036(イルミナティ編)

「くまがいさん!先に来はってたんですか」
「くるみちゃん!」

私の姿を見るなり、三輪くんとしえみちゃんが駆け寄って来た。
「別ルートでごめんね」と詫びを入れる。
改札を通る塾生たちも次々と駆け寄り、奥村先生が口を開く。

「フェレス卿から連絡がありました。…何かあったんですか?」
「えっと…懐古、してました」
「はぁ…、懐古?」
「自分のルーツを辿ったというか、なんというか」
「はぁ…」

私の曖昧な言い回しに、奥村先生は納得がいかないといった表情を浮かべた。
私は揃っているメンバーを見渡す。

「7人…なんですよね」
「えぇ、そうなります。行きましょう」

私が言及したいことをわかったうえで、奥村先生は率先して歩を進めた。
いつもとちがって、2人足りない。それだけで、こんなにも寂しく感じるものなんだな。

「あのね、くるみちゃん」

しえみちゃんが顔を寄せて声を潜めた。

「ノリちゃんから伝言、「出雲ちゃんをゆるしてあげて」だって。ケンカでもしたの?」
「ゆるしてあげて…?いや、ケンカした覚えは無いんだけどなぁ。私が怒らせてる可能性はあるけど」

思い出すは出雲ちゃんと過ごしてきた日々。
怒られてばかりだな…いや、べつに私が悪いわけでは…悪かったかもしれないけど、彼女が短気なんだよ…

そこまで考えて、「あ!」と思わず声に出した。

ゆるしてあげて、って…“赦してあげて”ってこと…?
私と彼女の間になにかあったというわけではなく、彼女が背負っている義務や責任から開放してあげてということかもしれない。
考えすぎかもしれないが、あの子はさすがというか、察しが良い。
私の世話焼きなところ…そりゃ一回りも上だからか、この世界に来てからはそういったお節介な部分がついつい出てしまう。

私は先程の先代との回想で義務を背負ってしまった。
それは自ら選んだものであり、ゴールが明らかになった出来事であり、むしろこれまでの事なかれ主義を卒業できたきっかけである。決意を固めることができた。ありがとう、フェレス卿。

逆に、彼女はゴールの無いしがらみに縛られており、それらから解き放たれるべきだというノリちゃんからのお願いなのかもしれない。
でも、どうして、私に…?

私はメールをしようとケータイを開きかけて、

また閉じた。

今回の任務で、それがわかるかもしれない。連絡するのは、それでもわからなかったらにしよう。
私はケータイを再びポケットへとすべらせた。

「それにしても、飛行機久しぶりだなあ」
「え!?お前飛行機乗ったことあんのか!」
「お、さては燐は初めてだね?パスポートちゃんと持ってきた?」

そう言うと燐はキョトンとした表情で固まり、その表情はみるみるうちに青ざめていった。

「やべぇ、も、ももも持ってきてねぇ…ってゆうか、俺、パスポート持ってねぇ!!どうしようくるみ!」
「くまがいさん、うちの兄をあまりからかわないであげてください」
「はぁ、見事に騙されはって…。ボク、奥村くんが世間を知らなすぎて心配になってきたん…」

「ウソなのか!?」と言って騒ぐ燐を尻目に、先程から黙々と歩く勝呂に声をかける。

「ねぇ、勝呂さ、ちょっとこれ聞いてもいいかためらうんだけど…、聞いてもいい?」
「…なんや」
「志摩くんに会えたらなんて言うの」

そう聞くと、彼の視線がこっちを向いた。
私と目が合うと、一瞬その目が見開かれる。

「ほんに、それ、よく聞いたな…。別に…、なんも言わんわ。知らん」

そう吐き捨てて、彼はまた視線を前へ戻して歩みを進めた。

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「コッ、コエーッ!飛んだ!!おい飛んだぞ雪男!!」
「兄さん静かに」
「あっ私!お弁当作ってきたんだけどみんな食べる?」
「しえみさん、水平飛行に入ってからです」

ガヤガヤと騒がしいメンバーを乗せて、飛行機が稲生へ向かって離陸した。

…島根県稲生市、聞いたことが無い。
やはり私が住んでいたところとは似て非なる場所なんだな、とあらためて。

私はしえみちゃんからサンドイッチを2つ受取り、隣に座る宝くんに渡す。

仕切り直し、といったように「島根到着まで1時間半、現状について話をしましょう」と奥村先生が全員に行き渡るよう声を張る。
私は身体を伸ばし、後方の座席が見えるように顔だけを座席の上に覗かせた。

中途半端な時期・時間だからか、島根県行きの飛行機はちょこちょこ空席が目立つ。
私と目が合ったことが開始の合図とばかりに、奥村先生が口を開いた。

「昨夜、正十字騎士團本部・全支部・出張所はイルミナティによる熾天使(セラフィム)の自爆攻撃を受けました」

“全支部・出張所”と聞いて、私は視線をそのまま横にスライドさせ、三輪くんと勝呂をチラッと見た。

「…昨夜から、明陀の人たちと連絡つかんのんですけど、それは…」
「恐らく、京都出張所も攻撃を受けて混乱しているはずです。全体の被害状況はまだ不明ですが、本部の三賢者も重傷を負われたらしいと情報が入ってます」
「…!!」

思いの外、被害が広範囲で驚いた…
日本支部は結界の修復及び、修復までに群がる悪魔の駆除とマスコミへの対応に追われているとのこと。

私は、今朝、寮を出る時にルームメイトが騒いで話題にしていたことを思い出す。
学園が「爆発事故」の標的とされたのだ。
昨夜から今朝にかけて、学園からは生徒たちの迎えに来た車や人やらで大混乱。友人も皆帰宅準備で忙しなかった。

「“イルミナティ”って…一体何なんです!?名前だけは知ってましたけど…まさか、本当に存在する組織やとは思ってませんでした」

三輪くんの問いかけに奥村先生が淡々と答える。
騎士團は世界中の結社や悪魔主義半人間団体を監視しており、この手は専門分野とのこと。
イルミナティは二百年以上前に設立された秘密結社の一つであり、現代では消滅した…と言われていた。

ところが、ここ十数年で起こった悪魔絡みの事件において、“イルミナティ”の名を聞くようになっており、騎士團も実態を調査していた。

ここまでが奥村先生が知っているというイルミナティの実態だった。

今回の大きな爆破テロを受けて…もはや調査、に留めおくことはできなくなるだろう。
今後の騎士團としては対抗組織を結成することになるとは思う…もしかしたら、すでにしているかもしれない。

「志摩さんは…そんなとこにいってしもたんか…」

三輪くんが寂しげな目をして、ぽつぽつと語り始める。

「…何が参謀や。僕は何一つ志摩さんのこと判っとらんかった」
「子猫丸…」
「みんなのこと、人一倍見てる気ぃでいた自分が恥ずかしい…て、笑顔で去っていく志摩さんを見た時はそう思ってたけど、でも、僕は、子供の頃から見てきた志摩さんを信じる」

「僕自身の目を信じる」と言った彼の目は急に鋭い眼光へかわり、瞳に光が差したようにキラキラときらめいた。

「私は三輪くんに言ってもらった事的を射てたもの!だから、きっと…!」
「杜山さん…ありがとう…」
「私も、三輪くんのおかげで腹をくくることができたんだよ。だからこれからも、自分の感情を一番に信じてあげていいんじゃないかな」

そう言うと、三輪くんは視線を前の席の私へとずらし、「くまがいさん、ありがとう」とハニカミ気味に笑った。

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いやはや
長らくお待たせしました。更新です!
ようやく更新、気づいたらサイトも設立1年経ってらぁ!うぇい!

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