012(林間合宿)

「これって…化燈籠(ペグランタン)?」

大量の蛾の襲撃により、懐中電灯をどこかに落としてしまった。
蛾は光に集まっていただけなのか、その後襲われることはなく、月明かりを頼りに森の中を彷徨っていると
化燈籠に出くわした。

化燈籠は辺りに貼られた御札で封印されている。

「これどうやって運べばいいの…」

傍にはリヤカーがあるが、今、化燈籠に火を灯してしまうと暴走して収まらない。
リヤカーはフェイクなのか、それとも…

「3枠って、3人ってわけじゃなくて協力しろってこと?」
『小娘その通りだ!』
「宝くん…!?」

声がした方を振り向くと、宝くんがパペットをぱくぱくさせながら近寄って来た。
どうやら誰かが来るのを待っていたらしい。

『さっさと準備しろ』と言って、彼は化燈籠の上に

座った。

「えっ!なんで!?」
『お前が変身してコイツの囮になるんだよ!ユニコーンの力を借りたら持久力も上んだろ!』
「え、えー…」

宝くんの俺様っぷりに脱力した。
むしろここまで一貫されてると感服でござるだわ。

化燈籠は、一度火が灯ると、朝になるか燃料が切れるかで動きを止める。
今は御札で封じられているが、この札を取って火を灯した瞬間、暴走を始めるのだ。
さらに、この悪魔の好物は女。
生き物を食って燃料にする悪魔で、特に女を好むと言われている。

その特性をわかって、クラスメートを囮にすると言い張るこの男、一体なんなんだ…

「しかもこっちは美少女だぞ、美少女…」
『ブツブツ言ってないで早く火を灯せクソガキ!』

本来はお前の方がガキなんだけどな!
まったく口が悪い。親の顔が見てみたいわ…

こちらを見ないようにと念を押し、変身を唱える。
辺りが明るくなり蛾が寄って来たが、襲っては来ない。

悪魔の力が牽制になってるのか…?

『何度見ても惚れ惚れすんな!いいぞもっとやれっ!』
「見るなつったよね!?ってか燃料投下のこと考えてくれない!?」

我関せず状態な宝くんにつっこむが、全く動じない。
リアクションゼロ。
彼に何を言っても無駄だと悟った。

『生き物が燃料になる。周りを飛んでる虫豸(チューチ)を使えばいい』
「…あ、コイツら虫豸の類だったの…」

周りを飛ぶ蛾は、悪魔の一種らしい。
ということは、周りの虫豸を捕らえて、燃料として火にぶっ込みながら囮になって逃げるという芸当が求められるわけだ。

いや、1人じゃ無理だろ…!
でも、魔法少女ならできるのかも?

「出てこい!…虫豸を吸える掃除機!」

私は咄嗟に掃除機を思い浮かべ、ステッキを振りかざした。
辺りがピカッと光り、手に持っていたステッキはサイクロン式掃除機へと姿を変えた。

吸引口を虫豸に向けると、キュイーーーンッと音を立てて吸っていく。
便利…!

律儀にも、掃除機には「満タン」の文字。
補給できたことを知らせてくれるが、ダストボックスいっぱいの虫を想像し、その気味の悪さにゾクリとした。

「じゃ、じゃあいくよ…!」

手持ちのマッチをこすり、火が付いたことを確認して灯籠の中に投げ入れた。
すると、化灯籠は目をパチッと開き、一瞬、目が合ったように思えた。

『ボォーーーーーッ!』

化灯籠は雄叫びを上げると、私めがけて突進してくる。
私は反射的に地面を蹴り上げ、駆け出した。

ぐんぐん加速をして化灯籠に追いつかれないようにしつつも、少しスピードを緩めては
掃除機の中身を吐き出していく。

「出してーーー!」

キュイーーーンッ

「はい!止めてーーー!」

繰り返しながらスタート地点を目指してひたすら走る。
宝くんは化灯籠にしがみついたまま。
アイツ…覚えてろよ…

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少し迷いながらも、走って数十分で野営に到着した。
霧隠先生の姿が目に入り、「せんせー!」と叫んで声を掛ける。

先生は私たちの姿に気がつくと、「おー、おつかれ!一番乗りだぞー」と言って出迎えてくれた。
霧隠先生は化灯籠に御札を貼り付けるとお経を唱え、再び動きを封じ込めた。

「これで、お前たちは実践任務に参加できる」
「やったー!」

実践の機会は大切だ。
早くユニコーンの力に慣れなければならない。
私は変身を解いて、その場に寝転がった。
はぁーーーー、疲れたーー。

「他の奴らもすぐ来そうだなー…簡単すぎたかにゃあ…」霧隠先生はそう言うと隣に腰掛けて、缶の底のビールを一気に飲み干した。

「…、おいくまがい、そんな羨ましそうな顔してもガキにはやんねえぞ」
「わっわかってますよ…!ってか別に、羨んでなんかいませんし!?」

本当は運動後の一杯が欲しいところだが、教員の手前、誤魔化した。
それにしても、疲れたと言っても、先日よりも体力が余っているように感じられる。
以前よりも余裕が感じられて、怪訝な顔で印章の辺りを眺めていると、宝くんに『おい』と声を掛けられた。

『お前とユニコーンがどんな契約をしたか知らねえが、最近までのお前のやり方を見てると、魔力行使のイメージがユニコーンの認識と食い違ってんぞ』
「どうゆうこと?それって、私が使いたい魔法のイメージとユニコーンの力が噛み合っていないってこと?」

『そうだ』と言って宝くんは続ける。

『まるで意思疎通できてねえ!いいか、正しい詠唱ではなく独自の詠唱で悪魔の力を使役してえなら、ちゃんと話し合っておくことが必要だ』

彼が言うには、私はユニコーンの本来の力を使えておらず、燃費の悪い力の使い方をしているとのことだった。
具現化させたいものがあるならば、ユニコーンと詳細を話し合っておかねばならないと言う。
燃費の悪い魔法少女ねぇ…

メッフィーランドで張ったバリアが、瓦礫の重さに耐えられなかったことを思い出し、今言われたことが原因かも、と思考を巡らせる。
なんとなく、だけれども納得できる。
私は「宝くん!」と彼を呼び止めた。

「いろいろ教えてくれてありがとうね」
『…仕事だからな。もう一つアドバイスだ!何故、自分がユニコーンに選ばれたのかよく考えろ』

宝くんはそう言って、私と距離をとって座ってしまった。
霧隠先生はそんな彼を奇異そうな面持ちで見やると、私に顔を近づけて「あまりアイツと二人きりになんなよ」と小さな声で呟いた。

「え?」
「いっやー!お前みたいに悪魔の力使う奴は初めて会うよ。宝が言うとおり、ユニコーンとよく話し合えよ。お、もう一人終わったみたいだなー」

それはどういう意味の忠告かと聞く前に、霧隠先生は立ち上がり、前方から駆けてくる出雲ちゃんの方へと行ってしまった。

とにかく、ユニコーンとの話し合いが必要みたいだ。
私はピラッとスカートの裾を少しめくり、印章の痕を凝視した。

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「おっ、お疲れさん。無事戻ってきたな」

半泣き顔の開放感溢れる志摩くんを筆頭に、残りの五人も帰還した。
空は明るんでおり、間もなく夜が明ける。

「なにい!?お前ら、もうクリアしてたんか!?」
「遅かったわね。使い魔にやらせたわよ。…くまがいと宝の方が早かったけど」

怪訝な顔でこちらを見る勝呂くんに、「ユニコーンの力でね」と言ってアハハと笑って見せると「チートやろ!」と言って舌打ちされた。

「あれ?そういえば、お前ら全員か?さっきのロケット花火は誰が…」

ボンッ

咄嗟に立ち上がる。
大きな落下音と共に、砂煙の中に二体の何かを目で捉えた。

「ゴー!ベヒモス!」
『ガルルアアアッ!!』

空から降りてきた何者かが悪魔を縛り付けていた鎖を解き放った。
悪魔は唸りながらコチラへ突進してくる。

「ッ…!変身ッ!ユニコーン!!」

咄嗟に変身を叫び、再び魔法少女の姿で全身を纏った。

「悪魔に見初められ誕生!マジカル祓魔s…ってうわああ!」

変身中に悪魔が目の前まで迫ってきていたらしく、決め台詞も半ばに手にしていたステッキを振りかぶり、悪魔を振り払った。
悪魔は元の場所まで吹き飛ばされ、体制を持ち直して再びコチラを睨む。

「待ちくたびれたよ…!ピュイッ!」

霧隠先生の指笛に呼応するかのように地面から蛇が現れた。
蛇は燃え上がり、炎を発っする。
それと同時に、昼間描いた魔法円に沿って火が燃え移り、魔法円がまばゆい光で辺りを照らした。

「魔法円を描いた時に中にいた者は守られ…、それ以外を一切弾く絶対牆壁だ。まあ、しばらくは安全だろ」
「絶対牆壁…!?私たち、そんなもん描いてたんですか…それより、さっきのアレは!?」

「訓練は終了だ。今からアマイモンの襲撃に備えるぞ。CCC濃度の聖水で重防御するから、皆こっちに集まれ」
「アマイモンって、八候王(バール)の一人の“地の王”ですか?さっきのが!?」

私たちは急な来訪者に言葉を失う。
八候王は普通の祓魔師では到底敵うはずのない、特大級の大物悪魔だ。
それが正十字学園町内に現れるはずが無いのだ。

霧隠先生は「ホラ並べ!」と言うと、私たちを一列に並べてポリタンクいっぱいの聖水を頭からかぶせて祈りを述べた。
その瞬間、私の魔装は解け、再び制服姿へと戻っていた。

「あ、ワリィ…くまがいのそれは悪魔の力だから解かれちまうんだな」
「…らしいですね」

知らなかった…。
でもそうか、悪魔の力を借りているということは、祓魔となる行為はすべてこの力を解く原因になるのだ。

もし、再度襲撃されたとしても霧隠先生がいる。
何処へ行ったかは知らないが、奥村先生も駆けつけてくれるはずだ。なによりここは学園町内。
あの怪しい理事長も異変に気づいて来てくれるのではないだろうか…?

もしもの事態を想像しながらも、さいあくの手を考える。
私たちはアマイモンを警戒して近くに固まった。

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手騎士の先輩として宝くんとの交流をしてもらいました。
彼は調整役としてちゃんと仕事してますよっ

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