025(学園七不思議)

「さて皆さん。最近“学園七不思議”が流行っているのをご存知ですか?」
「あー、女子が盛り上がっとるなー」

“学園七不思議”。
ルームメイトも騒いでいた。
どうやら女子寮のトイレにも出ると聞いている。
「近いうちに肝試しをしよう」と誘われてわくわくしていたところだったのだが、残念…これから祓魔することになってしまった…
学生寮ならでは、って感じで楽しみにしてたのになあ。

「皆さんにはその七不思議の噂の元になっている悪魔とこれから戦ってもらいます」
「え!?俺らだけですか?」
「そうです。どう作戦を立ててどう戦うのか。僕は見守りますが、基本、口ははさみません。すべて皆さんだけで協力してやるようにとの支部長命令です」

そう言い、奥村先生はA4用紙のコピーの束を私に手渡す。
そこには学園七不思議がリストとなって記載されていた。
私は皆に配りながらも、続けられる任務の内容に耳を傾けた。

「今から戦ってもらうのは一番目の“真夜中に学園を彷徨う白無垢”。白無垢に関しての情報ですが、花嫁姿の霊で真夜中に自分の姿に気づいた男性に襲いかかるということ、近くに女性がいると姿を現さないことが判っています」

じゃあ、私と出雲ちゃんとしえみちゃんは見学になるのかな?

そんなことを考えていると、誰かに腕をぐいっと引っ張られた。
掴まれた箇所をたどると、出雲ちゃんの手が私の左腕を掴んでおり、逆の手では「あれ!」と言って何処を指していた。
指差す方へ目を凝らすと、白無垢姿がポワッと浮かぶように光っていた。

「白無垢…!?」
「現れましたね。ではこれより任務開始です。チームワークを忘れずに。始め!」

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「絶対諦めないわー!!」
『ひいぃ!?』

今回は女子は見学となり、ボーイズが頑張って成仏をすることとなったのだが、チームとはなんだろう?といった具合にお粗末な状態になっている。
奥村くんは炎を出し、魔剣で霊を引きつけているがまったく手応えがない。

「あれだけの能力を持ってても、相手によってはこんなお粗末な戦いになるのね」
「で、でも詠唱の時間稼ぎにはなってるよ!」
「…その詠唱も唱えつくしちゃったみたい」

私は「ホラ」と言って、狼狽える京都3人組を指差す。
志摩くんにいたっては前線から退いており、まったく戦力に加算されていない。

「奥村先生、霊に詠唱が効かないなんてことあるんですか?」
「詠唱は霊祓い(ゴーストばらい)で一番有効です。それが聞かないとなると、少し厄介ですね」

奥村先生は呆れながらも鋭い眼差しで霊を観察していた。
経験故なのか、向こうにいる塾生とは違って落ち着いた様子で淡々と分析している。

「…前に遊園地で会った霊の男の子は、一緒に鬼ごっこしたら成仏してくれたけどな…」
「そうですね…あの霊の心残りを取り除くのが一番いい手なんですが…」
『もうチューしてくんないなら、アタイに構わないで!』

霊はゆらりと霞になり姿を歪ませると、また元に戻り、ものすごいスピードで奥村くんを振り払った。
彼は「俺じゃ抑えきんねー!」と言ってその場にガクッと膝をつく。

そのまま霊は志摩くんを捉えると熱いキッス…もといチューチューミサイルで彼を撃沈させた。
うっわ…ひくわ…
横からも「ひぃ!」やら「げえ…」やら悲鳴が聞こえる。
誰もが彼に心からの同情と合掌を送った。

「フォーメーションも崩れて、すっかりパニック状態ですね。そろそろ僕が、」

奥村先生はそう言うと、もたれ掛かっていた壁から体制を直して後手にホルスターへと手を掛けた。
が、その時だった。
何処に居たのか、宝くんが私たちの視野にずいっと入り込んだ。

「チッ、使えねえガキどもだぜ」

ヤレヤレといった感じに前に進み出る宝くんを見て、出雲ちゃんが「あいつ、なんかできんの?」と口を酸っぱくしてジトッと睨みつける。

宝くんは霊の前に立ちはだかると、声高々に唱えた。

「“出でよ、着せ替え人形ミカ フレンドシリーズ!ジャン 花婿Ver”!!!」

宝くんの持つパペットの口には人の形を模した紙の形代のようなものがあり、それはポンッと音を立てると同時にもくもくと煙が巻き起こった。

「ちょっ…見えない…」

そう思ったのは一瞬で、煙が晴れたところにはおもちゃの人形がちょこんと立って霊に手を差し伸べ、『ボクの花嫁さん!さあ、今すぐ結婚式を挙げよう!』と語りかけていた。

途端、白無垢姿の霊は光に包まれ、これまでの未練をポツリ、ポツリと語りだした。

「チューじゃなかったんだ…」

しえみちゃんの小さなつぶやきが聞こえてチラッと彼女たちのいる方へと目線を向けた。
出雲ちゃんは、宝くんのしたことに呆気にとられて開いた口がふさがらない。
私も同じだ。

出雲ちゃんやしえみちゃん、そして私もそうであるように、悪魔を召喚したり使役する際には精神を削ることは勿論、体力、気力的にひどく消耗が激しい。
ましてや彼の場合は、“モノを操っている”ということになり、非常に高い精神力で支えられていることが明らかになったのだ。
これまで得体の知れない同級生が、すごいカードを出してきた…

「俺は傀儡師(パペットマスター)、あらゆる人形を召喚し、操ることができる。称号を持ってねえだけでそこらの祓魔師のレベルはとうに超えてる。こんな塾、退屈で仕方ねーんだ。せめて俺の手を煩わせるな!」
「…ほおおおけ、ほーけえ!!もおお俺は我慢の限界…」
「せやったら塾やめはったらええんや!!」

途端、三輪くんが柄にもなく宝くんに殴り掛かろうとするがそれを勝呂くんが止めに入った。
これまでの宝くんの行いを見ていると、まあ、納得できる。
それに先程までの霊…お察しします…

私はその場に立ち尽くし、奥村先生に一喝される彼らを見て乾いた声でハハッと笑う。
心ここにあらずな志摩くんと奥村くんを見たら、そんな表情をするしかできなかった。

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「くるみ、その量はいったいどこにいくのさ…」

待ちに待った朝食時間。
昨夜遅くに呼び出しがあったため、早々と夕食を切り上げてしまった。
その所為か、今日は朝早く目覚めてしまった。空腹で。
部活の朝練に参加するルームメイトと同じ時間となり、いつもよりも人が少ない食堂で4杯目のご飯おかわりをする。
納豆嫌いな友人から譲ってもらい、かき混ぜる。

朝早いとご飯は炊きたてなのかあ…
早起きは三文の徳とはよく言ったものだ。
白米がいつもより甘く感じ、私は光悦の表情で箸を進める。

宝くんも同じぐらい食べるのだろうか?
彼とはまともに食事を一緒にしたことがない。
森でカレーを食べた時はあまり注意深く見ていなかった。

そういえば、私にアドバイスをくれたのも森での強化合宿だった。
昨夜発覚した彼の正体に、いろいろ合点がいく。
手騎士の先輩だったんだなあ。

いろいろ考えながら食べていると、あっという間にルームメイトたちは食べ終えていた。

「部活がんばってねー」
「ありがと!くるみも、えーーっと、がんばって。いろいろ…じゃっ!」
「は…?いろいろってなに?」

彼女たちは足早に食卓を立つと行ってしまった。
心当たりは無いが、応援されてしまったようだ。
よくわかんないけど…なんか、がんばれそう!よし、がんばるぞ!

……なにをだ?

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「なにこれデジャヴュ…」

教室の机の中に1枚の封筒が入っていた。
表には「くまがい くるみさんへ」とまごうことなき私宛だ。
それの字はとてもきれいで読みやすく、フェレス卿の可愛らしいものとは違っていた。

席に着き、恐る恐る中を見ると普通の便箋が一枚…

「「急なお手紙ごめんなさい。昼休み、中庭の購買裏に来てください。待ってます」」

手紙を読む声がダブる。
後ろを振り向くと、いた、志摩廉造だ。

「なんなの!?私のラブイベントには必ず現れるね!?あれか、ナビ役の友人キャラか!」
「えー!志摩さんも攻略対象に入れてほしいー!…って、その話やなくて、これ、女子の字やない?」

そう言われてもう一度便箋に視線を戻す。
言われてみればそうだ、繊細。読みやすい。育ちの良さがにじみ出るような。

うーーーん…これって…

「女子からの告白きたか!?」
「たぶんちゃうと思うんねんけど」

志摩くんは声を潜めると「くるみちゃん、奥村せんせーと付き合うてるて噂なってんで」と言って面白そうに、そして、だらしなく笑った。

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なんの無しな日常でも、ヒロインは常に色恋ごとに巻き込まれる宿命なのです。

宝が傀儡師であることが明るみになった回でした。
ヒロインがこの世界線に転生させられたことにはちゃんと意味があります。
原作に沿っても捏造入っても、すべてがひとつの物語に通じるように作ってますのでまた続きを楽しみにしてもらえますとうれしーです(^O^)わーい!

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