031(イルミナティ編)

「ちょっと、なんでここにいんのよ!?」
「し、しえみちゃんだ…!」

のりちゃんが「じゃーん」と言って連れてきたのは、見まごうことなかれ杜山しえみだった。

「中途入学してきたんだって!私と同じB組だよー!」
「うんっ!神木さん、くるみちゃん…い、一緒にお昼食べよ!」

出雲ちゃんは驚いた様子で呆気にとられている。
私は「どうぞどうぞ!」と言って、机を増やしてランチスペースを拡張した。

「朴さんとは会う機会減っちゃったから、同じクラスで嬉しいな…!!」
「私もだよー!暫くの間に少し大人っぽくなった?」
「それな!今日の髪飾りもかーわいいねー」
「えっっ本当!?うわぁ…ありがとう!髪ね、伸ばしてるの。大人っぽくなりたくて…!」
「いいじゃんいいじゃん!」
「似合ってるよー」
「わああ嬉しい!!」

キャイキャイとはしゃいでいると、ふと発言の無い出雲ちゃんが気になってチラッと彼女を見やる。
出雲ちゃんは呆気にとられたまま、じとーっと私たちを見つめていた。
「出雲ちゃん?」と声を掛けると、「こいつらノリが似てる…」とぼそっと呟く。

「しえみちゃんって呼んでもいーい?」
「えっ!?呼んで呼んでー!!じゃあ私も…」

しえみちゃんは私の方をチラッと見上げてから口をひらく。

「くるみちゃんが呼んでるみたいに、“ノリちゃん”って…。神木さんも“出雲ちゃん”って…!」
「あたしを巻き込まないでよ!!」
「もー、また出雲ちゃんはガオガオしてー」
「ウチの出雲がすみませんねぇ、気難しい子で…」

ノリちゃんの言い方に「あはは」と笑うと、出雲ちゃんの視線がギンッ!とこちらへ向けられた。
うわっこわっ!
私は一緒に笑うしえみちゃんの方を向いて、気づかないふりをしてやり過ごす。
気づかない気づかない。
知らない知らない。

そのまま「いただきます」と言い、購買で買ったハンバーガーの包をほどいてかぶりついた。
ノリちゃんが「いい時期に入学したね」と言って学園祭の話題を振ると、しえみちゃんはキラキラと目を輝かせた。
彼女の家は学園の目と鼻の先。
毎年、遠目から学園祭の様子を見ているのだそうだ。

「入学したってことは、2日目にあるダンスパーティーにも出れるね!」
「ダンスパーティー?」
「学園祭二日目に学生限定の音楽フェスティバルがあるんだよ。有名なアーティストもくるし。正装して、夜中まで堂々と遊べるから皆すっごい楽しみにしてるんだよー!」

ノリちゃんの説明を聞くしえみちゃんの目はますますキラキラと輝いていた。
「男女ペアでの参加が条件なんだ」というノリちゃんに、「ノリちゃんは既に相手がいるもんね」と冷やかしの言葉をかける。
彼女はハニカミ顔で「んふふー」と笑いかけてくれた。

しえみちゃんはもぐもぐと口の中の物を飲み込み、「そ、それって恋人ってこと…?」と疑問を口にする。
私とノリちゃんは顔を見合わせてから頷いた。

「ほとんどそうだよね?」
「うん、ダンパの約束する=告白みたくなったもんね、カップル急増中ですわ!あっついあっつい。」
「そ、そっかぁ…みんな大人だなぁ…!」

しえみちゃんがイスをずらし、教室をぐるっと見渡す。
つられて私も視線を向けると、いちゃこらいちゃこらと生徒がいちゃ付き合っている様子が目についた。
こりゃ浮足立ってますわ…若いっていいなぁ…

「でも、友達とでもいいんじゃないかな?私もよく走らない先輩と行くよー」
「え、そうなの!?なんかもっとわかりやすいフラグが過去に立ってるのかと思ってた」
「ちがうのー。まだあまり関わりがなくて、これから、かな。しえみちゃんも誰か誘ってみたら?」

そう言うノリちゃんの言葉にかぶせて、出雲ちゃんが「ハッ」と小バカにしたように笑う。

「そいつなんて、ほっといても誘われるわよ」
「出雲ちゃん冷めたもんだね…」
「あ、あーーー!確かに。うん、誘われるわ」
「え…?くるみちゃんまで…………あ、あーー」

三人で顔を見合わせ、最近ダンパダンパうるさい男友達の顔を思い浮かべる。
しかし、しえみちゃんはそんなこともお構いなしにポツリと一言、「誘ってみようかな」とこぼした。
その瞬間、ノリちゃんが机に身を乗り出し、「誰誘うの!?」と興奮気味に詰め寄る。
私もしえみちゃんの積極性に興味のパロメーターがぎゅんっと上がる。

「まじか!しえみちゃん、誘いたい人い…」
「しえみ!!」

私の言葉を遮るように、奥村くんが教室に飛び込んでしえみちゃんを呼びつける。
さすが、早かったな…
彼は息を整えて、顔を上げる。バチッと目が合ったので、私は思わずニヤァっと笑った。
奥村くんはバツが悪そうにサッと視線を逸らすと、「ちょっと顔かせ」と言ってバルコニーに出る。
しえみちゃんも「私も丁度話したかったの」と言って後をついて出ていった。

「ほらね」
「うわーどうなっちゃうんだろう!」
「えー、しえみちゃんは奥村弟の方なのかと思ってたわー」

そう言う私に、二人の視線が向けられる。

「前にも勉強教わってたんだって。んで、今回の転入もきっと一枚噛んでますよ。杜山しえみは先生に気があるのではないかと私はずっと睨んでいるわけですわ」
「なるほどー。うーーん、私は奥村くんもいいと思うんだけどなあ」
「つまり、三角関係ね」

女三人寄れば姦しい。
私たちはぺちゃくちゃと席を外した二人の友人の仲について語り明かした。

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「あれ、暗幕の布たりなくない?」
「あー、ちょっと実行委員の本部行ってくるついでに取ってくるよ。何枚?」

学園祭前日。
今日は丸一日準備時間として授業もすべて休み、浮足立った生徒が学園祭に向けてせかせかと働く日なのである。
教室を出かかったとき、クラスメートの困った声が耳に届いたので一声かける。
「140cmサイズ二枚!ありがとー」と言う彼女らに手を挙げて了解の意を伝えると、私は教室を後にした。

廊下を俯瞰して見ると、各クラスのこだわりがそれぞれ光っており、うちも負けられないなー!と励まされる。
その時、「くるみちゃん!」と聞き覚えのある見知った人の声で呼び止められた。ノリちゃんだ。

「おーノリちゃん!おつかれ!」と声を掛けると、「なんだか忙しそう、だね?」と首を傾げて返される。

「出雲ちゃんが内装凝ってないって言ってたけど…」
「うそ!ちくしょう神木出雲ー!サボりやがってー!」
「あ、うそなんだ!?」

どうりで…!出雲ちゃんの姿見かけないなって思ったわ…
まぁ、言うほど手が足りないわけでもないし、同じ係の誰かが帰しちゃったのかもしれない。
そう思っていると、ノリちゃんは私の腕を掴み、すすすっと廊下の端に寄った。
そして、声を潜めて「しえみちゃん、奥村先生をダンパに誘ったけど断られたって。そして、奥村くんも切り出せずに結局終わったって」と言いかけたところで…

「えーーーー!」
「シッ!トップシークレットだから!くるみちゃん静かに!!」

大声を出して怒られた。
「この間、奥村くん呼び出したじゃん!?」と聞くと、それはどうやら彼女の「雪ちゃんを誘おうか迷っている」の相談で切り出せず。
「で、結局杜山しえみはどっちが好きなのさ!?」と聞くと、「二人とも大事な友達」とのこと。
ノリちゃんは嬉しそうに報告してくれた。

「先は長いよ、これは」
「まだしばらく楽しめそうですわ」
「なにー?なんの話しとんのん?俺も混ぜてー」

まったくいったい、毎回どこから沸いて出て来るのか。
志摩くんがひょこっと顔を覗き込んできた。

「志摩くんおつかれさまー。ほらぁ、ダンスパーティーの件。奥村くんしえみちゃんのこと誘えなかったって話してたの」
「恋バナやん!もっとはよぉ呼んでくれはってもよかってんー」
「むしろよく嗅ぎつけてきたな!わるいけど、私はそろそろ仕事に戻るんで」

そう言って三人の円陣から抜けると、「俺、くるみちゃんに用あったんや、歩きながら話聞いてー」と言って着いてくる。

「朴ちゃん、ほなまたー」と言いながらハートを飛ばしながら手を振る彼はくるりと振り向くと、ニコニコと隣を歩き始める。
少し、様子がおかしい…気がする。

「志摩くんってさ、いつも笑顔だよね」
「んー?だって笑顔やと女の子の方から話しかけやすいやん?」
「え、それが理由なの!?歪みないね…でもさ、今日の笑顔、話しかけづらいよ」

率直に申し上げる。
「えぇー」と、いかにもがっかりと言った風に意を申し立てる彼に、「なんかあったの」と尋ねようかと顔を上げる。
が、彼の表情を見て、言葉に詰まった。

「なんで……寂しそうなの?」

そう、寂しそう。
…まるで、家に帰ることを拒む子どものような表情で彼は笑っていた。

「…………ホンマ、ズルいわ…」
「ズ、ズルいのはそっちでしょ!なに、隠し事して。何か聞いて欲しい話あるんでしょ?だからそんな顔してるんでしょ?」

志摩くんの用事なんて大した話じゃないだろう、どうせ女紹介しろとかそんなんだろうと適当にあしらおうとしていたところ、これですわ。
なんで、そんな顔してるの?
不意打ちすぎて動揺が隠せない。可愛すぎて、どうも、調子が狂うなあ。

「俺、けっこー頑張ってるんよ。くるみちゃん、ヨシヨシして」
「いやいやいやいや、年頃の男の子の頭ヨシヨシとかしちゃだめでしょ!」
「……奥村くんにはしてはるのに?」

え?いつの話だ?
え、した?私したっけ?

全然記憶に無い。頭をどうひねっても思い出せない。
そんな私を見て、志摩くんは「ぷはっ」と小さく吹き出す。

「ええなぁ、奥村くんはアホの特権やなー。くるみちゃんごめん!忘れてくれはってええからー」
「ん?あ、そう?」

「ほな、委員会きばってなー」と言って踵を返す彼の腕を「ちょちょちょちょっと待って!」っと引き止める。

「話って…それのことなの?違うでしょ?」

ここまで不自然だと勘ぐらない方がおかしい。
だって、どう見ても、いつもの志摩くんじゃない。
彼の腕を掴む手にグッと力が入る。

「くるみちゃんの前だとボロが出そうやなと思っとって、でも、なんや、お願いごとあってな」

ボロ…?
何かやらかしたのか、こいつ?覗き、とか?
今更覗きの一つや二つやってそうだけど、こんな様子をおかしくしてまで謝らなきゃいけないでかい事やらかしたのか?

そんなことを考えて次の言葉を待つ私。
そして彼は、「んーと、えーと」と言葉を選ぶような素振りをした後、意を決したように口を開いた。

「ユニコーンくんと、まだしばらく仲良くしはってね」

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しえみようこそ正十字学園へ!
女子が四人集まるとガールズトークが捗るねー。

志摩は熱い人たちに囲まれて育ったので、ヒロインの事なかれ主義なところに少し共感を覚えています。
つい甘えたくなっちゃったんでしょうね。

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