019(京都・不浄王編)

「うそでしょー、あのデッカいのが不浄王…?」

達磨和尚を捜せと指示を受け、私たち塾生は金剛深山を手分けして捜していた。
「私は変身して力を使うから」と言って、人手を分散すべく一人で行動している。

前にゴーストを捜索したときのように、ダウジングを使おうとしていた。
なかなかヒットせず、一人で黙々と歩き回りながら山の奥を見やる。
くすんだ灰色をした不浄王がふつふつと沸き、威力を広げていた。

「気持ち悪い…」

その気味悪さに鳥肌がたつ。
あまり見ないようにしようと操作に集中した。

その時、
藪の奥にポワッと赤い光が煌めくのが目に入る。

人が…いる…?

私は恐る恐る近寄る。
ガサガサと草木を掻き分けて進むと、そこには火を纏った人がうずくまっていた。

「大丈夫ですか!?」

悪魔にやられた!?
私は急いで駆け寄ろうとその場を蹴る。
瞬間、ボワッ!と火が上がり、元いた場所から円を描くように火の壁が作られてしまった。

退路を絶たれた。
瞬時に反応して「ユニコーンッ!」と呼び叫ぶ。
すると魔法印はパアッと光り、ユニコーンは私とかがみ込む人との間に立ちふさがった。

「これは…あぁ、これは、素晴らしい」
「……だれ?」

かがみ込んだ人間は顔を抑えながらゆっくりと立ち上がると、私たちを正面から見据えた。
タレ目にそばかすが目立つ顔、不気味な笑みを浮かべる彼は、どこかで…見たことがある。

「ユニコーンを使役する候補生がいると聞いていたが、まさかこんなところで会えるとはねえ、光栄だ」

あ、こいつヤバイ。
耳のあたりには鮮やかな緋色の羽を生やし、体中に火炎を纏っている彼が悪魔の類だと察し、私はすぐにユニコーンを槍へと変化させた。
それを見るなり、彼は両手を広げて喜ぶような仕草をする。

「…!?まさか…既にユニコーンの角を扱えるというのか…君は天才だ…」
「お前は誰だ!!何故ここにいる!」

私は槍を構え、牽制のつもりで睨みつける。

「京都には逢いたい人がいてねえ。もう用は済んだから帰ろうとしていたところ、君に偶然出くわした。僕は良縁に恵まれているようだ」

彼は値踏みするかのように私の姿を見る。
ユニコーンの角に至っては目をランランと輝かせ、舐めるような視線は気味が悪い。
私はいたたまれなくなり、落ち着かせるために呼吸を整えようとする。

「君は知ってるかなあ、」

男はそう言うと、「ユニコーンの捕まえ方」と続けた。
ユニコーンを、捕まえる…?

男はゆっくりとこちらへ歩み寄り、間合いを詰めた。
私も足を動かして間合いを取るようにするが、火炎の壁で造られたまるいリングがそれを妨げる。

「ユニコーンの角は治癒若返りの効能があるからねえ、今日までたくさんの頭数が狩られてきた歴史がある。ただし、ユニコーンという悪魔はなかなか人には懐かない。特に僕のような男には!……そこで、だ…」
「ッッッ…!?」

男は急に間合いを詰め、火炎を纏った拳で殴りかかってきた。
私は槍杆の中断あたりでそれを受け流す。
一瞬で近接戦闘となり、私は彼が繰り出す攻撃を受けながらも、習いたての足運びで流していた。
まだ…基礎しか習ってないのにッッ…!

「ユニコーンを狩るには、処女を囮に使うんだ」

男は息切れ一つせずに、攻撃をかましながらも喋り続ける。
私は刀刃を活用した闘い方をまだ知らない…
ひたすら槍杆で攻撃を受けるが、それも限界が来ようとしていた。

「生娘を美しく着飾り、ユニコーンの棲む森に連れて行くんだ。一人にさせておくと、処女の匂いを嗅ぎつけたユニコーンは、自分の獰猛さを忘れて乙女の膝の上に頭を置き、眠り込んでしまう。そこを生け捕りにして角を折る。それ以外の部位にも効能があるからねえ、パフォーマンスに優れた良い悪魔だよ」

暑い…
火炎を纏う男との接戦は熱く、私の体力消耗をよりいっそう加速させる。

「だから君がその姿であるうちが、僕らにとってもチャンスなん、だッ…!」

彼がそう言った瞬間、攻撃が手の甲に当たり、私の手から槍が弾き飛んだ。

「ユニコーン゛゛ッッ…!?」

男の回し蹴りは私の脇腹にヒットし、私は数メートル先へと吹き飛ばされる。
しかし、当たる直前に出した鉄の盾はその衝撃を和らげ、体自体へのダメージを軽減してくれた。
吹き飛んだ先には姿を戻したユニコーンがおり、彼はその胴体で私を受け止めてくれた。

『くるみ!へいき!?』
「うん、ありがとう…」
『やばいよアイツ、悪魔を喰ってモノにしてる…』
「悪魔を、食べる…?」

私はユニコーンの言うことが理解できずに聞き返す。
彼の身体から出ている火は、どうやらもとは火の眷属の悪魔のものらしい。
その悪魔を食したことで常人以上の力を得ており、ユニコーンの力を持つ私と同等の身体能力があるという。

「あ…、ってことは、火の属性ならば水で応戦できる?」

私は一つの可能性にたどり着き、目の前の化物に応戦するべくユニコーンに呼びかける。

「ユニコーン!あなたが言う“魔法少女”が、おジャ魔女的な魔法少女ではなく、まどマギ的な魔法少女だということはわかった!」
『う、うん?だから、向こうの世界の言葉で話されてもわからないってばあ!』
「あなた水の眷属だよね、なんか技とかないの?ティロ・フィナーレ的な!?」

彼は加護を与えた人物には、鉄物質の物を具現化できる力と、癒やしの能力を授ける悪魔だ。
しかし、水の眷属の上級悪魔であるからして、下級の眷属を呼び出すことも可能ではないのだろうか…

そう説明すると、私がやりたいことがわかったのか、彼は水精(ナイアス)を呼び出した。

『水精よ、力を貸してくれ』

途端、手のひらサイズの精霊が4体ほど現れる。
ユニコーンは『くるみ、彼らに祈るんだ』と言って再び槍の形に姿を変えると、復唱を促した。

『『わたしは、いましめの刃をあなたに与える。わたしのいましめを心にいだいてこれを守る者は、わたしを愛する者である』』

詠唱した途端、精霊はユニコーンの角の周りを飛び交い、パアッとまばゆい光を放ち、刃に吸収された。

「下級悪魔の力を吸収したところで、わたしからは逃られない!ここでせっかく出逢えたんだ、ユニコーンもお土産にもらっていこう」

男はそう言うと、火炎球を放出しながら近寄ってくる。
私は体制を立て直すなり、それらを交わしながら槍で振るい落とそうとした瞬間、火はジュッ!と蒸発してなくなった。

『今のくるみの腕前じゃ奴と対等にやり合うのは無理だ!今はとりあえず、逃げるために水精の力を借りて火を振り払って!』

私はユニコーンの言うとおり、男が放つ火炎を槍で振るい落としながら、塞がれた火の弱いところへ向かって走り寄る。

『わたしは、新しいいましめの刃をあなたがたに与える。わたしのいましめを心にいだいてこれを守る者は、わたしを愛する者である…わたしは、』

走りながら何度も詠唱を繰り返し、加護の強化に努めていたが、その足は何者かに掴まれて身体が崩れ落ちた。
足元を見ると、そこには私の足首をがっちりと掴む、人間の手があった。

「う、うそ、なに!?これ…!」
「ばらした瞬間は少し痛むけど、まぁ、許容範囲といったところか…」

急いで顔を上げると、男の左手が消えている。

「君の水の加護で燃え尽きてしまった手の一部を試させてもらった。いやあ、こういった使い方もありだねえ」

訳の分からない言葉を並べながら、私に馬乗りになると、槍を取り上げる。
しかし、槍はパアッと光るとその手をすり抜けてユニコーンの姿へと戻った。

『おいお前!くるみから離れろ!』
「ほお、珍しい。忠誠心のある悪魔ですか、これはだいぶ好かれているねえ」

ユニコーンは足で地面を蹴りつけて威嚇するが、私が人質に取られている状態では何も出来ないのか、その場から動けないでいる。
途端、私の変身は解けて制服姿に戻った。

「くるみさん…ご存知かな、加護を受けている乙女の処女を失くすと」

男の左手は再生し、そのまま私の太ももに手をかけた。

「え…ちょ、ちょっと…!やめろッ!」
「ユニコーンを捕らえることができるんだ」
『くるみ!!!!』

男の言っている意味がわかり、血の気が引いた。
同時に、やろうとしていることがわかって足をバタつかせて抵抗を試みるも、ユニコーンの召喚で体力が消耗しきっており、思ったより力が入らない。

「おい!やっやめろ!離せッ…!!」

私の動揺が影響したのか、その場に居たはずのユニコーンは消えてしまった。

『あれ…消えちゃった…困るなあ。ユニコーンを召喚したままでない、とッッ!!?』

パンッ!パンッパンッ!!

突然銃声が鳴り響き、目の前の男の顔にはいくつもの銃弾が突き刺さる。
血が吹き出してショッキングな光景が目の前に広がった。

え…うそ、でしょ……

めくれた皮膚、見えてしまった筋、肉、衝撃的な映像が視界いっぱいに広がる。
飛び散った血が頬につく感触を覚えたが、脳が理解することを拒み、途端、意識を、手放した。

-----

「………」

騒がしい声が聞こえて目を覚ます。
ゆっくり、ゆっくりと目を開くと、杉でできた天上が目に入り、和室にいるんだな、とぼーっとした頭で理解した。
手を動かすと、薄くて柔らかい布団に包まれていることがわかった。
身体が動くことにホッとする。

「ッ!?くまがい!やっと目覚ました!あんた、あんた何処行ってたの!」
「え!くるみちゃん起きたん!?」
「ちょっとあんたはこっち来ないでよ!」

隣に目をやると、出雲ちゃんが衝立を抑えて志摩くんと牽制しあっている。

「うわあーん!心配しとったんやで!くるみちゃんの元気なお顔見せてほしぃーー!」
「だからやめてよ!あんたはこっち来ないで…!」
「くるみ!お前、藤堂三郎太に会ったんだってな!」
「くるみちゃん、もう起きて大丈夫なの?」

うまく頭が働かないが、目の前にいる仲間たちの顔を見ると、心配してはいるがどこかやり遂げたような、満足げな表情をしている。

満足げな表情…?
そして、ここは、虎屋?
つまり、つまり…?

「もしかして、終わった…?」
「おお!俺が火生三昧でな!バーーーーーっとやって、バーンッってやって!」

「くるみにも見せたかったぜー!」と言う得意げな奥村くんを見て、私は肩を落とす。

もしかして、私は一番いいところを見逃したのではないだろうか。

-----

京都編、次で終幕です。

ヒロインちゃんを達磨和尚救出の方に参加させるか、藤堂と闘わせるか迷いました。
ただ、そろそろ彼女も実戦で課題発見させたいなあと思いこっちの展開へ。
次は雪男と絡みです。(ようやく!)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -