033(イルミナティ編)

はにかみ笑いで女性をエスコートする男子生徒…
うんとオシャレをして、それに応える女子生徒…

張り切って取り組んだ学園祭もいよいよクライマックス、といった様子。
私はクラスの催し物を終えた後、実行委員としての残作業を済ませ、たった今、落ち着いたところだった。
これから、ダンスパーティーの屋台誘導に回る。

額に浮かんだ汗を、ハンカチで軽く押さえて拭った。
ふと顔を上げると、黒のパンツスーツに身を包み、蝶タイでキメた志摩くんの姿を見つけて手を振る。
彼は一瞬笑顔を見せたが、瞬時にギョッとした表情に変わると早足で近寄ってきた。

「くるみちゃんなんで!?なんでドレスアップしとらんの!?」
「え?いやだって、実行委員だし…」
「いやいやいや!それでもこの会場、そっちのが浮いとるで!せめてスーツやない!?」

喋り続ける彼に昨日のような違和感は無く、いつも通りな様子を見せた。
思い過ごしだったかな…

それにしても、スタッフTシャツ姿がここまで責められるとは…
志摩くんの責めっぷりに、なんだか自分のほうがおかしい気さえしてきてしまい萎縮する。
だって…実行委員だもん…
昼間から着替えていない自分はこの会場ではおかしいみたいだ。

「いやーー、ほんにそれは無いってー」
「まだ言うか…いいじゃんか、別に…」

志摩くんの鬱陶しい絡みに飽き、踵を返して立ち去ろうとした。
が、視線の先の光景に胸の奥がぐるんっと回るような、不快な感覚が押し寄せて思わず足を止めた。

5mほど先のパーティー会場入口には、黒いハットを被り、細身のスーツに身を包んだ佐藤 星也先輩。

彼が、見知らぬ女性と腕を組んでパーティー会場へと入場したところだった。

一瞬、「なぜ、自分以外の人と?」というどろりとした考えが浮かんだが、すぐにその考えを振り払う。
この結果を望んだのは、自分だ。
いつかこうなる日が来ると思っての決断であり、私はもう、とっくに覚悟を決めていた。

楽しげに笑い合う二人の姿を見送り、私はひとつ、大きく深呼吸をした。

落ち着け…落ち着け…わたし…

「あちゃぁー…、くるみちゃーん?」

すっかり忘れていた。
今、隣には志摩くんがいたのだ。
急に言葉を失い、無表情になった私に驚いた彼は、少し戸惑ったような表情で顔を覗かせた。

「ご、ごめん、急に……見た、でしょ?」
「ま、まぁ…ははは…」

「佐藤 星也先輩が女生徒と一緒にダンスパーティーに参加しているところ」と付け加えて言うと、彼は失笑した。

「いやー、よかった!今、超絶複雑だけど!よかったー!正直ちょっと申し訳無さというか、罪悪感があったのよ。思わせぶりのままにしておくのもどうよ?って感じで。でもさ、そうかー、よかったー」

そうまくし立てる私に、志摩くんは失笑したまま肩をポンポンと叩いてくれる。

「くるみちゃんはいなくならんのやし、自分に正直に動いてええと思うんやけど」
「いなくなるかもしれないじゃん!」
「えっ、どこに!?」
「え、あー、えっと、ほら、バチカン?に留学とかさ、赴任とかあるかもしれないでしょ?」

あっぶない…
ギリギリで発言を誤魔化した。
彼は顔をしかめながら、「まぁ、せやねぇ。ないにしもあらずやけど」と言って相槌を打つ。
しかし、急に真顔になり、その視線はスッと真っ直ぐ私の目を見ていた。

「ほんに捨てたないとこがあるんやったら、感情に素直に決断するのもありやと思うで」

そう言うと彼は、スッと腰に手を添えてきて「ボクと踊らへん?」と言い、右手で手を取ろうとしてきたので、

それを左手で叩き落とした。

「痛ッ!」と声を上げる志摩くんからはしっかり目は離さずに、腰に携えていた誘導棒をすぐさま手に持ち直してみぞおちに突き刺す。

彼は声にならない苦しそうなうめき声で地に膝を付けてうずくまった。

「うそやん…今の、惚れてまうシチュエーションやないの…」
「乙女のブロークンハートに付け入る下心が見え見えじゃろがい!」
「しかも…霧隠先生の修行の成果出とるし…」
「なめてもらっちゃあ困りますよ」

涙目で下から見上げる志摩くんをドヤ顔で見下ろす。
不覚にも少しドキッとしたが、彼が本気ではないことは一目瞭然だ。

「後生やーー!一生のお願い!オレの高校の思い出になってほしいんーー!」
「はぁ?来年もあるでしょ!!こういうのは、仲の良い女友達で手を打つもんじゃないから!」
「行かないでーーーー!オレの思い出ー!」

やかましい…と思いつつも、私は彼を振り払って歩きだす。
こんなことしてる場合じゃないわな。
仕事しよ。

少しマシになった心のわだかまりにフフッと笑い、私は屋台群を目指した。

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「D組どうっすかー?儲かってる?どうよどうよ?」
「え……………………え、くまがいさん!?!!?」

後醍院くんが声をあげた瞬間、屋台の奥でおにぎり製造に勤しむD組の皆さんが顔を覗かせた。
その中に見知った人物の顔がないことが気になり、「奥村くんは?」と尋ねた。

「ぁっ、さっき、休憩に行って」
「あぁ、そうなのね。後醍院くんもみんなもムリなさらず!引き続き屋台群の循環してるんで、困ったら実行委員まで!」

そう言って腕章を振りかざして一礼すると、彼もペコッと返してくれた。

私はその隣、その隣と屋台の様子を見て、困っている学生やそれ以外の業者に対処方法をアドバイスしていく。
業者ゴミの指定場所を聞かれたり、メアドを聞かれたり…備品を借りたいと相談されたり、メアドを聞かれたり…

実行委員は縁の下の力持ちだ。
雑用的な雑務が多いが、私はとても満喫している。
こういった走り回ってガツガツ仕事を取っていくスタイルは気持ちよく、向いているなあと感じる。
実際に、とてつもなくやり甲斐を感じていた。

本部に戻るついでに、と言って預かった廃棄段ボールをゴミ捨て場に持って行こうと廃棄場に足を踏み入れた。
瞬間、ズキッ!と鋭い痛みを内腿に感じ、思わずその場にしゃがみこむ。

ユニコーンがつけた印章のところだ。

私はその痛みに顔をしかめながら、「ユニコーン、どうしたの?」と声を掛けた。
私の呼声に反応し、辺りがまばゆい光で満たされてユニコーンは姿をあらわす。

ふと、いつもと違って慌てた様子の彼を見て、不思議に思う。
「何があったの?」と尋ねる前に、彼が口をひらいた。

『くるみ!出雲が連れてかれちゃう!』

出雲ちゃんが、連れてかれる…?
「誰に?」と聞くと、彼はふんふんと鼻をならすような仕草で辺りを怪訝そうに見渡す。
辺りを警戒したかと思うと、「こっち!」と言って急に駆け出した。

「えっ!ちょ…っ!!?」

途端、彼は私のTシャツの裾を咥えて蹄の音を鳴らす。
私は転ばないように、ユニコーンの速度について行こうと必死に足を動かす。

目まぐるしく周りの風景が変わり、気がつけば展望広場へと繋がる階段を登っていた。

『くるみ、ここからは覚悟して』
「はぁ、はぁ、ユニコーン…?」

私は、途切れ途切れとなる息を整えながら階段を登りきり、展望広場へと踏み込んだ。
すると、目の前には、宝くん。
瞬間、彼の声がこだまする。

『てめぇがイルミナティのスパイか』
「宝くんと、志摩くん?」

そして私は、志摩くんが抱く少女を見て目を見張る。

「出雲ちゃん!!!!!!」

ただ事ではない光景がそこには広がり、私は状況を把握するよりも早く右手を前面に突き出して「ユニコーン!」と声を張り上げ、槍となったそれを左手も添えて構えた。

「あかんー。くるみちゃんも来ると思わんかったわー、これは、ちと、計算外ちゅうかなんちゅうか…」
「志摩、くん?………どうゆうことか、ちゃんと話して!!」

私は宝くん、志摩くんと両方と適度に距離を取って得物を構える。

「あーーー、こんなとき悪いんやけど、上役さんのご登場や」

先程までダンパの会場にいたから気づかなかった。
喧騒に紛れてヘリコプターが登場した。ここまで近ければ十分存在にも気づけていたが、“上役”って…?

まさに近くへ着陸を試みるヘリコプター。
それを平然とした態度で迎え入れる宝くんと志摩くんに戸惑った。
眼球が風圧で乾く。私は視界を確保するべく、腕で軽く風を塞いだ。

ヘリコプターが着陸し、ドアがバンッ!と勢い良く開いたと同時に、中から数人の大人たちが出てきた。
その物々しい雰囲気に警戒を余計に強める。

「よくやった」
「はぁどうも」

そう言って志摩くんと言葉を交わした女性は、こちらへ身体を向けたまま、チラリと出雲ちゃんを見やる。
そして再び、こちらへと視線を向けた。

「何だ奴は?」
「ああ、えっとぉ」
『俺の目的は終わった。邪魔はしない』
「……だそーですわ」

宝くんはそう言ってその場から動かない。
ここまでの一連の流れをぼけっと見て、ハッと我に返った。

「ちょ、ちょっと!出雲ちゃんをどうするつもり!?」
「……お前が、アイアン・メイデンか…」
「アイアン・メイデンって知って…」

眼鏡をかけた軍服姿の女性が、私を見て目を見開いた。
私は警戒を更に強めて睨みつける。
詠唱ができるよう口を開いた瞬間、女が射るような声で「粗相のないようにしろ」と言葉を発した。
それが私に言われてると気付き、思わず口を噤む。

「志摩!!……出雲!?」
「奥村くっっ…!?!!?」

奥村くんの声が聞こえて振り返ったと同時。
ただ眩しい、目を開けられないほどの光を背後に感じてギュッと目を瞑った。
その眩しさと感じる熱に、皮膚がヒリヒリと灼けた感覚を覚えた。

「初めましてみなさん。このように強制的に声を届ける無礼をお許し下さい」

焼けるような眩しさがマシになったところで、私はゆっくりと、目を開く。

そして、仮面の男と、目が合った。

「お逢いできてうれしいですよ、アイアン・メイデン」

確かに彼は、そう言ったのだ。

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あああああああああ
ついに、ついに、、、いよいよイルミナティ編はじまるね!!って感じですね!
プロローグ的な場面が2話続きましたが、無事に本編始まった感じ。

更新ペースゆっくりですが、末永くお付き合いください。
あと、最近、オリキャラの佐藤 星也先輩が好きと感想いただけたので嬉しいです。
彼とヒロインのお話はこれで終わりなんですが、絡む機会はまた、どこかで持たせるつもりなので、お楽しみにしてください笑
祓魔師ではない女子高生らしさを唯一出せる存在なので重宝するキャラクターです。

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