014(林間合宿)

「奥村くんは別カリキュラムになるんだって」
「…ほうですか」

三輪くんは左腕を骨折して、1週間ほど入院することになった。
休んでいた今日のノートのコピーを渡すと、三輪くんは屈託のない笑顔をみせてくれた。

「三輪くんと志摩くんって、勝呂くんのお父さんの弟子って言ってたよね。…やっぱ、勝呂くんのこと大切にしなくちゃいけない立場なの?」
「んー、大切っちゃ大切ですねえ。物心ついたときには、坊のことはお守りせなあかんってことが当たり前やったから深く考えたことは無いですわ」
「設定がマンガっぽくてウケるね、許嫁とかもいそう!」

「許嫁は聞いたことあらへんなー」と言って笑う三輪くんは、いつもと変わらない。
おもったより元気そうで安心した。

志摩くん曰く、三輪くんは勝呂くんを庇って骨折をしたと言う。
彼らは「明陀宗」の僧正血統らしく、幼いころより座主血統にあたる勝呂くんを守るようにと育てられてきたとのことだ。
そんな三輪くんは今回のアマイモン襲撃において、勝呂くんの盾になった。

ガララッ

「坊、来てくれはったんですね」

病室のドアが開いて、勝呂くんが部屋に入ってきた。

「お、来たなケビン・コスナー。いや、勝呂くんはホイットニー・ヒューストンか」
「なに訳の分からんこと言うてんのや」

気まずそうな顔をして椅子に腰掛けた勝呂くんは、言葉を発さない。
…これは、私はお邪魔かな。

「じゃ、私はそろそろ帰るわ。授業のノート、明日また持ってくるねー」
「うん!くまがいさんありがとう」

私は二人の邪魔をしないように、ささっと病室を後にした。

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「ユニコーン、来て」

呼びかけと共に霞がかり、少し光りが差すと共にユニコーンは現れた。
先日のアマイモン襲撃以来、呼びかけるだけでユニコーンを召喚できている。
私はユニコーンと話し合い、今後の力の使い方を考えなければならない。
でないと、いつまでたっても“燃費の悪い魔法少女”である。

私は、この時間誰も使わない塾の教室を借りて、ユニコーンを召喚した。

「はい、約束のスコーン」
「わあい!やったー!!」

彼の届くところに手作りのスコーンを差し出す。
「ジャムもつけてー」と甘える彼の可愛さにきゅんっと胸が鳴った。
可愛いなコイツ…

最初はなんて図々しい、よくわからんやつだ、この悪魔め、なーんて思っていたが、ここ最近の出来事で変わった。
見えない絆のようなものを感じる。
不思議と、彼とはここ最近出会った気がしないのだ。
それは幼少時に出会った、と彼が言っていたことにも関係するのだろうか。

「今日はね、前言ってた通り話し合いたいことがあるわけよ」
「角について、だよね?」

私がコクンと頷くと、彼は口周りについた菓子クズをぺろりと拭って話し始めた。

ユニコーンの角は鋭く尖り、いつ何時戦うことになっても使えるようにしているが、祈りの詠唱を唱えることで癒やしの角となり、傷を治癒させる能力がある。
その性質故、ユニコーンは人間に角を狙われてきた歴史があり、今や個体数は数えるほどだと言う。

「僕らは人間には懐かないんだけど、くるみとは契約した仲だから、君が生きてるうちには力を貸すよ」
「あ、はい、恐縮です。私である必要性も大して感じないけど、それはいいとして、私がイメージしたとおりの魔法を使いたいときはどうすればいいかな」

そう尋ねると、彼は「こう唱えたらこうしたいってイメージを事前に教えて欲しい」と言う。
私は宝くんが言っていたことを思い出した。

「僕は、鉄の具現化における能力を持っているから、物質の特性を意識したものをイメージして欲しい」
「あーーーー、なるほどなるほど!だからアイアン・メイデン?なの?ってか、アイアン・メイデンってなに?」

そう尋ねると、彼はキョトンとした顔をして首をかしげる

「あいあんめいでん?なにそれ、僕知らない」
「あ、あれ?そうなの?ごめん、てっきり知ってるんだと思ってた」

私はエンジェルに言われたことを思い出した。
彼が知っているということは、って思ったんだけどな。
いっそ本人に聞くことが一番なのだが、聖騎士にどうやってお目通り願えばよいのだろう。
もしかすると、フェレス卿ならばアイアン・メイデンについて知っているのでは…?

「フェレス卿とかに適当に聞いてみるわ」と言うと、彼は「そうしてくれ」と言うように二個目のスコーンにかぶりついた。

ガチャッ

「…あ」
「奥村くん…」

ドアを開けたのは奥村くん。
今、塾生たちを悩ませる種の渦中にいる人物だった。

「わ、わりぃくるみ!」
「ちょちょっと待って!大丈夫、大丈夫だよ!?」

出ていこうとする彼を引き止め、私は中に入るよう促す。
すると、ユニコーンが頭を上げて奥村くんを睨みつける。

またそんな警戒するような…あ…

「ユニコーン、奥村くんが…その…サタンの子だって知ってたの?」

「サタンの子」と口にした瞬間、奥村くんがビクッと反応した。
ってか…、なんでこの子…

「なんで、パンツ一丁なの…?」

何故かパンツにネクタイだけの姿の彼。

「くるみ、あの、な、」
「サタンなのかなんなのかはよくわかんないけど、得体の知れない悪魔はくるみに近づけたくない」

奥村くんの言葉を遮って、ユニコーンは私たちの間に立ちふさがる。
彼は傷ついたような顔をする。

先日、奥村先生から教えてもらった彼らの生い立ち。
奥村くんは、これまで普通の人間として普通に育ってきたのだ。それがここ最近、突然、悪魔の子だという現実を突きつけられた。

見るからにしょんぼりと頭を垂れる奥村くん。
放っておけない衝動に駆られて、私は彼に近づき、羽織っていたカーディガンを彼の肩にかけた。
「くるみ!そいつに近づくな!危ないよ!」というユニコーンを大丈夫だよ、と諌めると、彼は不機嫌そうな顔をして消えてしまった。
奥村くんは驚いた表情でコチラを見る。

なんで裸なんだよ…まるで捨てられた子犬のようだな…
現に悪魔の尻尾は隠しきれずにしょぼんと垂れている。
何かの事件でも巻き込まれたのか?いや、この子は起こす方か。

「そのままだと風邪ひくよ、ホラ、カバン取りに来たんでしょ?」

別カリキュラムだって言って出ていく時に置き去りにされた彼のカバン。
後で届ける気でいたが、手間が省けたようだ。

「俺さ、武器にするためにここまで育てられたんだってよ」
「…え?」
「…!ごめん、変なこと言って」

急に謝り始めた彼は、下手くそに笑うとカバンを受け取り出ていこうとする。
「待って!」と彼の腕を掴み、引き止めた。

「お前ら兄弟は揃いも揃って、笑うの下手くそか!」
「!?」

私は奥村くんの頭をガシッと掴み、ワシワシと撫で回す。
常人とは違った彼の生い立ち、厳しすぎる現実、そんな大きすぎる運命を受け止めようとする彼を愛おしく感じた。

「ごめんね、年頃の男の子の頭を撫でるとかして」
「い、いや…別に…」

彼は照れた表情で戸惑っている。

「なんか、くるみって母ちゃんみてえだな」
「母ちゃん…!?こんな大きい子のいる年齢じゃありません!」

そう言ってにへらと笑う彼、今度は本物の笑顔で安心した。

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「しえみちゃん、急な誘いなのにありがとうね」
「ううん!むしろ、誘ってくれてありがとう!私、ライブって初めて来たよー!」

合宿が中止になったことで、佐藤先輩のライブに来れた。
行けると連絡したところ、招待枠で入れてくれるというありがたい申し出があり、候補生の女子3人で訪れた。
出雲ちゃんは「もしかして今日告白されるんじゃないの!?」と演奏中もそわそわしっぱなしである。

『皆さん、はじめまして!今日は先輩のご好意で僕達も出させてもらいました。全員まだ高校生の未熟者ですが、いい音出すんでよろしくお願いします!』

佐藤先輩はMCも安定しており、観客を煽るのが上手い。
前座としての仕事をばっちりこなし、メインとなる先輩バンドへと繋いだ。

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「くるみちゃん!」
「先輩!お疲れ様でした」

「すっごい盛り上がってましたね!」と言うと、彼は満足そうに笑った。
高揚感冷めぬまま、の表情の彼は私の手をつかむ。

「ちょっとくるみちゃん借りるね」
「え!」

彼は連れの二人に「ごめん」と言うと、手を引いて誘導する。
戸惑って出雲ちゃんとしえみちゃんの方を振り返ると、彼女たちは顔を真っ赤にして「キャー!」などと言って騒いでいる。

これは、もしかして…、もしかすると、来たか?

彼にライブハウスの外へと連れ出される。
ここに来る途中、いくつかの冷やかしの視線を受けた所為で、想定が確信に変わりつつあった。
告白、来るんじゃないか…?

人が少なくなった辺りまで来ると、彼は振り返り、空いた手で私のもう片方の手もつかむ。
ちょっと大きな声で「くるみちゃん!」と呼ばれて少し身体が強張る。
鼓動が早まり、頭が緊張でふわふわする感覚。

「好きです!俺と、付き合ってください」

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奥村兄寄り回…と見せかけての、オリキャラでしゃばり!
ヒロインの性格から、メインキャラとしか絡まないのは不自然かなーと思い、ちょくちょくオリキャラがでしゃばります。

私の中のユニコーンは処女厨ヤンデレ設定なので、徐々に片鱗を見せたいなとたくらみ中です。
コメディでヤンデレってどう出せばいいんじゃ…

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