▼ 第二章
どうなっている? 山姥切は混乱した。先程まで大広間にいたのに、一瞬で目の前の景色が変わってしまった。
忙しなく辺りを見回し、彼は必死に自分が置かれている状況を確認した。
前方に林、すぐ後方に屋敷、頭上には青空。ここは外か。外といっても、どうやら本丸の敷地内には居るようだが。
恐らく審神者の術か何かで屋敷の外に瞬間移動させられたのだろう。捕らえられた主が遠隔操作で力を使ったのか、何なのか。そこまでは分からないが、それを考えるのは後回しにして、辺りを一通り確認した山姥切は次に自分の身体に異常が無いか見回した。そしてすぐに異変に気が付いた。
――刀が無い。
先程まで帯刀していた刀がすっかり無くなっている。
「どうなっているんだ」
瞬間移動も、刀が無くなっている状況も、恐らくは先程の放送が言っていたゲームとやらに関係しているのだろうが、もしそうなら、何故彼らはこんなことをしたのか。考えて山姥切は舌打ちした。
もし、この状況に陥っているのが山姥切だけではないのなら。
どうやらこのゲームは、ただ仲間を探して斬り合えばいいというだけではないらしい。
一つは刀の問題だ。刀を憑代とし顕現している刀剣男士は、体に致命傷を負う以外に刀を折られても刀剣破壊となる。つまりどんなに肉体だけ守ろうと、誰かに刀剣を折られてしまえば死ぬということだ。
二つ目に大広間からこの場所に飛ばされたこと。これにより山姥切は一人で行動せざるを得なくなった。
二つの事項に共通して言えることは、どちらも刀剣達に殺し合いをさせ易くしているということだ。
考えたくはないが、主のために仲間を皆殺しにしようとする者がいないとは言い切れない。むしろ主を優先して動くのは、刀剣男士として至極当然だと言える。
長谷部の一件があった以上、誰がどのように考えて行動するかは分からない。皆が少なからず疑心暗鬼になっているはずだ。
刀を折られないためにも、自衛のためにも、刀が必要だ。それには危険を冒して本丸内を歩き回る必要がある。
――やるしかないのか。山姥切の気は重かった。
今まで仲間だった者と殺し合いをさせられる羽目になるとは、ほんの十分前までは思ってもみなかった。未だに『どうしてこんなことに』と思う気持ちの方が強い。
しかしいつまでも泣き言を言っているわけにもいかない。戦場で余計な感情は命取りになりかねない。気持ちを切り替えなくては。
覚悟を決めた山姥切は、丸腰を補う機動力と偵察力で、辺りを警戒しながらその場を動き出した。