002(正十字学園入学式)

ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!

けたたましく鳴る目覚ましを止めて3回。
スヌーズ機能がしつこく起こそうとしてくれるが、ふわふわの布団が包んでくれる、幸せ、起きたくない。

むにゃむにゃと惰眠を貪っていると、ドタドタと廊下を歩く音が聞こえてきた。
その音はどんどんこちらへ近づいて来て、次の瞬間スパンッ!と襖が開いた。

「くるみ!いつまで寝てるの!」

お母さんが怒鳴り込んできて慌てて起きる。
起きたことを確認すると、「朝ごはんできてるから早く着替えてきなよ」と言うと出ていった。

私はハンガーに掛けておいた制服に手を伸ばし…

手を伸ばし…

手を、伸ばし?
ハッとして手を伸ばしかけた制服を凝視する。

黒に赤と白のストライプのリボン
桃色のスカートに、同じく桃色の襟がついた淡いクリームのブレザー

「わぁ、派手…」
この制服は…?

「そもそも、ここ実家じゃん!私の部屋じゃん!ってかお母さんいた!?」
見覚えのある家具、天井、壁、襖、間違いなく実家にある私の部屋である。
そして、上京して以来別々に暮らす母が起こしに来ていた。東京の家ではありえないことだ。

ーーー「大丈夫、目覚めたら君は15歳。転生にオプションは付き物だよ」

角を生やした馬のことを思い出して鏡を見ると、映ったのは若返った私。
まごうことなき、くまがい くるみだけれども…

「なんか可愛くなってない?これ、美少女じゃん…!」
くまがい くるみの面影特徴を残しているが、目の前の鏡に映るのは補正されたかのような美少女。
なにこれ、なんのアプリ使われてるの?

馬が言っていたとおり、若返っていたことも相まって「美少女」そのものであった。

さらに、スラッとした手足…
15歳にしては膨らんでいる方かと思われる、胸…
うるツヤの髪の毛…

「こんなの原宿歩いたらスカウトの名刺10枚ぐらいもらっちゃうわ…」

目の前の美少女な自分にテンションが上がり、急いで制服に袖を通す。
いったいニーソを履くなんて何年ぶりだろうか。
奇抜な制服だが、美少女にはめちゃくちゃ似合う!
オラワクワクしてきたぞ!

着替えていると、太腿に痣があることに気がついた。
馬に踏まれたことを思い出す。
事故の傷痕が消えて、替わりに蹄の痕がはっきり赤く、皮膚に馴染んでいた。

転生されたことでのヒントはないか、私は部屋を見渡した。
すると、机の上に書類が置かれているのが目に入る。

封筒には、「正十字学園」と書かれており、中には入学案内と入学許可証が入っていた。
パンフレットに掲載されている制服姿の男女の写真を見て、自分が入学する学校はここであると悟った。

正十字学園…すごい名前…
15歳かぁー、女子高校生…JKかぁー尊い身分だなぁー
高校生から人生やり直せってか?
美少女になって青春謳歌せいってことか?願ったり叶ったりだよ!

パラパラと書類を確認していると、「入学式 式次第・全体進行」の文字が目に入る。
………ん?入学式?

手元のケータイに表示されている日付を確認すると、入学式の日付と同日。
「正十字学園って近いの?地元にそんな学校なかった気がする…」

ブラウザを開き、「正十字学園」と検索すると、学園名と同じ駅名がヒットした。
この世界には正十字学園町という都市が存在しているらしい。しかも、東京都に。

「東京都!?東京都って書いてある!?えっ、うそでしょ…」

実家があるのは、東京まで新幹線2時間の距離の地方都市。
焦燥感に駆られながら、他に手がかりをと探して目に入ったのは「入寮案内」の冊子。

全寮制ってまじっすか…

時計を確認して、頭の中で時間を逆算する。
慌ててボストンバッグを押入れから取り出し、手当たり次第に衣服を詰め込んでいく。
見覚えのあるそれらに懐かしむ余裕もなく、自室を飛び出た。

「おおおおおお、お母さん!私、新幹線乗らなくちゃいけなくて!」

リビングに駆け込むと、母親はキョトンとした表情をした後、鼻で笑った。

「寝ぼけてるの?早く朝ごはん食べちゃって、駅まで送ってくから」

「ほら、急いで」と食卓に促され、私はパンフレットを読みながらトーストにかぶりつく。
入学式は本日、昼過ぎから。
入学式の前に入寮手続きを済ませておき、荷物を預けた後に式へ参加する行程になっていた。

「魔法少女って、空飛べるとか…そうゆうオプションは無いのかな…」

急いで身支度を済ませ、懐かしの我が家を後にした。

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『まもなく、正十字学園、正十字学園です。お忘れ物なさいませんよう、ご注意ください。』

電車のアナウンスに合わせて降車の準備を整える。

お母さんに自宅の最寄り駅まで送ってもらった後、新幹線に乗車して通学カバンの中身を確認した。
見覚えのある、懐かしの手荷物たち。
筆入れ、ポーチ、鏡、ハンカチ、財布、用途不明のおしゃれな鍵。
財布とは別で、お母さんがお小遣い用にって通帳をくれた。
その金額に驚くが、きっと世界が変わって都合良いようにできているのだろう、と解釈した。
どうやら、正十字学園は金持ち学校みたいだし。

お金に困らない学園生活って、いったいどんなゲーム展開だよ…
情報が多すぎてパンクしそう。

しかし、ここまで、これといった魔女っ子イベントが無い。

よくある展開だと、可愛い妖精が「変身するめぽー」とか言ってでてきたりするもんじゃないの?
変身アイテム的なものは見当たらないし、本当に魔法少女になれているのか疑惑の念が沸々と…

東京駅に着いてからは正十字学園駅に繋がる路線を探し、見覚えの無い電車を疑いつつも乗り込んだ。
同じ制服を着た人を見かけて、今日一番の安心感を得た気がする。

電車を乗り換えて数十分、トンネルを抜けると、まるで要塞のような、
美しい街並みが目に入った。

今日からここで学ぶのだ。
そう、

美少女高校生として…!

家を出てから、周囲の人の目がやけに気になっていた。
電車に乗り、窓ガラスに映る自分を見て気がついた。
私は、美少女なのだ。

大きい駅に着くと、慣れない視線に耐えられず、新幹線に乗る前にマスクを買って顔を隠した。
モテ耐性、ゼロ!
こんなん可愛い同級生、思春期の少年たちが黙っちゃいねえよ…

逆に、それを利用して初心な男子高校生をたぶらかすこともできちゃうわけだ。
転生…美少女…若返り…最高です!

正十字学園駅に降り立ち、学校へ向かう。
やけにたくさんの車が通っているが、おそらくすべて送迎用だろう。
正十字学園のことは、新幹線車内で事前に基礎知識は補充した。

全国各地から、金持ちのご子息・ご息女が入学してくるらしい。
黒塗りのクラウンやらレクサスやらが道に列をなしており、まるで花より男子の世界だ。

「F4と遭遇しちゃったりするのかなー、逆ハーレムは転生のセオリーみたいなもんだよなー」

期待に胸踊らせつつ、入寮手続きを済ませてクロークに荷物を預ける。
その足で大講堂へ向かうと、おろしたてと見える制服をぴちっと着た学生がずらっと着席していた。

ー奥から詰めて下さーい
ーまもなく開会しまーす

どうやら私のクラスは1-Aとなるらしく、指定された席に腰掛けた。
隣の席にはメガネをかけた坊主の男の子。
クラスメイトとなる彼に声をかけた。

「1-Aだよね、よっよろしく!」
「はい!よろしゅうお願いします」

この世界に来てから、身内以外に声をかけるのは初めてだ。
とてつもなく緊張した…

少年が気さくに挨拶を返してくれたことにホッと一安心。

「三輪言います」
「私はくまがい くるみ、三輪くんは関西出身とか?」
「はい、生まれも育ちも京都です」
「私も今日東京に来たんだ。地方出身同士よろしくね」

三輪くんは幼馴染2人と正十字学園へ入学したが、皆クラスは別々になったという。
「話しかけてくれはる人おってホッとしましたわー」なんて可愛いことを言ってくれた。
マルコメ男子高校生…可愛すぎだろ…

ー只今より、正十字学園入学式を開会します。
ー入学生一同、起立

式が始まり、お互いに口をつぐむ。
起立の合図を耳に入れ、その場に立った瞬間、私は、膝の上に置いたかばんの中身をぶちまけてしまった。
三輪くんが拾うのを手伝ってくれる。

「三輪くんありがとう」

小声で御礼を言い彼に目をやると、表情に驚愕の色が見えた。

「くまがいさん、これって…祓魔塾の鍵、ですよね?」

そう言って三輪くんは鍵を私に手渡してくれた。
「ほうかー、くまがいさんも祓魔師目指してはるんやね」というと、三輪くんは壇上に顔を戻した。

祓魔塾…とは?
ーーーーーーーーーー

京都の人は地方出身と言うと怒るって本当ですか…
ファーストコンタクトは子猫丸にしました。面倒見よいからね。

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