032(イルミナティ編)


学園祭初日は、ド派手なオープニングセレモニーで盛大に開催を宣言された。
つつがなく進行し、無事に本日二日目を迎えられているが、私の脳裏には常に昨日の志摩くんが言ったことがぼやぁっと浮かんでいる。

ーーー「ユニコーンくんと、まだしばらく仲良くしはってね」

仲、良いんだけどなあ。
傍から見てるとそうは見えないんだろうか?

その後、そそくさといなくなった志摩くんにそれ以上言及することができず、なぁなぁになってしまっている。
とりあえずその日の晩は人目を忍んでユニコーンを召喚し、毛並みを梳かしてあげたのだった。

もう一周、宣伝で校内を回ろうとプラカードを持ち直したところ、教室から三輪くんが出てきたところに居合わせた。

「三輪くんお疲れ様!午後は自由に回ってきていいよー」
「くまがいさんこそ…、ちゃんと休んではる?お昼食べてないやろ」

そう言って、三輪くんは私が抱えているプラカードをさっと取り上げる。

「うん…うん…!実はすっごいお腹空いてた。急いでたから、朝ごはんも二杯しか食べてないの…」
「あ、おかわりはしてるんや。この後もお務めあるみたいやし、僕がココ変わってるさかい、ご飯食べてきはったらええよ」
「天使か。三輪天使丸かよ。ありがとうーー!」

「天使丸て…」と言って薄ら笑いを浮かべる彼に手を振り、私は目当ての屋台に向かって早足でその場を後にした。

昨日今日と秋晴れが心地よく、学園祭を楽しむにはうってつけのお天気だった。
我がクラスのプラネタリウムも大盛況!
時間別でシナリオを変え、子ども向け、中学受験対策、神話絡み、恋人向けとバリエーションを分けたことで全公演大人気だ。
打ち上げが楽しみでたまらない!

浮かれた私の足取りは軽く、あっという間に校庭の屋台エリアに出ていた。
目指すはただひとつ!

我らが誇る祓魔師料理番、奥村燐率いる1-Dおにぎり屋!!!!

お昼ちょい前ぐらい、かな?
混雑してそうだが、並ぶくらいの胆力はまだ、ある。

おにぎり屋で切り盛りする奥村くんの姿を目で捉え、私は列に並ぼうと最後尾に目をやる…と、見慣れたトサカヘアが目に入った。

「よ!勝呂くんも奥村くん目当て?」
「奥村目当てってなんやねん。買いに来い言われたさかい、しゃあなしに来てやってん」
「優しいじゃん。まぁ、評判いいしね!おっ!アラ汁も置いてあるー」

私は勝呂くんの真後ろに並び、列の進みを待った。
手渡されたメニュー表に目を通していると、勝呂くんが思い出したかのように口を開く。

「ちなみに河童は尻子玉は抜かんからな。ただの伝承や」
「えぇ!?そうなの!!?」

たしかに、尻子玉って身体のどの部分だ?
そう思って頭を捻る私を見て、勝呂くんは鼻で笑う。
いや、信じるでしょ、ふつう…!
こんな世界に来てしまったんだから、河童も絶対いるだろうし、尻子玉も抜くんだろうなって信じるし。
と考えながら目線を上げると、彼はまるで心の中を読んでいたかのように「尻子玉はあると思われてた架空の臓器やな」と小馬鹿にしたように教えてくれる。

そんな彼を見てふと、志摩くんのことを思い出した。
私は思い切って話題を切り出した。

「あのさ、私、ユニコーンと仲良くないように見える?」
「はぁ?なんのこっちゃ。仲良ぇか悪いか聞かれたら良ぇほうちゃうのん」

よかった…!そうは見えていないらしい。
志摩くんだけじゃないの?

「なんかさー、志摩くんに「まだユニコーンと仲良くしてろ」って言われて、どういうことかなって。仲良く見えてないのかなって。気になって、その日の夜は無駄に召喚して毛並み梳かしたりしちゃったわ…」
「「まだユニコーンと仲良くしてろ」かぁ…。あぁ、もしかして、」

そう言いかけて、彼はキョロキョロと周りを見渡した後、口を私の耳に近づけてコソッと呟く。

「あれや、貞操守っとれいうことやないんか?」
「ていそっっ…!!?」

驚いて顔を上げると、勝呂くんの耳は少し赤く染まっていた。
しかしその表情には怒りにも似た感情も浮き出ており、「志摩…あいつ…」とつぶやく。
いや、いやいやいや、あんたこそ何言ってんの!?

「えーーー、そんな感じじゃなかったなあ。なんか意を決した感じ?寂しそうな顔だったよ。ここだけの話みたいな雰囲気で話されたし。今、他人に言っちゃったけど」
「ほぉかー。なんやお前に気ぃでもあってそないなこと言うたんちゃうか思ったんやけど」

そう言って勝呂くんは少し考え込むように黙った。
長蛇の列はようやく中ほどをすぎたところまで進み、ようやく奥村くんの姿がちらちらと目に入るようになった。

「なぁ、くまがい。お前ってほんに16歳か?」
「ふぇっ!?」

唐突な質問に、素っ頓狂な声が出る。
勝呂くんの表情を見る限り、彼は冗談などではないことが伺える。

まさか、なにか、バレた?

私が返答に困っていると、彼は「あぁ、あんな…」と言って言葉を紡ぐ。

「宝ねむが、俺らの1つ上やってん。最近知ったんやけど」
「えぇ!?そうだったの……そう言われてみれば、たしかに学年では見かけないかも」
「せやねん。そやから、もしかしたらお前も、なんちゅーか留年というか、事情があって年上やったりすんのかなて思ぉただけなんやけど。なんや落ち着いてるし、志摩も……俺らにはそんな態度とったことあらへんし…」

勝呂くんがしょんぼりしてる…。
珍しいこともあるもんだ、と思い、そんな彼の姿をまじまじと見てしまう。
が、そういやもともとデリケートな人だったわ。
強がりさんだからそんなキャラには見えないけれども、わりと繊細な人間だったことを思い出す。

つまり、志摩くんが勝呂くんや三輪くんに見せないような弱い姿を私に見せたと知り、私の底知れない愛の深さは16歳にはありえへーん!と思ったわけだ。
ボス猿気質の彼のことだ、きっと頼ってほしいんだろう。
なるほどね。

彼の考え事を察して、私は納得した。

「ほら、君たちは家族なんでしょ?他所にポロッと漏らしたくなることもあるって。あんさんも何でもかんでもおかんには話さないでしょう?初恋の話とかした?どうせ幼稚園の先生とかでしょ」
「ちがうわ!なに適当なこと言ってくれはんのや!」
「ははは、図星顔」
「やかましい!えぇかげんにせえよ!?」

暗い顔は一変、いつもの坊に戻って少しホッとした。
きっとアホの志摩くんは、彼ら家族には見せられない姿があるんだろう。
そう思うことにして、次に彼に会ったら優しくしてあげようという考えが頭をよぎった。

「俺の初恋は小学生や!」と言われ、「あ、そうなの?」などと騒がしく話していると、「勝呂!くるみ!」と名前を呼ばれた。

「奥村くん!来たよ来たよーー!お疲れ様」
「奥村、ちぃっとでえぇから勉強してくれはってもええんやぞ」
「は?勉強?教えてくれんのか、勝呂」
「あー!違う違う!そう言う意味じゃないから忘れて。勝呂くんも通じるはずないこと言わないの」

話がややこしくなりそうなので遮って注文をした。
昨日食べられなかった分、今日は絶対ココに来て全種類食らってやると決めていた!!!!

「ここからここまで全部ください!」
「おう!全部な!」
「え、くまがいさんって大食いなんだ…」

握ってくれている奥村くんの隣では、彼のクラスメートがお会計を進めてくれる。
「こいつ後醍院!俺の友達だ!」と嬉しく言う奥村くんの笑顔に心がほわっとなった。

「よろしくね、Aクラスのくまがいくるみです」
「ぁっ!は、はい!…存じ上げてます」
「やべえ、くまがいさんがおにぎり買いに来てんぞ…」
「こ、こここんな間近でくるみタソ見るの初めて…控えめに言って最高…女神…」

視線感じるな、と思って屋台の奥に目を向けると、Dクラスの野郎たちがこちらを見てコソコソと喋っているのが聞こえる。
その様子に乾いた笑みが漏れた。
嬉しいね、嬉しいけど、タソはねえだろ!タソって…!

知らぬ間につけられているニックネームがジワジワ来て笑い出しそうになったと同時に、奥村くんが袋いっぱいのおにぎりをずいっと渡してくれる。

「俺さ、メフィストにフェスの屋台も任されて出れるようになったんだ!」
「えー!そうなの?よかったじゃんー!おめでとう!頑張ってね」
「おう!くるみも、じっこー委員頑張れよ」
「ありがとー」

私は奥村くんに手を振り、屋台を後にした。
「お前…ほんに、その量食うんか?」と引き気味に言う勝呂くんを無視し、私は手元のアラ汁を口に運んだ。

「ん…?んんんんん!??う、うまーーーーーーーーーーーーーーーい!」
「…!ほんまや、なんや、やっぱあいつ料理の上手さえげつないなぁ」
「いい嫁になれるよあれは…」
「嫁かどうかはさておき、商売できるレベルやな」
「でも頭が残念だからな。坊、一緒にお店やってあげなよ」

「坊言うな!」と突っ込まれる前に私は身を翻し、彼の罵声をかわして軽やかに歩きだす。
さーて、午後の部もあとちょっと!
これが終わったらいよいよフィナーレとなるダンスパーティーが始まる。
私は左腕に巻かれた実行委員の腕章がついているのを確認して、気合いを入れ直した。





ーーーーーーーーーー

いよいよ学園祭も終盤です。
坊との絡み回になったな…でしゃばりめ…

勝呂落ちではないので、イチャイチャは言うほどしません!よ!
ヒロインに動いてもらっていると、不思議と勝呂とはいちゃつかないので、やっぱコイツとはくっつかないんだろうなあと思いながら筆を進めています。

ヒロインのモテ設定、たまに忘れるので笑、こうしてメインキャラ以外にはそわそわしてもらいましょう!

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