028(学園七不思議)

「って、ちょっと!奥村ぁあ!今日こそチームワーク決めようって言ったばっか!」
「あ……あーーー!ゴメン、つい…へへ」

そう言って視線を泳がせる奥村くんの後ろには青い炎に燃やされる電車。
女子寮トイレの繭子さん以来、私たちはチームワークを発揮できずにいた。

青い炎を操る彼はそれに頼りっぱなし。
昨夜はメッフィーランドの偶像を一人で倒しちゃうし、今日は無人電車を一人でやっつけてしまった。
私たちがチームワーク強化のためと策を練っても、結局は奥村くんの力でねじ伏せている。
ここは、もうひとりの奥村くんにお目付け役としてガツンと言ってもらいたいところなのだが、彼はここ最近、物思いにふけており心ここにあらずな状態だった。

「あのね、候補生の間の任務の殆どがチームワークにおける戦闘の仕方を学ぶべきものなの。奥村くんが全部やっちゃったら意味ないでしょ?」
「な、なんだよ急に説教臭くなって…。いや、ついな、“つい”!」
「言い訳しないの!“つい”や“うっかり”は、この先通用しないよ?だから、次からは行動の前に一度立ち止まって考えてみようか?」

奥村くんは「…うん」と力なく返事をすると、尻尾をしょんぼりと垂らしてトボトボと去っていく。
私も好きで説教しているわけじゃないんだけれど…

「あんた甘いわね」
「いやあ、奥村くんみたいなのは特に優しくしないと拗ねちゃうからさ」
「くるみちゃんすごいね!おねえさんに見えたよ!」

しえみちゃんはキラキラと眩い眼差しで私を見つめる。
私は「ありがとう」と言って彼女肩に頭を預け、ふぅとため息をついた。
このチームメイト、先が思いやられるよお…

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「くるみちゃーん!」
「お、のりちゃん。出雲ちゃんならトイレだよー」

昼休憩。
出雲ちゃんと私を尋ねて隣のクラスののりちゃんが教室にひょこっと顔を出した。
「今日は暑いから中にしよう」と提案して、隣の机とイスを借りてくっつける。
出雲ちゃんを待つ間に、私はメッセージアプリを開き、その画面をのりちゃんに見せた。

「……これ、どう思う?」
「えーーー!!!?……佐藤先輩からの呼び出し?」
「そうなの…放課後、塾の前に行ってくる…」
「直接会って言いたいって、これ、なんだろう!諦めてないってことだよね!?」

きゃー!と興奮したのりちゃんが前のめりになって迫ってきた。
今朝、佐藤 星也先輩から「今日の放課後時間ある?」とメッセージが届いた。
「少しならば」と返したところ、塾の前にカフェで落ち合うこととなったのだ。
用件を伝えるだけならばケータイで送ればいいんだけど、直接と言って約束を取り付けられてしまった。
夏休み始め、告白を断って以来会って話をしていない。
久しぶりに会うため、どこか緊張する。

のりちゃんに質問攻めにあっていると、急に両肩をガシッと後ろから掴まれた。
頭の上から出雲ちゃんの声で「私がいない間に!何楽しい話してんのよ!」と怒鳴られた。

「出雲ちゃんーー!くるみちゃん、まだ諦められてないみたいだよー!この惚れられっぷりうらやましー!」
「朴…楽しそうだな…」

のりちゃんのテンションがずば抜けてるからか、出雲ちゃんは一瞬で落ち着きを取り戻し、席についた。

「くるみちゃん、最近は誰からの誘いも断ってるみたいって男子たち噂してたよ!もしかして、やっぱ好きな人できた!?佐藤先輩の告白も断っちゃうし、もしかして塾の誰か…!」

のりちゃんは声をひそめて話を続ける。
ここ最近、自分でも驚くほど修行や勉強に熱心に取り組んでいた。
海神に言われたことで思うところもあり、それが行動に現れたのだと思っている。
さらに、先日フェレス卿に言われた私の前世や宿命のことも関係していると考えていた。
周りに言われたこと、私の考え、それを取り巻く環境によって、夏休み前抱いていた青春謳歌!みたいな思考がシュンッと萎んでしまったのかもしれない。

「あー、そういやこの間ね、任務の呼び出しで奥村先生からの連絡あったんだけど、それの通知画面が誰かに見られてたらしくてさ、私と奥村先生が付き合ってるって噂になっちゃったんだよね」

そう言ってハハッと笑うと、出雲ちゃんは思い出したように口を開く。

「私も同じクラスの子に聞かれたわ。結構大きな噂になってたみたいよ。ここ数日聞いてないけど」
「この前、その件で女子に呼び出されたので丁寧に修正しておきました」
「えーー!違うんだー、なんだー」
「朴…」

出雲ちゃんがのりちゃんをチラッと見て呆れた顔をした。
でもきっと、ここで「実は奥村先生と恋人同士でして」とか言ったら、彼女も大興奮して話を聞きたがるんだろうなあと想像が容易い。
まあ、そんなことはないんですけど。

私は親子丼を食べ終え、そのままおにぎりを開封してパク付いた。
同じく悪魔を召喚する出雲ちゃんにはあまり食欲旺盛なところが見られないのはなぜだろう…
私は不公平さを感じて彼女の手に収まるサンドイッチを見ると、「あげないわよ」と釘を刺された。

べ、べつに欲しいとか言ってないし…!

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「くるみちゃん!」
「星也先輩、お待たせしちゃってすみません…私もドリンク、頼んできますね」

そう言うと、私はカバンとカーディガンを席に置き、財布を持ってカウンターへ並んだ。
アイスカフェモカを頼むと、それを受け取って再び席へと戻った。
ずっと見ていたのか、ドリンクを手に持って振り向くと、星也先輩と目が合ってしまった。
笑顔の彼は目が合うと小さく手を振ってくれる。

これは、あれだ、やばいな…

少し前は、向けられる好意最高だぜ!とか思っていたくせに、彼と過ごした時間が長すぎたのか、なんだかかなり惹かれている。
人間的にも魅力的だし、男性としてもとても魅力的。
こんな人と恋人同士だったら素敵だなあと思ってしまう自分がいる…

いや、だめだ。いつ元の世界に戻るかもわからんし、祓魔師になる以上、危険だってある。
彼を好きになってはいけない。

わたしはそう自分に言い聞かせ、脳内に咲いているお花畑を刈り取るイメージを精一杯想像した。

「久しぶりだね。夏休み何してたの?」
「夏休みは京都に行ってましたよ!5日ちょっとですけど」
「夏の京都暑かったっしょー!なんだー、知ってたらお土産頼んでおくべきだったなー」
「あー!生八ツ橋食べちゃった、まぁ、縁が無かったってことで…」
「ってか縁ってなんだよ」

そう言ってハハハッと可愛い笑顔で笑っちゃうんだな、この先輩は。
なんだか少し前に会った時よりもキラキラ輝いているように見えて胸がときめく。

「今日もオカルト研究会だよね?」
「はい、あと20分ぐらいしたら行きます!すみません…」
「いいよいいよ、そんなあまり気使わないで。えっとね、今日呼び出したのはお誘いなんだ」

そう言って彼は1枚のビラをテーブルの上に置いた。

「オレと、ダンスパーティー行ってくれませんか?」

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「ぎゃああぁぁあ!」
「出雲ちゃん!?」

出雲ちゃんの悲鳴に、悪魔が出たのかと思い変身して槍を構える。
が、彼女の前に立っていたのはフェレス卿。

「私は常に神出鬼没を心がけていますのでね」

今日は肖像画の間の七不思議を片付ける日、私たちは現場へと足を運び、奥村先生の到着を待っていた。
しかし現れたのはフェレス卿。
彼曰く、奥村先生は急遽ヴァチカンに呼び出されたため来れなくなったらしい。

「確か残るのはこの肖像画の間の七不思議だけでしたね」
「!?いえ…ま、まだ三つ残ってるはずですけど…」
「おや?…ああ!七番目の「絶対に辿りつけない屋敷」。これは祓魔屋のことです」

えぇ!?
それを聞いて皆一斉にしえみちゃんを見る。
彼女は一瞬驚いた後、顔をカァっと赤く染めてうつむいた。

「お前ん家、七不思議になってんのかよ!」
「ひ…人様の噂になってたなんて…」

六番目の「蒐集鬼部屋(ヴンダー・カンマー)」はフェレス卿のコレクション部屋とのことで、残りはここの肖像画のみなのだと言う。
問題の絵は、「家族の肖像」。この絵を見た生徒が心を病むケースが続出しており、フェレス卿のコレクションの一つであるが、祓魔することになった。

フェレス卿は説明を終えると、一言激励してすぐにゲームを始めてしまった。
それを見て、勝呂くんは呆れながらも「さてと」と言って取りまとめ始めた。

「まずは敵の分析やな。…というかあの絵、俺には「家族の肖像」には見えへんのやけど。みんなにはどう見える?」
「陰鬱そうな女性の姿絵、だね」
「女の絵だろ?確かにどこが家族なんだ?」
「わ…私も…」
「僕も女性一人ですね」

私もうんと頷いて見せた。
しかし、奥村くんは曖昧な返事。さらに出雲ちゃんにかぎっては、絵を見ようとしていない。
奥村くんはどれを見ればいいのかわかっていないんじゃないか?と疑うが、出雲ちゃんは……どうした?
彼女のことが気になってジーっと見ている間に、奥村くんが先陣きることになったらしく、彼は降魔剣を抜いた。
青い炎がブワッと辺りを照らしたと同時に、彼は家族の肖像に斬りかかった。

額縁が壁から落ちた。
そして、絵は……と、残骸を確認する前に何かが視界を覆い、目の前が真っ暗になった。

「ちょ!これ、なに!?」

目を擦りながら後ずさり、ゆっくりと開く。

「どこ…?」

視界に広がった光景は、肖像画の間ではなく真っ暗な闇の中だった。

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あ、あれー???
28話で七不思議終わらせるつもりが、もう1話伸びちゃったぞ

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