015(京都・不浄王編)

「晴れて実戦の参加資格を得た諸君らには、京都遠征に同行していただく!」

退院した三輪くんも塾に復学し、今日からいつも通りの日常に戻ると思っていた。
いや、この表現はおかしいか。
私たちの日常に祓魔は必ず関係している。
そして、今回は、実戦参加として京都へ行くこととなった。

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「うげええええああああ遅刻遅刻ぅーーー!」

枕元の時計を見て、慌てて支度をする。
出雲ちゃん、一緒に寮出ようって言ったのに…!
置いてかれた…!

出雲ちゃんと待ち合わせて一緒に東京駅へ行こうと約束していたが、
寝坊をかました私を置いて、彼女は先に行ってしまった。

同じ寮なんだから、起こしてくれたっていいじゃーん!
ケータイを開くと、「先に行くから」と一言書かれたメールが届いていた。
モーニングコール!せめて、モーニングコールだけでも欲しかった!

私はボストンバッグを引っ掴み、部屋の戸締まりをする。
夏季休暇に入ってからはずっと一人部屋。とても寂しい…。
休みの間だけでも、出雲ちゃん一緒の部屋に泊めてくれてもいいのに…

朝ごはんを食べる暇もなく、私は全力でダッシュし正十字学園駅へと向かった。

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プシューーーッ

ま、間に合った…!
ドアが閉まるギリギリに新幹線へ飛び乗る。

ワクチン接種を受けろと事前に言われていたことを思い出し、3号車へと向かう。
ドアが開くと、先に乗り込んでいた霧隠先生と目が合った。

「くまがい!お前ギリギリじゃねえか」
「せ、せーーふ!先生、ワクチン、お願いします…」

呆れた様子で笑う霧隠先生はワクチンの案内をしてくれると、「おら、行くぞ。お前もこっちだ」と言って隣の車両に連れて行ってくれる。

4号車には、塾の先生方といつもの友人たち。
出雲ちゃんと目が合うと、彼女は小さく「バカ」と言ってツーンとそっぽを向いた。

あはは…ごめん…

「出雲ちゃん、朝ゴメンー!」と謝りつつ、空いていたしえみちゃんの隣の席に座る。
彼女は笑顔で「どうぞ」と言ってくれたが、いつもの爛漫さが影を潜めていることが気がかりだ。

「へい、ちゅうもーく!アタシは今回ムリヤリ増援部隊隊長押し付けられた、霧隠シュラです!ヨロシク!」

「現状説明頼むわー」と言って、彼女は情報管理部の佐藤さんを指名する。

騎士團基地最深部内にて封印されていた“不浄王の左目”が藤堂三郎太の手引きにより奪われた。
さらに、“不浄王の右目”が封印されている京都出張所が襲撃を受けて負傷者が大勢出ているという。

今回の任務は、右目を守る京都出張所が再度襲撃される可能性があるため、手薄になった警護の応援と負傷した祓魔師の救助を行うこと。
私たち候補生はそれらのお手伝いとして連れて行かれるらしい。

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「いっただっきまーす!」

こっちの世界にもあってよかった、まい泉のヒレかつサンド!
やっぱ新幹線でのごはんって言ったらこれだよねー

新幹線が品川を通過してすぐに、私は停車中に買ったかつサンドにかぶりついた。
朝ごはんを抜いた所為でお腹はペコペコ、さらに朝の猛ダッシュで力を使い果たしていた。
ソースの香りにしっとりとした食感のかつサンドを楽しんでいると、「気易く呼び捨てにしないで!!!!」と大声を張る出雲ちゃんの声が聞こえた。

私は、声がした隣の列を振り返る。

「あ…あたしは…!「サタンを倒す」だとか、「友達」だとか!綺麗事ばっか言っていざとなったら逃げ腰の…臆病者が大ッ嫌いなだけよ!」

おお…なんだなんだ…荒れてるな…
隣に座るしえみちゃんは顔を青くして俯く。
私が「まあまあ、出雲ちゃん、そういちいち喧嘩腰なこと言わなくても」と言って諌めると、彼女はプイッとそっぽを向く。
まだ怒ってるな…

「…黙って聞いとれば、言いたい放題!!誰が臆病者や!」
「フン、じゃあなんなのよ」

出雲ちゃんの挑発にのり、我慢できないと言った様子で勝呂くんが立ち上がる。
それを見て、霧隠先生が怒声を飛ばした。

「候補生!お前らはこっちに来い、全員だ」

そう言って私たちを5号車へ誘導すると、霧隠先生は魔法円を描き、囀石を召喚した。

「お前らは、囀石の刑に処す!」

「そこに座れ!」と言われてすごすごと正座をすると、囀石を膝の上に乗せられた。

「またコイツか…」
「…なんでまた連帯責任なんですか?」
「皆で力合わせてつったろーが。京都までここで頭冷やしてろ!」

霧隠先生は念を押すと、4号車へ戻っていった。

「前も確か坊と出雲ちゃんがケンカしはって…いやほんま進歩ないわ」

はははーと笑う志摩くんは、場を和ませようとしてくれているのだろうが、皆それぞれ思うところがあるのか、空気が重い。
京都までこれなの…、まい泉のかつサンドまだ途中なのに…
私は座席に置き去りにされているであろうかつサンドに思いを馳せ、どんどん重さを増す囀石を睨みつけた。

「そんな事より…」

三輪くんが鬼気迫るような表情で話を切り出す。

「先生は何で奥村くん置いていかはったん?もしも何かあったら…危ないやんか!!」

急な大声に驚いたこともあるが、奥村くんを非難する言葉に驚愕する。
たしかに、周りの先生方や祓魔師も奥村くんを腫れ物扱いしている今、大丈夫という保証も無しに私たちはいつも通り候補生としてセットで扱われている。
当の本人もそうだし、周りの塾生も多少なりとも戸惑っているのだ。
ちゃんとした説明はしてもらうべきだとは思うんだけど…

途端、三輪くんの膝の上に居た囀石が雄叫びを上げて跳ね上がる。
そのまましえみちゃんの上に着地した。

私たちは立ち上がり、押しつぶされそうになっている彼女を取り囲み、囀石を引き剥がそうとするが予想以上の重さに断念する。

「古い強力なんが混ざっとたんや…!はよ引き離さなどんどん重なって潰される!」

志摩くんが錫杖を取り出し、かち割ろうとするがびくともしない。
変身を唱えようとしたとき、奥村くんが「俺にまかせろ!」と自信アリげに割り込む。

「…え?」
「…は!?おい!」

奥村くんは持ち上げようとするが、彼の怪力をもってしてでも囀石は持ち上がらない。
すると、彼は青い炎を出して手元に火を集中させた。

「ちょっ!奥村くん…!」
「うわぁっ!」
「ひっ…杜山さん!!!」

なにやってるの…!?
奥村くんの炎がしえみちゃんを燃やしてしまうのではと思い、私は彼を止めようと手を伸ばす。
が、伸ばしかけた手は勝呂くんに振り払われてしまった。
勝呂くんはそのまま奥村くんに詰め寄り、「やめろ!!」と言って肩を強く掴む。

炎が燃え移ったのか、囀石は再び飛び跳ねるが、新幹線の天井にぶつかり、その反動で座席に落ちる。
炎をまとったまま座席に飛び移ったことで、座席は燃え上がった。

「あかん、もう祓魔師呼ぼう!」
「待って!!」

隣の号車へ行こうとする志摩くんをしえみちゃんが呼び止める。

「大ごとにしないで…!燐は暴れてないよ…この炎は…」

奥村くんを擁護するように、しえみちゃんは言葉を続ける。
しかし炎は燃え尽きること無く、周りの座席にも燃え移った。

「この炎って、確か聖水で消してたわよね…“保食神よ成出給え”!」

出雲ちゃんは白狐を呼び出すと、神酒を出すと言って祝詞を述べる。
すると、燃える座席の真上に大きな献杯盃が現れ、水が撒かれた。

「ざ…座席ケシズミになってもた…」

炎は消化されたが、座席は見るも無残に真っ黒焦げだ。
囀石は姿を消している。

「何邪魔してんだよ!俺はうまくやれた!!俺を信じてくれよ!」

奥村くんは勢い良く勝呂くんに掴みかかった。

「…何がうまくや…!信じる…?どうやって…!」

勝呂くんは臆せず奥村くんを睨みつけた。

「十六年前、ウチの寺の門徒がその炎で死んだ」

前に聞いた“青い夜”を頭に浮かべる。
世界中で起こったその事件は、たくさんの犠牲者を出したと聞いている。

「その青い炎は人を殺せるんや!俺のじいさんも…志摩のじいさんも、一番上の兄貴も、子猫丸のお父も。寺の門徒は俺にとっては家族と同じ…、家族がえらい目におうてて…どうやって信用せぇゆうんや!!」

勝呂くんが言い終わる前に、私は彼の肩に手を掛けていた。
「その事件は、奥村くんには関係ないよ」と言うと、彼はコチラを振り返る。
バツが悪そうな顔をして、肩を揺らして私の手を振り払った。

「それは…大変だったよな…でもだったら何だ!!それは俺とは関係ねぇ!!」

奥村くんは力強くそう訴える。
「だから一緒にすんな」と反論する奥村くんがゆらりと炎の気配を見せると、三輪くんが「わあああ!!やめて!坊から離れて!!」と言って二人の間に割って入った。

「坊も…!僕らを家族というてくれはるなら…勝手はやめて下さい!お願いです…!」

続けて「坊にもしもの事があったら、僕ら寺に顔向け出けへん…!」と言う三輪くんはプルプルと震えている。

私はハッと我に返り、未だ床に倒れ込むしえみちゃんに手を差し伸べ、彼女をひっぱり起こした。
背中に火傷の様子などはなく、安心する。
ケガはないかと尋ねると、彼女はコクンと小さく頷いた。

三輪くんも、
しえみちゃんも、
勝呂くんも、
志摩くんも、

皆…みんな、戸惑っている。
一度、ちゃんと話し合う機会が必要なんじゃないだろうか。

「坊!上!!」

志摩くんが声を張り上げる。
皆声に反応して天井を見上げると、姿をくらませた囀石だろうか、まさに勝呂くん目掛けて飛びかかろうとしているところだった。

間に合わない…!

そう思って身を固くして伏せると、ドン!ドンッ!と重いものが落ちる音がして顔を上げた。
目の前には、バラバラに切り刻まれた囀石が転がっていた。

霧隠先生が駆けつけたらしく、彼女は魔剣を手に私たちをギロッと睨むと声を荒げる。

「お前らこんなザコ相手に何やってんだ!!本番でもそうやって互いの足を引っ張り合う気か?死ぬぞ!!」

ごもっともです…
私たちは言葉を失い、そのまま叱責を受ける。
入塾してから今日まで、事あるゴトに言い争い掴み合いのケンカを繰り返してきた。
私は止めに入ろうとするも、そこまで積極的には出れずにいることを少し思い返す。

遠慮…してたなあ。

私は本当は20代の社会人だから、彼らより上だから、若者に口をはさむでも、そんなことをいつも思っていたと思う。
やはりこの線の引き方はよろしく無いの、かな…

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ヒロインの心理的な悩みもぼちぼち出していきたいです。
ちなみに出しゃばったオリキャラの件につきましてはもう少々お待ちを!回想とかで出します。

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