020(京都・不浄王編)

虎屋は負傷した祓魔師が運び込まれたためにどの部屋も満員。
私たち候補生は一つの部屋に押し込められ、6人同じ部屋で治療を受けていた。
と言っても、候補生の中で一番ダメージがあるのは私らしい。

「俺たちが駆けつけたときには、眼鏡くんと藤堂がやりおうてはったわ」と言う柔造さんの言葉を聞いて、私は奥村先生の姿を捜している。

何故かやけに過保護気味な出雲ちゃんを「もう大丈夫だ」と諌めて、私は浴衣姿のまま虎屋を歩き回る。
いくつか部屋をみる限り、もう瘴気を浴びた患者はいないようだった。

ユニコーンを狙って襲いかかってきた男は藤堂三郎太。
今回の事件を引き起こした張本人と鉢合わせてしまったようだ。

あ!奥村先生めっけ。
ロビー横に設けられた談話室を通り掛かると、捜していた人物に会えた。

「奥村先生」
「…ああ、くまがいさん。お身体はもう大丈夫ですか?」

いつもよりも、笑っていないその表情からは疲れが滲み出ている。
しかし、どこか作ろうとしているようなその人柄に呆れるを通り越して感心する。

「私、結構寝ちゃってて…、気絶したときのこと聞きたくて捜してたんです」

どうやら、気を失ってから12時間ほど寝ていたらしい。
あそこまでユニコーンを召喚して闘ったのは初めてだ。気疲れというか、体力の限界を覚えた。

「くまがいさんが藤堂に襲われていたので、僕が水の眷属の魔法弾(マジックだん)で応戦しました。その後藤堂は取り逃しましたが、京都支部の方々が駆けつけてくれたのでなんとか」

彼はそう言って「報告書をまとめたいので、くまがいさんが藤堂と交戦したときのことを教えていただけますか」と続けた。

「ユニコーン曰く、藤堂は“悪魔を喰ってモノにしてる”そうです。ユニコーンは水の眷属だから有利に闘えるかもとは思ったんですけど、私の槍の腕がイマイチで危なく貞操が奪われるところでしたわ…」
「…………は?貞操?」

奥村先生はメモを取る手を止めて、私の発言を聞き直す。

「ユニコーンが不老不死に効くという伝承があること、先生もご存知ですよね。藤堂はユニコーンをお土産にすると言っていました。誰にかはわからないけど…。それで、ユニコーンを捕まるには、ユニコーンを召喚したまま私の処女を喪失させる必要があるとかで…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」

奥村先生はその場に乗り出し、テーブル越しに私に詰め寄る。
その表情から、少し焦りを感じられる。

「あ!大丈夫です、大丈夫。結局ヤられる前に奥村先生が来てくれたタイミングだったので」

彼は「そうですか」と一言、その場に座り直した。
引率の保護者のつもりだろうか。
教え子になにかあったらと心配でもしてくれたのだろう、彼は気疲れした顔でふぅとため息をつく。
これは、疲れたどうのってだけじゃなさそうだ…

「奥村先生…いや、雪男くん」
「えっ」
「あまり根詰めすぎるのもよくないよ。そういう人って、勝手に精神壊してツイッターとかはてなダイアリーに会社の悪口書くんだよねー」
「……は?」
「たまには自分を甘やかしなよ。明日、空けといてね!みんなと京都観光しよ!」
「いや、明日は報告書仕上げないといけないから…」
「報告書、今仕上げちゃえばいいでしょ!」

私はそう言って立ち上がり、向かい合って座っていた彼の隣へと座り直し、広げていたノートパソコンをこちらへ引き寄せる。
「まずは問題の優先度つけよう。私が聞きながら要点整理するから、詳細話してもらえます?」と仕切り始めると、彼は戸惑いながらも従うように今回の任務について話し始めた。

おとなしく教え子に従い、仕事を任せる彼。
いつもの姿とは大違いだ。
よほど疲れているのだろうか、たぶん、冷静に頭がまわっていなない様子が見受けられる…

私は彼がしどろもどろに述べる詳細事項をタイピングし、インデントをつけて要点を整理し始めた。

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「あ、くるみちゃん…!どこ行ってたの、もう大丈夫?」
「ちょっと仕事してきたわー。はーーー、お腹すいたー。」

「お仕事…?え!だめだよ、ちゃんと休んで!」と少し怒り気味に言うしえみちゃんは座布団をポンポン叩き、隣りに座るように促す。
奥村先生はすぐに寝ると言って部屋へと戻っていった。
空腹感が自分史上ぶっちぎりである私は、夕食をとその足で広間へと向かった。
この空腹はユニコーン召喚の所為か、はたまたお仕事に付き合った所為か…
目の前に広がる御膳は、視覚的にも私の食欲を煽るものであり、私は無我夢中で箸を持つ手を動かす。

なにこれ…美味しい…こんなに美味しく感じられるの………幸せ…

「はあーーーーーー、生きててよかった!」
「なに物騒なこと言ってんのよ」
「ははは…不浄王戦の後やと冗談っぽく聞こえへんね」

志摩くんはそう言って苦笑いする。
私が気絶しているうちに、勝呂くんがお父さんから使役する悪魔を引き継いだり、三輪くんも奥村くんと仲直りしたり、そんなことがたくさん起こったらしい。
そう報告してくれたときのみんなの顔はとても晴れやかであり、心に刺さるすべての棘が抜けきったようだった。

「おかわり!!!!」
「くるみちゃんすごい!もうおひつの中空っぽだよ!フードファイターになれるねー」
「えっ、うそ、まだまだイケるんだけど…あっちのもらっちゃおうか」

沢山寝て、沢山食べて、沢山動こう。
もっと私はユニコーンの角を扱えなければならないのだから。

後で、霧隠先生に相談したいな…。

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「ぅんまーーーーい!京都最高!」

夏に盆地とか最悪だわあって思っていたけれど、これは、いい!
ここで食べてこそ美味しいものだわ!!
夏に食べるべき京スイーツナンバーワンすぎるでしょ…

私は抹茶アイスの乗せられた器にスプーンをくぐらせた。
今日は一日自由、皆で休暇をということで候補生と奥村先生とで観光を楽しんでいた。
三輪くんにアレンジされた京都観光プランは、抑えるべきスポットを効率よく網羅しており、京都が始めてだというメンバーたちも大満喫である。

「ほらぁ、こーんなにキラキラしてる!美味しいね、出雲ちゃ…」

隣に座る彼女の表情を見ようと振り向くと、彼女はなんとも言えぬ可愛らしい表情であんみつを愛でていた。

「ちょっと…!こ、これ、!こんな可愛いなんて聞いてない!きゃーー!」
「はははー、やっぱ出雲ちゃんかいらしいなあー」

彼女の目の前に盛られているのは、なんともフォトジェニックな「いちごのにゃんこパフェ」という和スイーツ。
興奮した彼女はひたすら写真を撮り、「こんなの崩せない!」と言って、スプーンを通せことを躊躇している。

「出雲食べねえのか?ネコの顔、溶けちまうぞ」

そう言って奥村くんがスプーンを突き刺すと、出雲ちゃんは「ぎゃーーーー!」と叫んで放心した。
なんてご無体な…
私は無邪気な奥村くんにこの後訪れるであろう仕打ちを想像して合掌した。

「こんなに美味しいもの食べられるなんて、お休みもらえてよかったねえ」
「くるみちゃん、今日もすっごいいっぱい食べてるね?」
「くまがいさん、そない食いしん坊キャラでしたっけ…?」
「いーや、なんか昨日目覚めてからすっごいお腹すくんだよねえ。ユニコーンと関係でもあるんかなー。藤堂と闘ってからこんな感じだし」

私はあんみつに続いて、運ばれてきた黒ゴマ餅を味わう。

「は?藤堂?」
「ってお前!藤堂と交戦しとったんか!?」

私の発言に、その場に居た全員がこちらへ注目する。
そうか、私が報告したのって奥村先生だけなのか。

「え、あ、うん」
「お前よく無事だったな!」

そう言って奥村くんは「これ頑張ったくるみにやるよー」と言ってさくらんぼを一つ分けてくれた。
あ、ありがとう…

「おそらく、藤堂との闘いでユニコーンの力を使役する体力が消耗したのでしょう。よく食べて、よく寝れば、また元に戻りますよ。ただ、くまがいさんはまた狙われる可能性があるので気をつけて下さい」
「また狙われるて…。くまがい、お前なんやしたんか」

そう言って訝しげに問う勝呂くんをはじめ、みんな心配そうな表情でこちらを見やる。
私は大勢に注目され、少し居心地の悪い気分になった。

「うーん…どうやら、藤堂は私のユニコーンを使役する力が欲しいみたいなのよね。そんで、処女を囮にして捕まえるために、私が必要らしくて」

そう説明すると、出雲ちゃんは「なんでそんなことになってんのよ…」と少し苛立った様子だ。
他の皆も心配した様子でこちらを見ている。
志摩くんと視線が合うと、「くるみちゃんになんかあったら守おてはるでー」と言ってにへらと笑った。

「ということですので、皆さん。これからも日常生活での行動において、彼女になにかありましたらすぐに報告してください」
「な、なあくるみ!」

今言ったことに気がかりがあるのか、奥村くんが身を乗り出すが、少し引っ込み、遠慮がちに「お前が……処女じゃなくなったら、ユニコーンはどうなっちまうんだ」と顔を赤らめて聞いてきた。
その瞬間、奥村先生と勝呂くんが彼の頭を抑えつけて怒鳴り散らす。

「あほおっ!お前にはデリカシーちゅうもんがないんか!」
「兄さん!少し黙っててくれないかな…」
「痛い!痛い!!」

ちょっとデリケートな話題に、みんな恥じらいながらもチラチラとこちらを見やる。
あはは…気にされちゃってるわぁ…

「たぶん、」

そう言って続けると、みんな静かにしてこちらへと耳を傾ける。

「ユニコーンはいなくなっちゃうから、私も能力が使えなくなっちゃうかなあ」
「え、じゃあ!あんた先輩とはどうするのよ!!」

そう言って出雲ちゃんが食ってかかる。
不浄王戦で日常のことはまったく忘れていたが、私は軽音部の佐藤星也先輩にアプローチをかけられていたところだった。
彼女はそのことを気にしているようだ。

「ははっ出雲ちゃん「どうする」って…どうするものだと思ってたー?」
「ちょっと!!!!からかわないでよ!人がせっかく心配してんじゃない!!」

彼女は顔を真っ赤にして怒る。
その可愛らしさにさらにからかいたくなる気持ちをグッと抑えて「そういや告白はお断りしたよ」と報告する。

「はぁ!?この間、ライブハウス戻ってきたときには満更でもない表情だったじゃない!」
「うん、てっきり、くるみちゃんはお付き合いするんだなあって思ってたよ」

出雲ちゃんに同調するように頷くしえみちゃんに「ごめんごめん」と謝り、「ユニコーンうんぬんよりも、今はちょっと興味持てなくて」と続ける。

「今年度は認定試験も控えているし、ちょっと今祓魔師のこと説明するのも億劫だなあって思っててさあ」
「えー、それじゃあ、俺にもワンチャンある思うててええのー?」
「それはないね!はっはっはっ!」

志摩くんは「くるみちゃんはつれへんなあ」と言って項垂れる。
私が告白を断ったということを聞くなり、出雲ちゃんとしえみちゃんががっかりといったように肩を落としている。

「まだしばらくユニコーンには居てもらいたいからねえ。ヤリたい盛りの年頃の子と付き合っちゃうと…いって!?」
「やめぃ!ここ外やで!!」

頬を赤らめ、目を三角に釣り上げた勝呂くんにどつかれる。
場所を忘れて、ガールズトークに花を咲かせてしまっていた。
話題がどんどん女子会…ならぬ、雌会じみてきていたことに反省し、口にチャックをしめた。

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京都編終幕です。
お疲れ様でした!

ユニコーンの設定は伝承通りに寄せました。(wikipedia参考)
ギャグ風味もっとテンポよく入れていきたいなあと思いつつ、駆け足でストーリー展開させる方に偏ってしまいますね。難しい。

次はクラーケンです。わーい水着だ!
今後共よろしくお願いします。

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