輪くんに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、
背後の爆発音に注意を向けた。

先程の屍人が、天井を壊しながらこちらを追って来た。
熱くなった顔を冷ますべく、冷静に現状把握に務める。

彼らの自我はもう死んでいる。インプットされた目的通りに私を追ってきているのだろう。

「さんざん翻弄してくれちゃって!マジカル祓魔師・くるみちゃんの反撃よ!」
『…もど、ル、ウチにもどる』

も ど る?

眼の前の屍人は辛そうに這いながら、確かにいま、聞き取れる言葉を発した。
「うちに戻る」と、たしかにそう聞こえた。

「そうゆうことか…」

これまで得体の知れない恐怖に思考が停止していた。
今、戦える武器を手にしたことでようやく思考が平常値になったのだ。

屍人は肉体が壊死している死体。もとは人間だったものを差している。
壊死は悪魔によって寄生され、人間の身体が耐えきれずに起こるため、彼らは元は悪魔に抗えなかった人間であったと推測できる。
または、悪魔の憑依によって蘇ったか…

「蘇った…」

そこまで思考を巡らせてハッとした。

「ユニコーン、癒やしの力を貸して」
『無理はしないで』
「大丈夫!」

そう言って私はその場を蹴り上げ、屍人との距離を縮めた。
槍を力いっぱい振り上げ、足元を狙って…突く!

ズドーン!

足を取られた屍人が倒れ込んだ。

人間性は無いが、欲求が残っており、目の前の人間に襲いかかる…
且つ、声帯は残っており、脳幹を破壊しても細胞が再生を繰り返して蘇る…

ここまで正体を暴くと、

屍人に対する同情の念と、
イルミナティに対する義憤の念で感情が高まる。

すぐに楽にしてやるよ。
私はその場に倒れ込む屍人に槍を思いっきり突き刺し、首に下げていたコルク瓶から聖水を垂らして詠唱する。

『御覧なさい、この刃は汝を慰め、励ます。そこにこそ、救いがあるのだから。主よ、今こそあなたは、お言葉どおりこの者を安らかに去らせてくださいませ。 主は、あなたが岩の上に落ちて砕かれることのないように守られる―』

詠唱を繰り返していると、目の前の屍人はやや苦しそうに小さくうめき声を出しながらもがく。
その動きがどんどん小さくなり、最終的に屍人も小さく縮こまり、壊死が薄れ、その場で動きを停止した。

「魂だけでもうちへお戻り」

そう言って槍を引き抜く。
私はユニコーンの力と水の精霊の力を借り、治癒の魔法で肉体の壊死を止めた。
さらに、聖水と詠唱で活細胞を止めることによって蘇生を阻止した。

「くまがいさん、これは…」
「試しでやってみたけど、やはりそうだったみたい。Experiment body、つまり実験体。脳幹を貫通しても動くし、大量にいて、しかも化物のように原型のわからない状態。だから生物として持っている身体の動きを封じる策を討ち、あとは私の得意な能力ならば止められると思ったの」

ここまで言って三輪くんも察したのだろう、「ほうですか…」と一言、数珠をポケットから取り出すと手を合わせ、念仏を唱えた。

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魔法少女になったのいつぶり…?ってレベルの変身回でした。

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