010(実践訓練)

「くるみちゃん、A組の神木さんが来てるよ」
「え、出雲ちゃん?」

珍しい客人の来訪に少し驚いた。
入り口に立つルームメイトに御礼を言い、半開きになっていたドアを開けると、
そこにはいつもと変わらず仏頂面な顔をした出雲ちゃん。

そして、しえみちゃんが立っていた。

「わわっ、めずらしい組み合わせだね、ウケるわ」
「ちょっとウケるってなによ!こいつが制服の着方教えろって言うから、連れてきたのよ」

しえみちゃんは腕に抱え込んだ制服を前に突き出し、「お願いします!」と一言お辞儀をした。

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「遅れました…!!」
「し、しえみ!?どうした?キモノは?」

集合時間から少し遅れて到着し、先生と同級生たちに謝った。
あの後、先に出ていこうとする出雲ちゃんをなんとか引き止め、
しえみちゃんに着方を教えた。

「へ…へんじゃないかな?」

な訳ない!
なんだこの恥じらい、可愛すぎんだろう、杜山しえみ!

志摩くんは褒めちぎり、三輪くんも勝呂くんもまんざらでもない顔で微笑む。
奥村くんにかぎっては、照れて直視できていないようだった。

「えーでは全員そろったところで、二人一組の組分けを発表します」

そう言って奥村先生は今日の組分けを公表していく。
「奥村、杜山、くまがい」と呼ばれたことに顔を上げ、小声でしえみちゃんに「よろしく」と声をかけた。

今回の任務は、ゴースト退治。
正十字学園遊園地の通称「メッフィーランド」内にゴーストの目撃・被害報告が相次いでおり、訓練生のみんなで捜索の手伝いをするといったものだ。
広い園内でのゴーストの捜索であるため、今しがた発表されたように手分けして捜したほうが良さそうだ。

ゴーストは人や動物などの死体から揮発した物質に憑依する悪魔で、性質はたいていしたいの生前の感情に引きずられるものが特徴だ。
死ぬ前に告白したかったー、とか、約束を果たせなかったーとか、そういった未練が残って成仏できないケースも多々ある。
つまり、今回のゴーストはメッフィーランドに未練のある可能性がある。

「外見特徴は“小さな男の子”で共通、被害は現在“手や足をひっぱる”程度…ですが、このまま放置すると悪質化する恐れがあり危険です。
先ほど分けた組分けどおり、方方に散り、日暮れまでの発見を目指します。
見つけたらすぐ、椿先生か僕、奥村の携帯に連絡すること」

ゴーストの特徴は“小さな男の子”のみ、見たらすぐわかると椿先生は言う。

「燐、くるみちゃん!頑張ろうね…!」
「「お、おう!」」

何故だかめちゃくちゃ使命に燃えてる…
しえみちゃんの気迫に圧倒されながら、私たちは指定されたエリアの方へと駆け出した。

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「悪魔に見初められ誕生!マジカル祓魔師・くるみ!」

以前と同じように着ていた服は霞の中に消え、魔法少女の装束へと着替えられた。

「やっぱ逆だったのか、変身できちゃった…」
「くるみちゃんすごーーーい!すごいっ、かっこいいよ!」
「なあっ!もう目開けてもいいか!?」

恥じらいがなければユニコーンを呼び出せない、のであれば、
変身した後のこのこっ恥ずかしい格好になるほうが、最初の手順なのではという仮説に基づいて変身を唱えてみた。

うわあ、まじで魔女っ子だあ…

ショーウインドウに映る自分の姿をまじまじと見る。
胸元に大きいリボン、腰から膨らむひらっひら、ふりっふりのスカート。
手に持つステッキの先端には、先日光を宿した大きな玉がシンボルとなっている。
半ば半信半疑でやってみたものの、期待通り変身することができた。

変身中は恥ずかしいから見ないで、という言いつけを守り、奥村くんは目を瞑っててくれた。
「もういいよ」と声をかけると、私の姿を見て目を輝かせた。

「すげーーー!魔法使えんだろ!?なあなあ、早くやってみてくれよ!」

前回光を灯したときのように、今回の捜索に適した魔法が使えるかもしれないと期待して変身した。
魔女っ子オプション、ようやくうまく使えるようになってきてワクワクが止まらないのだ。
使いたくて使いたくて、ずっとウズウズしていた。

「やっちゃうよ…!?やってみちゃうからね!?」
「「うんうん!」」

ノリの良い二人のギャラリーの期待の眼差しを受けて気分を高めた私は、
声高らかに叫んだ。

「出てこい、ダウジング!」

途端、ステッキの先にある球体はピカッと光り、辺りには火花のようなものが散った。

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が、なにかおこったようには思えない。
あ、あれ…?

「なんも起こんねえじゃん」
「うん?ダウジング?できたのこれ?うん?」

ステッキをブンブンと振り回すが、これといって特別なことは起きない。

「電波が無い…とかかなあ?」

ステッキを上にかざし、西へ東へ向きを変えてみる。
「くるみちゃん何やってるの?」「さぁ」という声が聞こえる中、
ついに球が光りだした。

「光った!光ったよ、ねえ、光ってる!」
「「おおー!」」

光ったというより、点滅に近い。
ステッキを右にずらすとその点滅は止み、もう一度元の方向へ戻すと点滅し始めた。
まさにダウジングマシーンだ…

「なんか思ってたよりアナログだ…」
「う、うるさいなぁ!私の想像力の限界なの、これが!」

期待はずれだとでも言うように、奥村くんはため息を吐く。
「もっとズバァーン!とさあ、なんかかっけえー感じの、ねえの?」と言ってる彼を無視し、私は一人で点滅する方へと歩を進めた。

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「たぶん…この辺…」

球の点滅はどんどん速さを増し、ついに光った状態を維持するまでになった。
おそらく、これが近くにいるぞ!のサインだと思う。

警戒しながら辺りを見渡す。

『おねえちゃん何してるの?』
「ん?今ね、ゴースト・バスターズごっこしてるんだよー」

返答しながら声がした方に目をやると、そこには小さな男の子がいた。
あれ…たしか奥村先生は一般人は入れないようにしてあるって言ってたような…?

「ゴースト・バスターズ?なにそれ僕もやりたーい!」と言って、少年は宙をくるりと一回転する。

宙を…一回転…?

「で、でたーーーーーーー!うわああああ足がないいいい!本当に幽霊だあああ!」

自分が会話していた相手が、今日の標的だと気付き、持てる力を込めて地面を蹴り、後へ飛んだ。
すると、

瞬時に飛ぶ感覚は駿馬の如き速さ、
着地の瞬間はふわっとした柔らかさを感じられた。
変身してからは園内を歩き回っているにも関わらず疲れはなく、スタミナも体の奥底からみなぎるように有り余っっていた。

これが、ユニコーンの力…?
まるでプリティでキュアキュアな感じ、やれる気がするようなパワーアップっぷりだ。

『おねえちゃんすごいねー!スーパーマンみたいー』

ハッ…!
今は、こんな悠長に力を実感している場合じゃなかった…

「ゴーストって、君のことね。お願いだから、成仏してほしいなあ」
『嫌なこったー!!』

少年はすごいスピードでスイスイと辺りを飛び交う。
足無いの、ハンデすぎる…!

私は彼を追いかけて走り回った。

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完全に見失ってしまった…
球は再び点滅をしている。

つまり、この辺りにはいるはずなのだが、まったく見当たらない。
建物通り抜けられるとか、チートすぎんだろ幽霊!

辺りをキョロキョロと見渡していると、前方からしえみちゃんが駆け寄ってくるのが見えた。

「おーーーい!くるみちゃーん!」
「しえみちゃん!さっき、あっちの方でゴースト見つけたよ」
「うん!こっちでもね、男の子の幽霊見つけたよ。でも、逃げられちゃって、燐と手分けしてたの」

しえみちゃんと合流し、進捗を報告しながら辺りをキョロキョロしてると…いた!
「「あ!いた!!」」

同時に見つけて、私たちは再びゴーストを追いかける。
少年はどこか楽しそうで、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「こら、待ちなさい!鬼ごっこじゃないんだから…」
『へへー、ばーか!捕まえられるもんなら捕まえてみろ』
「大人に向かってーーー!」

私たちは再び地面を蹴り上げ、ゴーストに向かって駆け出した。

「もしかしてあの子…」

心当たりがあるのか、しえみちゃんは憂いに沈んだ表情で何やら考えあぐねている。

瞬間、すごい音が鳴ってジェットコースターの骨組みが崩れ始めた。
ふもとに立つ私たちは、音が鳴った上の方を見上げる。

「バカ!!危ないよ、もう追いかけっこはおしまい!」

しえみちゃんがゴーストを抱き上げた、その瞬間、
頭上に瓦礫が振ってくるのが目に入った。

「しえみちゃん…!えっと…あーーー聖なるバリア・ミラーフォースッッ!」

咄嗟に浮かんだゲームのカード名を唱えながらステッキを振りかぶると、
しえみちゃんの頭上には魔法円が重なった透明なバリアが張られた。
瓦礫はバリアに当たると跳ね返り、誰もいない地面に落ちた。

「しえみちゃん!大丈夫!?」
「うん…くるみちゃん、ありがとう!」
「はやくっ!ここは危ないよ、逃げよう!」

私はしえみちゃんの手を取り、その場を離れようと駆け出した。
容赦なく降り注ぐ瓦礫に、身を翻して避けて行く。
しえみちゃんが抱えているゴーストは『ぎゃはは!スゲー!えいがみたいだ!!』と喜んでいる。

「あー!もお、また…ミラーフォース!」

次々と崩れ落ちてくる瓦礫に対し、防御をイメージした言葉を紡ぐ。
その時、巨大な瓦礫が降ってきてバリアを破った。

「ッッ!?ヤバッ」
「助けて!!」
『ニー!』

ニーちゃんが木のバリケードを出したのを視界の端で確認しながら、私はしえみちゃんに覆いかぶさって
彼女を抱きしめた。

もう…だめだ…!

ギュッと目を瞑ると、背中が温かく感じられたと同時に、焦げ臭さが鼻についた。
なにも降ってこないことを疑問に思い、恐る恐る目を開くと、瓦礫はキレイさっぱり消し炭と化していた。

「「…え?」」
『…あはは!あははは!!すげー!!』

ゴーストの少年は興奮して辺りを飛び回る。

「!?な…なに笑ってるの…!し、死んじゃうとこだったんだよ!?」
『ぼくもう死んでるもーーーーん!』
「そうだった…」
「あ!…でもね!君は一体、何が…」

脱力した私たちを他所に、彼は生まれてからずっと入院していて、普通の子どもとしての生活ができなかったことを語り始めた。
その口調は明るく、まるで、この世に未練は無いような口ぶりだ。

『ありがとうね、おねえちゃんたち!』

私たちが彼に掛ける言葉を選んで口を噤んでいる隙に、少年は一言御礼を言ってスッと消えてしまった。

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「燐!!どうしたの!?」

視界の端に人の気配を捉えてそちらを見やると、奥村くんが一人ボロボロの姿で佇んでいた。
もしかして、今の崩壊事故に巻き込まれていた…?

しえみちゃんが彼に駆け寄り、手を差し伸べると、奥村くんは大きい声を上げて手を振り払った。

「触んな!!…あ、ゴメン、なんでもねーや。それより、お前らこそ平気だったか」

私も彼らに駆け寄ろうと、足を踏み出した瞬間、急に足に力が入らなくなり、地べたにぺたっと座ってしまった。
瞬間、変身は解け、元の制服姿に戻っている。

「あれ…疲れちゃったのかな…」

どっと押し寄せる疲労感から、足に力が入らない。
若干の目眩も覚え、収まれ、収まれ、と唱えながら目を瞑る。

「くるみ!」
「くるみちゃん!」

私の名前を呼んで駆けつける二人の気配を感じ、ゆっくり顔を上げた。

「大丈夫、体力不足みたいだへへへ」
「くまがいさん!!」

声がした方を振り向くと、奥村先生と椿先生が駆けつけてくれた。

「悪魔の力を使いすぎちゃったみたいです」と事情を話す。

「すぐに医務室へ連れて行こう。ベッドが空いてるか電話してみるネ」

椿先生は私の症状を確認するなり、すぐに電話を取り出して連絡してくれた。

「しえみさんも、大丈夫ですか?」
「雪ちゃん…燐がケガしてるから手当してあげて…!」
「奥村くんボロボロじゃん!」

自分のことでいっぱいで気が付かなかったが、皆が駆けつけたことに安心して冷静さを取り戻した。
「普通に私より怪我人なんだけどどうして平気そうなの…」と言ったと同時に、

山田くんが目の前に現れた。
いつの間に…

「遅ぇぞ、雪男。お前が遅いからこっちが動くハメになったろーが」
「…!ま、まさか」

近くで聴くのは初めてである。
凛と通ったような山田くんの声に、一つの仮定を思い浮かべる。

山田くんはパーカーを脱ぎ捨て、巻いていたサラシをシュルシュルと解いていく。
その姿に、先ほどの仮定は真実となった。

山田くんは、女の子だった。
女の子、と呼んでよいものなのかわからない、お姉さんが口を開く。

「アタシは上一級祓魔師の霧隠シュラ。日本支部の危険因子の存在を調査するために、正十字騎士團ヴァチカン本部から派遣された、上級監査官だ。」

「免許と階級証ね」と言って彼女が取り出したものは本物らしい。
現役の椿先生はそれを確認するやいなや、挨拶した。

霧隠シュラさんは、候補生はすべて返すことと指示し、奥村くんを引きずって歩き始める。
「くまがいさん、立てますか?」と差し伸べてくれた奥村先生の手を取り、肩を借りて歩き始めた。

前方から、私を見かけた同級生たちが駆け寄ってくる。
彼らの優しさに微笑みながら、連行されて行く奥村くんのことを少しだけ、気にかけた。

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組分けは、燐との絡み少ないなあ!と思った単純な理由により。
ヒロインは魔法少女の力は得ましたが、まだまだ使いこなせません。これからがんばりましょう!

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