刀剣狂乱舞 | ナノ


▼ 第十八章

 ゲーム開始二日間で既に北の別邸を一通り回っていた大和守達は、刀探しをを本邸の探索に絞って進めていた。
 燭台切は味方集め、大和守達四人は刀集め。それが話し合いで決めた役割だ。
 和泉守以外のそれぞれが自身の刀の気配を探りつつ、厨から時計回りに本邸を歩く。大広間を抜け、廊下を右に曲がり、近侍執務室の縁側に出る。幸い今日は晴れているため、一番偵察値の高い堀川の索敵は最大限発揮されていた。これなら他の刀剣に出くわす心配もないだろう。
 大和守、和泉守、堀川、太郎太刀。四人の中で刀を所有しているのは和泉守のみ。万が一敵と鉢合わせにでもなればタダでは済まない。
 慎重に縁側を進み、近侍執務室から審神者執務室に差し掛かる。その時、不意に庭からそよ風が吹き抜け、大和守がピクリと反応を示した。
「血の匂いがする」
 四人は一斉に足を止めた。素早く身をかがめ、和泉守が刀に手を掛ける。
「血の匂いはするけど、敵の気配は感じないね」
 堀川が慎重に辺りを見回す。
「血の匂いはそこの庭からだ」
 大和守が指差し、堀川はもう一度そちらを凝視した。
「うん。やっぱり人の気配はないよ。この辺りには誰もいない」
「なら行ってみるか。何か情報が得られるかもしれねぇ」
 和泉守が屈めた腰を正し、皆を先導して花畑の方へ進んでいった。大和守、堀川、太郎太刀もそれに続く。赤い橋を渡り、ざく、ざく、と足元の草花を踏み鳴らした。
「っと! こりゃあ酷えな」
 最初に見つけたのは、二人分の黒い血溜まりだった。
 そして次に見つけたのが、折れた蜂須賀虎徹、長曽祢虎徹。
「ああ……!」
 大和守達は、その惨状に呆然とするしかなかった。
「長曽祢!」
 放送で長曽祢の死は知っていた。知っていはいたが、実際の現場を見ると、あまりの生々しさに言葉を失う。
 放心している新撰組の刀三人を見ていられず、太郎太刀は一人視線を辺りに移し、その先にもう一つの血溜まりを見つけた。恐る恐る足をそちらへ向ける。
「これは」
 見つけたのは陸奥守の銃だった。こちらも一人分の血溜まりの中に、隠れるように浮いている。
 太郎太刀は後ろで放心している三人に報告するべきか迷い、振り返った。
「陸奥守の銃だね」
「! 大和守さん、いつの間に」
 後ろで、いつの間にか大和守が血溜まりに浮かぶ銃を覗き込んでいた。折れた長曽祢虎徹を見た時の動揺は、もう感じられない。
 大和守は、太郎太刀に聞こえるか聞こえないかの声で「こんなことなら、あの時声を掛けておけばよかったな」と呟いていた。大和守の独り言を、太郎太刀は何のことだろうと思いながら耳に入れる。太郎太刀が知らないのも無理はない。大和守は、このことを他の誰にも報告していなかったのだから。
 実は大和守は、ゲームが始まった直後に陸奥守を目撃していた。
 大和守が陸奥守を発見したとき、陸奥守は右手に銃を握っていた。一方大和守は刀が見当たらず困惑している真っ最中。だから、万が一戦闘にでもなれば勝負は見えていると思って、声を掛けずにその場をやり過ごしたのだ。
 陸奥守の性格に鑑みれば、彼は到底ゲームに乗る人間だとは思えない。しかし、新選組の刀と坂本龍馬の刀は普段からあまり折り合いがよろしくなかったので、大和守には少しだけ彼を疑う気持ちがあった。
 こうして彼の死に直面した今となっては、大和守には嫌でも後悔の念が渦巻くわけだが、当時の自分がそんなこと知る由もない。もしあの時自分が話しかけていれば彼は死ななかったんじゃないか。それどころか、心強い味方になってくれたんじゃないか。なんて、今更考えても遅いのだ。
「安定、太郎太刀。そろそろ行くぞ」
 名前を呼ばれて、大和守は我に返った。
 あまり一か所に長居をするのは得策ではない。的確に状況を判断した和泉守に続いて、大和守も駆け足でその場を後にした。
 途中、何度か大和守が花畑を振り返っていたのは、前を歩いていた三人には決して知りえない情報だ。

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