024(学園七不思議)

「そもそも、アイアン・メイデンってなんなんですか…?」

ずっとフェレス卿に聞きたかったこと。
しかし、ここ最近は実戦任務への参加で京都へ行ったりしていたため、聞けずじまいだった。
忘れかけていたことに関して話せる機会をいただけたことに、心の中でよっしゃ!とつぶやいた。

「アイアン・メイデン」の名を耳にして以来、ずっと頭の片隅でそれは存在感を放っていた。
書籍やネットを駆使しても「アイアン・メイデン」はかつての拷問器具であるとしか出てこず、祓魔に関係のあるような記載は見られなかった。
フェレス卿は私の疑問に答えようと、テーブルに身を乗り出した。

「アイアン・メイデンとは、ユニコーンと契約し、その身を武器にできる乙女のことです。先の大戦やその前の国内戦乱の時代でも活躍していました。くまがいさん、あなたはそんな彼女たちの生まれ変わりなのです」

「生まれ変わり」。
そう彼が発した言葉が脳内で反響する。
転生したこと、悪魔というものの存在、魔法少女への変身ー…
こうもおかしなことが立て続けに起こっている今、生まれ変わりだと言われても何もおかしくは感じない。
「そうなんだ」の一言で済ませてしまえそうなぐらいだ。

しかし、気がかりなことがひとつ。
そんな大層な役目を負っていると聞いても、何も危機感や焦燥感を感じられないということだ。
今だって次々と起こる現象を交わすことで精一杯なのに、これに宿命が課せられようとしている。
先日、海津見彦様に言われた「不思議な宿命を背負わされている」の言葉を思い出した。

私はなにか感想を言うまでもなく、ただ呆然とフェレス卿の話に耳を傾けた。

「アイアン・メイデンが召喚される時代は、何かが起きる前触れ…。ユニコーンという悪魔は、来るべき時代に生まれ変わった魂に宿命を課して、成すべきことが終わるまで力を貸し続ける」

彼は大げさに腕を振り上げて上にかざしながら「しかし」と言い、まるで劇のように振る舞う。

「なんということでしょう。せっかく生まれ変わった魂は、現世では異世界に転生されてしまいました。そこで私の出番。「時空と空間」を司る時の王“サマエル”があなたをこちらの世界へとトリップさせたのです!」
「お前かーい!どうりで、あのユニコーンのフェレス卿への怯えよう!絶対何かしらあるとは思ってましたわ!」

もはや自分がなんだと言われても驚かないが、やけに怪しいと思っていたピエロのような理事長が仕掛け人だと聞いてつっこまずにはいられなかった。

ーーーユニコーンの気まぐれだけではない、他のなにかが絡んでいる気がする。

最近薄々感じていたことが明らかになり、一人納得する。
そして、先程から気がかりになっていた不安を打ち明けた。

「あの…、自分の役目についてはわかりました。しかし、そんな大きな宿命を背負っていることに対して何も、責任感を感じられないんです」

彼は黙って私の言葉に耳を傾ける。

「歴史に大きく影響を及ぼすような戦争に関わってきたのがアイアン・メイデン、なんですよね?おそらくその時代背景もあるのかとは思いますが、今の私に、自分がやらなくちゃ!…というような主人公みたいな、ヒーロー思考が無いんです」

そりゃあ「お前が必要だ!世界を救ってくれ!」なんて言われたら張り切ってしまうけれど、私の脳は完全に平和ボケしている。
ごくごく平凡な家庭に生まれ、普通の親に育てられ、セオリー通りに進学就職の道を辿ってきていた。
最近までデスクワーク故に肩が凝る、女ばかりの職場で出逢いが無い、飲み会では取引先の悪口大会ー…、そんな日常を送ってきていた。

「こちらの世界へ来てからたくさんのことが起こりましたが、どこか自分は他人事に思えて仕方がありません。私は、このまま、そんな大役を果たせるのでしょうか」

まるで昇進会議で指名されたかのような回答になってしまった。
しかし、ほぼ変わらないだろう。
私は運命とやらに期待されるような器量を持ち合わせていない。

私がすべてを吐き出し終えた様子を見て、フェレス卿が「なるほど。貴女の意見、しっかりと承った」と言ってゆっくりと話し始めた。

「そりゃあ、昨日今日でこの物語の主役級の役割を任命されたわけですから戸惑うことは仕方がない!よく考えてから行動に移そうとする様は、成熟した大人の女性だからできること。私は素晴らしいと思います」

彼の表情が淋しげに見えたが、それはほんの一瞬で、またいつもの読めない微笑を浮かべた。
彼は席を立ち上がると、コツコツとゆっくりこちらへと近寄る。
「では、これならばどうでしょう」と言って、その長い爪が生えた人差し指で顎をくいっと持ち上げられた。

「身近な友人が関わる事ならば、貴女の考えは変わりますか?」
「………え?」

「それってどうゆうことですか」と言いかけたが、それはフェレス卿の指パッチンで遮られる。
彼が「タイムリミットです」と言ってにやりと笑った顔を見たのを最後に、私の目の前の景色は寮の玄関へと変わっていた。

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「ねえねえ!くまがいさんは、なんで佐藤先輩を振っちゃったの!?」

食堂で夕飯を食べていると、知らない人が入れ代わり立ち代わり、この話題を振ってくる。
そのたびに、「今は恋人を作る余裕がなくて…」と歯切れの悪い回答をして交わしてきた。

しかし、彼女たちがそんな回答で納得するわけもなく、「えー!それってどうゆうことー?」とさらなる回答が求められた。
んんんーーーー!女子ってめんどくさい!
今日もまた、そんな女子たちに囲まれて夕飯を食べているが、先程のフェレス卿の話が気になってあまり食が進まない…

なんてことはなく、今日もめちゃくちゃ飯がうまい。
既に3杯目をおかわりしていた。
魔法少女、いったい基礎代謝どんだけ上がってるのか…

そんな姦しい状況にいると、ケータイがメールの着信を知らせる。
チラッと目をやると、差出人には「奥村雪男」の名前。
つまり、業務連絡だ。

私は残りの味噌汁をずずずっと飲み干すと、「ごちそうさまでした」と言って彼女たちから逃げるように、足早にその場を去った。

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「という訳で、皆さん3日ぶりですね。休塾が続いた上、こんな時間に召集してしまい申し訳ありません。今から特別課外授業をおこないます」

午後11時。
私たちは奥村先生に呼び出され、学園敷地内某所に呼び出された。
学園麓の街並みが夜景となり、見惚れるほどの時間だ。

「この授業はフェレス卿直々の任務を兼ねているんです。僕についてきてください」

こんな時間に緊急で任務。
しかも、候補生を召集するほど急ぐものらしい。
チラッと奥村先生の横顔を見ると、すこし疲労の色を浮かべている。
最近、休塾が続いていたのは祓魔師としての任務が増えたからのようだった。
猫の手ならぬ、候補生の手も借りたいほどの悪魔発生率ってことかぁ…

「燐、いつもと髪型ちがうね」
「えっ、ああ、メフィストの晩餐に行ってて……」
「あ!奥村くんの呼び出しも今日だったの?」

朝、内容を見ずに彼に手紙を返したことを思い出す。

「『も』って、なんや、くまがいも今日やったんか」
「そうそう。えーーっと、ずっと聞きたかったユニコーンのことについてちょっと喋って来たわ」

ウソは言っていない。
多くを語らないだけだ。
心の整理ができるまで言う必要も感じられず、私は奥村くんに話を振った。

「で、奥村くんはなぜそんな髪のセット決めてるの?まさか、正装したの?」
「どやったん?」
「どうって…正装したっていうか、させられた?的な?超うまくて辛いカップラーメン喰ってきた」
「カップラーメン!?」
「軽いイヤガラセやん」

多くを語らない彼に、きっと私と同じようになにか重要な話でも振られたのではと憶測を巡らした。
サマエル、とかいう時の王の厄介さを考え込んでいると、出雲ちゃんに背中をバンッ!とはたかれた。

「へ……出雲ちゃん!?なに?」
「マヌケヅラ」

解せぬ。
そう思いながらも、多くは聞かない彼女が傍にいてくれて少しホッとしたのだった。

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更新の優先度に悩んでいて、急遽アンケート設置なぞしてました。
(2017/6/26現在撤去済み)

アイアン・メイデンの更新を楽しみにしてもらえていて嬉しいですっ
原作もとても楽しい展開になってきて常にわっくわくなので、今後も原作に沿いながら楽しい二次創作ができるようにがんばりまーす!

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