023(学園七不思議)

「海津見彦様!さっきの続き、いいですか?」
『不思議な力を持つ女人よ、遠慮なさるな』

私は砂浜に打ち揚げられた海津見彦様に近寄り、手を添えた。

「ありがとうございます。…あなたは、私のこの能力が、運命を捻じ曲げようとする誰かによって仕組まれたことだとおっしゃいましたね」

私は、ユニコーンによってこの世界に生まれ変わり、この能力を手に入れられた。
しかし、それは彼だけの気まぐれでは無い気がする。

「しかし、その何者かによって敷かれたレールを歩むつもりはありません。運命が人の道に反していた場合は、私はそれを己の力で捻じ曲げてみせます」

そう力強く告げると、彼は感心したように深く唸った。

『ほう…、貴殿は運命に抗うと』
「はい。それが、私がこの世界に呼ばれたことにおける宿命です」

海津見彦様は、「そうか、そうか、」と言って目を瞑る。
その声は優しく、私を応援しているかのようだった。

『貴殿が持つ癒やしの力が、貴方自身の宿命を手助けすることをお忘れなく』
「アマツミヒコーー!」

奥村くんを先頭に、海坊主(シーモンク)やしえみちゃん、他の祓魔師たちもこちらへ駆け寄るのが見える。
海津見彦様は海坊主に「後のことは頼みますよ」と言い、静かに息を引き取った。
私は風化していく彼を見て、少し涙を流す。
骨だけになったその肉体を見て、目をつむり、両手を合わせた…

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「お前、そろそろ技名考えろ」
「技名…ですか?」

私は今日も霧隠先生に槍の稽古をつけてもらっていた。
京都から帰ってほぼ毎日、彼女は私の稽古に付き合ってくれている。
最近は塾の休みが多く、彼女も捕まりづらかったが頼み込んで朝から練習に付き合ってもらっていた。

技名は大事なものらしく、実際に与えられる効果とイメージが合致してより高い能力を発揮できるのだという。
私は霧隠先生の蛇牙(ダボウ)を頭に浮かべてなるほど、と頷いた。

たしか強化合宿の際には、宝くんに悪魔と話し合っておけと言われもしていた。
その後話し合ってからはユニコーンの角を扱えるようになったが、槍を扱うことでの技も共有しておいたほうが良さそうだ。

私は「考えておきます」と返事をし、トレーニングルームを後にした。

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「くまがいさん、おはよう!」
「くるみちゃん!はよー」
「おはようさん」
「あ、おはよー」

昇降口へ足を踏み入れると、いつもの3人組に出くわした。
京都三人組はクラスがばらばらでも、いつもほとんど一緒だ。
私は三人に挨拶しながら下駄箱の扉を開くと、何やら封筒が入っていることに気がつく。

もしやこれは、ラブレターか…?

夏休みが終わって数日、私が軽音部の佐藤先輩を振ったことは学校中に広まっており、しばらく止んでいたアプローチもここ最近また復活していた。
いやあ、モテるってたいへーん。
美少女に生まれ変わってしまった宿命だよね、これも。

私は「参ったなー」とあたかも困ったかのように、その手紙をピラピラと振りかざす。
それを見て三輪くんは「さすがやねー」と優しい相槌を打ってくれた。

「えー!くるみちゃんまたもろたのん?誰からー?」
「えっとねー…」

ピラッと裏面を見ると、覗き込んでいた勝呂くんが「メフィスト・フェレス…」とつぶやく。

「なんや。フェレス卿からの呼び出しやないか」
「……なんっっだよ紛らわしい!メールでいいじゃん!」

私はパッシーンと床に便箋を叩きつける。
なんっだよこの可愛らしい丸文字!
私は封筒のシールを剥がし、便箋に目を走らせる。

そこには、夕方6時にヨハン・ファウスト邸へ来るようにと一筆書かれていた。
正装してこいって…制服のことかな?
学生にとっての正装といえば所属する学校の制服だよね…?
お葬式とかもそうだし!

私は便箋を封筒にしまうと、カバンの中に丁寧にしまった。
それとほぼ同時に、「ラブレターやん!!」という大きな声が隣の下駄箱から聞こえる。
なんだなんだ、私以外にもラブレターをもらえるような奴がいるんか!?
私は好奇心を抱いて隣をチラッと覗いた。

そこには、キラキラとした眼差しで封筒を見つめる奥村くんと、それを囃し立てる志摩くんの姿。

「奥村くんさすがやなぁー」
「いやいやいや、あの封筒すごい既視感あるんだけど」

三輪くんのリアクションに軽くツッコミながら、私も彼らに歩み寄る。

「ついに俺の隠れファンが!…って、おいくるみ!返せよ!」

私は奥村くんから封筒をぶん取ると、ピラッと裏面を見る。
そこに書かれた差出人の名前にふんっと鼻で笑い、彼の顔面に突き出した。

「はっはっは!残念だったな、奥村少年よ!」
「……メフィストからかよ!!気ッッ持ち悪ィ便箋使いやがって!」

奥村くんはパッシーンと床に便箋を叩きつける。

「なんやデジャヴやな。見た目はアレやけど…大事な用かもしれへんで。はよ読み」
「坊、お父さんみたいですね」
「それな」
「おい、お前ら誰がお父さんやねん」

私は勝呂くんのツッコミをすんでのところで交わし、そそくさとその場を後にした。

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「ようこそいらっしゃいました、くまがい くるみ様」

ヨハン・ファウスト邸に到着するなり、燕尾服を着込んだ妙齢の男性に案内される。
執事…というやつだろうか。

彼は扉の前まで進むと、トントンとノックし「こちらへ」と促しながら取手に手を掛けた。
扉が開かれてまず目に入ったのは、大きな液晶テレビ。
あたりにはアニメのポスターなどが壁に貼られており、棚にはたくさんのフィギュアが飾られていた。

そのすごいコレクションっぷりに圧倒されて立ち尽くしていると、「ようこそ!」という聞き慣れた声が耳に入った。

「あ、おじゃまします…すごいですね、これ、全部フェレス卿のコレクションですか?」
「って、くまがいさん…!正装でお越しくださいと申し上げたはずですが!?」
「学生の正装といえば制服かなあって…思いまして…」
「それは礼服。冠婚葬祭の場合です」

フェレス卿はあからさまに深くため息をつき、指をパチンッと鳴らした。
その瞬間、私の身体はパアァと光り、霞がかり…

「ス、ストーーーーップ!」

そう叫んだ瞬間、光は消えて変身の兆候は収まった。

「あ、あっぶねー…」

私はホッと一息ついて、フェレス卿をキッと睨む。

「ちょっと!女子高生に目の前で生着替えさせるってどうゆうことっ!?このド変態!」
「心外な!あなたの正装といえば、例のふりっふりっの魔法少女コスチュームでしょう!それに、さんざん変身を重ねておいて今更何をそんなに恥ずかしがるのやら…」

彼はやれやれと言ってイスに腰掛ける。

26歳にも恥じらいの心はあるわい!
なんだなんだこいつ、ケンカ売ってんのか!?

私は怒った口調で、今日なぜ呼び出したのかを問い詰める。
彼は「まぁまぁ、結論の前に昔話をしましょう」と言って指を鳴らす。
すると、目の前には緑茶とどら焼きが現れ、和テイストのテーブルセットが整えられた。
私はふかふかの座布団に正座させられる。

なんなんだ、いったい…

「さてと……まずは、先代のアイアン・メイデンについて話しましょう」

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わーーーーい!ようやく原作10巻まで来ました。
おつおつ。おつおつ。
皆さんもお付き合いありがとうございます。
引き続きよろしくですっ

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