030(イルミナティ編)

「皆さん!投票ありがとうございました。多数決により、1-Aはプラネタリウムに決定しました!最高の思い出つくろうなー!いぇーーーーーい!!!」

ははは…
くまがいさんテンション高いなぁ。

学園祭の企画は各クラスごとに自由に決めてええことになっている。
実行委員を2名づつ決めて、その委員を筆頭に当日へ向けて準備を行っていく段取りや。
うちのクラスはくまがいさんが実行委員に立候補したのを皮切りに、彼女に気のある男子たちがもう一枠を争ぉてはった。
そして現在、彼女の隣で板書を務めているクラスメートが、じゃんけん大会で勝ち残った一人。

「くるみちゃん、すごいテンション高いね」
「学園祭委員に立候補したときから、なんか目の色違ったもんな、こういうの好きなんだろな」
「いいかい、諸君。高校一年生の学園祭は今年一回しかないんだよ…!楽しもうね!」

彼女のテンションに引っ張られて、クラスもどんどん騒がしくなっていく。
ほんま、台風の目みたいな人やなあ。

僕は前の席から配られたプリントに目を通す。
そこに書かれた“ナレーター”の役割に惹かれ、進行の話に再度意識を傾けた。

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「なぁくるみ!ダンスパーティー本当に行かねぇのかよ…!」
「んーーーーー、それな、それ、それねぇ………ごめんっ!誘われてたんだけど、断った手前、他の人とは行きづらいわー。実行委員だし、当日は運営の方回るわ。ごめんね」

「他に女友達いねーよ!」と言って、奥村くんはどうしよう、どうしようと騒ぎ立てる。
祓魔師認定試験を3ヶ月後に控えている現実に直面し、塾のクラスメートたちも浮足立ってはいられないと言った様子。
そんな空気を物ともしない奥村くんと志摩くんは、ダメもとでも出雲ちゃんにアタックしては冷たくあしらわれていた。

私も覚悟を決めてからは、騎士と手騎士の同時合格を狙って猛勉強の日々だ。
高校生としての勉強や学生らしい生活はそのままに、祓魔師という特殊な分野も励まなければならない毎日は、正直しんどい。

脳天気だなあ、と彼らを見て苦笑いしていると、隣に座る出雲ちゃんが立ち上がる。
「こんな騒がしいところじゃ自習も捗らないわ」と言って、彼女は教材をカバンに詰め込んだ。

「あたしは一発合格したいの…!!ただでさえ、休塾続きで授業が遅れてるし、二学期から実技講習も始まって時間無い。じゃあね」

そう吐き捨てると、彼女は教室を出ていった。

「初めてアイツと気ィ合ーたわ」
「え、お前はどこへ?」
「これから銃火器の実技講習や。俺も詠唱騎士と竜騎士両方一発合格狙っとるさかい。色恋にうつつぬかしとるヒマないんや。………いつまでも、ワンパターンじゃおられんしな」

三輪くんにワンパターンって言われてたの、気にしてたんだ…。
勝呂くんもいなくなり、人がいっきに二人も減ったことで教室が寂しく感じられた。

「子猫丸も一発合格を?」
「い、いやぁ…僕は一発ではムリやと思てるけど」
「え、そうなの?三輪くんはイケるんじゃないかな?私こそヤバいわ。やっぱ片方に絞った方いいかもなあー…」
「なんだくるみまで…皆カッケェな…」

奥村くんは、まるで他人事のように感心したような口ぶりだ。
「君も試験受けるんだよ」と言うと、危機感の無い顔で首を傾げられた。
試験対策と学園祭の浮かれ気分、彼にとって因果関係はないらしい。

ガタッ!と音がして、そちらへ目を向ける。
勢い良く椅子から立ち上がった志摩くんが、謎の闘志を燃やしていた。

「奥村くんは正しい…!!試験が年一回ゆーても毎年あるやん。…せやけど、高校一年生の学園祭はほんまの一回なんや!!」
「ブハッ!」
「なんや、どっかで聞いたことあるセリフやな…」

心当たりのあるセリフに思わず吹き出す。
三輪くんが苦笑しながら私のことをチラッと見た。

決起した野郎二人を生暖かい目で見守りつつも、私は時計を見て教材をまとめ始めた。
騎士の実技クラスの時間だ。目の前で青春に燃える奥村兄を引っ張って連れて行かなければならんのだ。
私は彼の肩をポンと叩き、「行くよ」と一言。

「んあ…?もうそんな時間か!じゃあな志摩!明日ヨロシクな!」
「任せときぃ!…くるみちゃんほな、また明日ーーッ」

私は軽く手を振り、奥村くんを引き連れて教室を出た。

「奥村くんは勉強捗ってるの?」
「へ!?…ま、まぁーーぼちぼちかな!」
「……今度、一緒に勉強会しようか。専攻一緒だし。」

「まぢで!?」と言って喜ぶ彼の無邪気さに笑みが溢れた。

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「くるみー、Cクラスの子が呼んでるよー」
「くまがいさん、うちの兄がこの手紙読んでほしいって…」
「お前さっき放送で呼び出されてたぞー」
「さっきDクラスの男の子が探してたよ」
「3年の先輩がくまがい呼び出してこいって…」

これは、これは、やばいぞ…!
キャパオーバーだ…!!!!

「ムリ!さばききれない!」と嘆くと、出雲ちゃんに「よかったじゃない、高校一年の学園祭は一回しかないんでしょう?」と返された。
ぐぅの音も出ねぇぜ…

毎日誰かしらかの呼び出しやメールや着信やらで、私は完全に人付き合いに疲弊しきっていた。
佐藤先輩のお誘いはとっくに断っていた。
一度告白まで断っておいて、これ以上気を持たせるようなことをしてはならん。
そして、他の人にも同様にいい顔をしていてはダメだ。

彼らのせっかくの青春を、ただ気を持たせてなぁなぁにさせておくことだけはしておけない。
私は祓魔師となって、来るべき運命の日………そんな日が来るかはわからないが、その時に備えて今は励まないといけないのだ。
このままユニコーンの力だけに頼ってしまったら、中身薄っぺらのまま。宝の持ち腐れ。
あの力を使いこなせるようになるべく、私は勉強と鍛錬を積まなければ…

まずは落ち着こう、とペットボトルの水を一気に飲み干す。
空になったそれをぐしゃっと潰し、ゴミ箱に捨ててふぅ、と一息ついて一言「おかわり!」と言って教室を飛び出す。

その勢いで前方注意を怠っていた。
ドンッと誰かにぶつかり、反射的に「ごめんなさい!」と謝った。

「いえ、僕こそ………、くまがいさん?」
「………あ、あぁ!奥村せっ…、くん!」

ぶつかった相手は奥村弟のほう…奥村雪男だった。
先生と呼びそうなのをぐっと堪えて、彼の顔を見上げた。
チラッと後ろを見ると、女生徒が少し泣きそうな顔で突っ立っている。

なーーーるほど。
どんな状況なのか、一瞬で察した。

「お取り込み中のところ失礼しました!」

そう言って彼らを横目に足早にその場を後にしようとしたところ、「くまがいさん!」と大きめな声で呼び止められた。

「ちょうど話があったんですよ、ほら、あのーーー、オカルト研究会の活動について。どこかへ行く途中ですか?移動しながらでいいんで話しましょう!……というわけで、僕は用事があるので申し訳ありませんが…」
「え…!奥村くんッッ…」

彼女の伸ばしたては空を切る。
奥村くんは両手で私の肩をがっちり掴むと、そのまま前へ前へと押していく。
後ろを振り返るのが、こわい…!
絶対に今の彼女の恨みを買ったし、さらに、奥村先生からは何か黒いオーラが出ている気がする。
振り向けないまま、私は昇降口の方へと連れて行かれた。

「あの…私、廊下の自販機に用があったんですけど。べつに外まで行く用事はないんですけど…!」
「あぁ!すみません、ついここまで連れてきてしまいました。おかげで助かりました…ちょっと…粘られてしまっていたので…」
「ダンパのペアの相手ですよね?ははっ、先生大変そー」

そう言って笑うと、彼は笑い事では無いと言ったようにため息をついた。

「そういうくまがいさんも、大変なんじゃないですか?あなたが誰を選ぶのか、賭ける人まで出てきているみたいですよ」
「え、まぢっすか」

まいったなー。
そんな話題になってんのかー、自分やべえわー。
「いやぁ、まいったなぁ」と声に出すと、「顔がにやけてますよ」と指摘される。

「私は誰も選びませんよ。実行委員として、フェスの屋台に出るクラスのサポートすることに決まってるんで」
「おや、そうなんですね。僕はフェスのスタッフとして参加すると申請出しました。会場では実行委員の指示に従うようにと言われてるので、よろしくお願いします」

彼がそう言いながら下駄箱を開けると、ハラリと手紙が1通落ちた。

「………ハァ」
「奥村先せ…ゴホン!奥村くん、モテはるし大変そうっスね!!」
「お、坊じゃん」

奥村先生の影となり見えなかったのか、私がひょこっと顔をだすと、勝呂くんは「坊言うな」とすごむ。
そして、なにを勘違いしたのか「じゃ、邪魔したな…」と言って目を逸らす。
彼が何を言っているのかわからず、私たちは目を合わせると、奥村くんが手にする手紙に目を落として「あ!」と同時に声を挙げた。

「ちがう、ちがう!これ、私じゃ無いから!ちょうど居合わせて。下駄箱入ってたの!」
「なんや違うんか!まぎらわしいわ」

えぇー!なんで今怒られたの…
げせぬ、と思って彼を睨んでいると、彼の開けた下駄箱からもハラリと手紙が舞った。

「勝呂くんこそ」
「ほほぉ、さすが男前の方言男子。モテモテじゃん」
「…何で急にこんなんすんねん…!!」

そう言って彼は手紙を下駄箱に戻す。
なぜ。別に差出人のとこに戻らんぞ。

私は明らかにイライラしてみせる勝呂くんに八つ当たりされる前に、とそそくさとその場を後にする。
離れて周りを見渡すと、パラパラと何人かの生徒がチラチラとこちらを見ている。

………今気づいた。
学校でも上位のモテ男女3人が一緒にいたのか…こりゃまた変な噂が立つぞ…

私は再度二人の元へ戻り、わざと大声で話しかけた。

「じゃ、じゃー今日のオカルト研究会のテーマは『遠野の河童は本当に尻子玉を抜くのか』だからよろしく!」
「「は?」」

私はオカルト研究会の話し合いだったことを強調して、バイバイと手を振りながら足早にその場を立ち去った。

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イルミナティ編に入りましたーー!

初っ端は、何のナシな日常回になりました。
出だしは初の子猫丸視点です。クラスでのヒロインの様子を見せたくて、彼に語りてになってもらいました!
みんな学園祭楽しんでね!ね!

次回はしえみ登場と学園祭をわいわい楽しむ回です。

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