刀剣狂乱舞 | ナノ


▼ 第十一章

 外はしとしとと雨が降り始めていた。シンと静まり返った、いつもの本丸では考えられないような夜。寝所と対になる形で屋敷の北にそびえ立つ別邸の客間に、大和守はいた。
 慣れない一室で仮眠を取るのも今日で二回目だ。不安と苛立ちを抱えたまま眠りについていた彼は、ふと外が騒がしいことに気付いて目を開けた。
 ゲームとかいう狂った騒動に巻き込まれ、昨日から自分の刀を探し歩いて心身ともに疲れているというのに、また何か騒ぎが起きているのか。大和守はうんざりしながら意識を外に集中させる。
 そもそもどうして皆争っているのか。大和守には全く理解できなかった。
 プレゲームの時点から言って、大和守は長谷部が行動を起こさなくても何の文句も無かった。結果、それで全員が死んでも、だ。だって他人を犠牲にして生き残るくらいなら皆で死んだ方がマシじゃないか。仲間同士で殺し合ったって主が喜ぶ訳がないのだから、このゲームには何の意味もない。
 極端とも言えそうだが、それが大和守という男の考え方だった。
 昼の放送が流れた時、この不毛な争いを止めなければ、そう思った。
 そして自分と同じ正義感を持った新撰組の刀ならきっと協力してくれるはずだと、大和守は自分の刀を探すついでに仲間探しを始めることにした。その過程で加州清光の刀を見付けたのは、運が良かったとしか言えない。
 赤く塗られた刀を持って、大和守は音を立てないように部屋の障子を開けた。
 遠くで誰かが話し合う声と、刀を交じえる音が聞こえる。雨の中よく目を凝らして見れば、今いる部屋のずっと先、曲がり角辺りに微かに人影が見える。
 ――二人、か?
 争いを止めなければと意気込んだは良いものの、いざ争いを目にすると行くべきかどうか大和守は迷ってしまった。というのも、今持っているのは加州の刀であって自分の刀ではないのだ。これを使うのは流石に、いや、清光のだから別にいいか?
 大和守が悩んでいると、不意に、中庭を挟んで反対側の縁側から、和泉守と堀川が走って行くのを目撃した。
「兼さん! こっちだよ!」
「ああ? 本当に清光達なんだろうな!」
「間違いないよ! 僕の偵察力は知ってるでしょ!」
 二人は大和守が見ていたのと同じ方向に走っていた。意図せず耳に入った二人の会話に、大和守もすかさず彼らを追って走り出す。
「ってうお、安定じゃねーか!」
「え? あ!」
「和泉守、堀川、会えてうれしいよ」
 中庭を挟んだ再会は、走りながらの何ともそっけない会話で終了した。大和守は段々と近付く影に目を凝らし、堀川が言った通り加州と、加州に一方的に剣を向けられている長曽祢の姿を捉えた。
「清光!」
 行き止まりまで走りつき、大和守は足袋を滑らせた勢いで縁側を曲がった。縁側を並走していた和泉守達と挟み撃ちにした先では、血に染まった加州がまさに長曽祢に斬りかかろうとしている。
 大和守は咄嗟に加州の刀を抜き、長曽祢の前に割入って彼の一撃を防いだ。
 彼の一太刀は思ったより軽かった。
「清光! 何やってるのさ!」
「安定……!」
「大和守安定、それにお前らも」
 加州と長曽祢がそれぞれ驚きの声を上げる。
 加州と長曽祢、そして二人の元にやってきた大和守と和泉守、堀川。なんの因果か、奇しくも新撰組の刀剣がいっぺんにこの場に集結してしまったわけだ。
「長曽祢さん、これは一体どういうことですか!?」
「おれにも分からん。こいつがいきなり奇襲を仕掛けて来た」
「なっ」
 大和守は信じられない気持ちで目の前の男を見た。加州の目は酷く虚ろで、大和守や他の刀剣達を認識していないかのように剣を振り下ろし続ける。それを苦い顔で受け止めながら、大和守は声を荒らげた。
「一体どうしちゃったんだ清光。ていうか何でそんなに血だらけなの。しかもそれ、よく見たら蜂須賀の刀じゃないか!」
「うるさいな」
 そこに、いつもの飄々とした加州はいなかった。目を濁らせ、大和守に対し殺気を纏っている。
 大和守はそれはもう大困惑だった。争いを止めるために加州達を探していたのに、当人は衣装を真っ赤に染めて、返り血で顔を汚し、仲間に剣を向けている。頬に伝った赤黒い筋が、化粧落ちなのか返り血なのか、大和守には涙のように見えた。
「今の清光全然可愛くないんだけど。いつもの冷静なお前はどこに行っちゃったのさ」
「うるさいな。最初からそんな俺はいなかったんだ。仲間思いの俺は全部嘘だった。……もう消えちゃえばいい。俺を愛してくれない仲間なんて、皆消えちゃえばいいんだよ!」
 加州が思い切り叫んで、あろうことか沖田流三段突きまでかましてきた。
 これには流石の大和守も堪忍袋の緒が切れた。
「ああそう。そっちがその気ならもういいよ、僕は何も言わない。来なよ、少し遊んでやる」
 攻撃を避けた大和守は、攻撃的な顔で加州を睨む。
「安定」
 見かねた和泉守が牽制を入れるほどに、彼はスイッチが入ってしまっていた。とはいえ我を忘れているわけではなく、和泉守の牽制にはちゃんと「分かってるよ和泉守。だから僕はさっきから話し合おうとしてるんじゃないか」と言い訳をしていた。
「無駄だ和泉守。先程からおれがいくら声を掛けようと、こいつは全く聞く耳を持たんのだ」
 そう言ったのは長曽祢だ。そう言えば大和守が部屋で休んでいた時、言い争うような声が聞こえていたが、あれは長曽祢が加州を説得している声だったのか。
「チッ。清光の奴本当に何があったんだ? 仕方ねぇ。おい安定! オレも自分の刀を持ってる。必要なら加勢するぜ」
「おれも手を貸そう」
「何だよ、皆ちゃっかり自分の刀見つけてるのか」
「国広、お前は下がってな」
「分かった」
 どうやら、自分の刀を見つけていないのは大和守と堀川だけらしい。まぁ大和守は加州の刀を持っているから、三人で掛かれば容易に加州を止められるだろう。でも、
「悪いけど、清光は僕一人で止めるよ。そうしなきゃいけないんだ。沖田くんの刀である僕達の誇りに掛けて」
 大和守は自分が沖田総司の刀であることに誇りを持っていた。沖田のようになりたい、彼が仲間思いであるように、自分もそうありたいと思っているから、沖田の刀である誇りを忘れ、自分勝手に刀を振り回す加州は自分が止めなければならないと思った。
「分かった。大和守安定、お前に任せよう」
 大和守の信念を察した長曽祢は、静かに剣を収め、和泉守にも同じように剣をしまわせた。大和守は長曽祢の心遣いに感謝して、改めて加州に向き直る。
 深呼吸をする。五感を研ぎ澄ませると、湿気で足袋が床に吸い付く感覚があった。
 加州が持つのは蜂須賀の刀だ。強く打ちこんで壊すことがないようにしないと。
「ふぅ……オラァ!」
 キュッと地面を鳴らし、大和守は地面を蹴る。可愛さの欠片も無い掛け声で二人の斬り合いは始まった。
 静かだった本丸が一転、戦場のような怒号に満ち溢れる。
「だから剣を置けって言ってんじゃん! 何で僕の言うことが聞けないの? 清光は沖田くんの刀である自覚がないんじゃないの?」
「は? 自覚って何? 意味分かんないし! 大体今は沖田くんの刀でも何でもないし、俺達は主の刀なのに、お前はいつまで沖田くん沖田くん言ってんの? 未練がましいんだよ!」
 ……いや、戦場というにはあまりに稚拙で、どちらかと言えば子供の喧嘩の方が近いかもしれない。
「沖田くんの刀が沖田くんって言って何が悪いわけ? 清光こそ外見ばっかり気にして! 爪紅とか女々しいんだよ!」
「はっ、女々しいとか言ってるけど、俺、お前に剣術で劣ることあった? お前の方が随分前に顕現されたくせに、日ごろの鍛錬が足りないんじゃない?」
「いつ清光が僕より強くなったって? 馬鹿じゃないの? 僕の方がお前より強いし!」
「はぁ? 俺の方が強いから! つーか馬鹿っていう方が馬鹿なんだよバーカ!」
「うるさい馬鹿! 不細工!」
「ふっざけんな! お前の方が不細工だろ!」
「いやお前の方が!」
「いやお前が!」
「お前!」
「お前!」
「……!」
「……!」
 刀を交えながら交わす会話には上品さの欠片もなく、罵倒大会はおよそ十分に渡って繰り広げられた。
 最初は縁側でやり合っていた二人も、太刀筋が荒くなるにつれ中庭に落っこちて、それでも剣を振るう手は止めない。降る雨は冷たいし地面はぬかるんでいるし、身も心も最悪だ。
 そうしてやり合っているうちに二人とも息が切れ始め、刀を振る腕が鈍くなってくる。
 罵倒文句も思いつかなくなり、ようやく二人は黙ってお互いを睨み合うまでに落ち着いた。
「はぁ、はぁ……」
 双方息を整えつつ相手の出方を伺う。目の前で俯きがちに息を切らす加州に、動き出す気配はなかった。
 やがて、大きく息を吐いたと思った加州が突然吹き出し、くつくつと笑い声を上げ始めた。
 大和守は目を見開く。
 雨を見上げた加州の目からは、涙が零れ落ちていた。





 加州は大和守が大嫌いだった。どこが嫌いかを上げるとキリが無いが、まずその見た目からして嫌いだった。
 沖田総司に似たその容姿は、嫌でも彼のことを思い出させる。
 加州は大和守同様、沖田のことを強く慕っていた。剣技が強いところも、陽気なところも、刀を大切に扱ってくれるところも大好きだった。
 もしあの池田屋で加州が折れなければ、沖田に負担を掛けることもなく、彼はもっと長生きしていたかもしれない。そう思うと、加州は過去を変えたい衝動にだって駆られた。
 だが加州は、沖田と同じぐらい主のことも好きだった。刀思いで、暖かくて、皆が歩んできた歴史を守るために戦う主に、加州は誇りを持っていた。
 加州は大和守の未練がましいところが嫌いだった。
 口を開けば沖田のことばかり。加州はとっくに主のために歴史を守ることに気持ちを切り替えているのに、大和守は未だに池田屋に行くと複雑な顔をする。そして主に対してそれを隠そうともしない。
 加州は大和守のその性格が嫌いだった。
 大和守はいつも大雑把で、嘘が下手で、やけに正義感が強くて、皆から信頼されている。物腰柔らかなくせに戦闘になると急に性格が変わって、多少荒っぽい言動はあるけれど、その強さから主もよく出陣メンバーに大和守を選んでいた。
 加州は爪の先まで着飾って常に可愛く見えるよう努力をしているというのに、大和守はありのままで主に愛されている。鍛錬も決してさぼらない。常に真っ直ぐな信念を持っていて、けれど時々加州にだけ弱音を吐く。それが加州は気に入らなかった。
 加州が顕現された時も、大和守はずっと待っていたんだと涙目になりながら抱き着いてきて、素直になれない加州はそういうところも癪に障った。
 加州は、大和守のことが好きだった。
 沖田に似たその見た目も、沖田を助けたいと言えるその素直さも、飾らない性格も、本当は全部羨ましかった。加州だって本当は沖田を助けたい。大和守にだってずっと会いたかった。大事だった。主と同じくらい大和守が好きだった。
 加州にはもう、主にも、大和守にも、誰にも愛される資格はない。
 加州は顕現式で主に問われた『願い』を思い出し、雨の匂いがする空気を大きく吸った。


「――ひとつ! 士道に背くまじき事!」

 加州が声を張り上げる。大和守は目を丸くした。
「清光……?」
「ひとつ! 局を脱するを許さず」
 長曽祢も、和泉守も、堀川も、皆が加州に注目した。
「ひとつ! 勝手に金策を致すべからず。ひとつ! 勝手に訴訟を取り扱うべからず。ひとつ! 私の闘争を許さず。右条々相背く候物、切腹申しつくべく候なり」
 それはかつての時代に聞き飽きる程聞かされた、新撰組の局中法度。
「なに、どうしたのいきなり。清光?」
 大和守は加州のその表情に何かを察したのか、神妙な顔をしている。加州はそんな大和守に罪を告白するように、弱々しい声で言葉を発した。
「今剣を殺したのは、俺なんだ」
「!」
「それから、蛍丸も斬った。まぁあいつは上手く逃げてくれたけどね」
 大和守だけでなく、今まで黙って見ていた三人も複雑な顔をする。
「本当は俺は、お前らが思ってるような正義感なんてない。長谷部や今剣を止められず、まして自分可愛さに仲間に剣を向けるような奴なんだ」
「ちょっと、待ってよ。なんで今剣を? 大体長谷部を止められなかったのは僕も同じだし――」
「俺は止めようと思えば止められたんだ! 俺はあいつらのすぐ近くにいた。ちょっと手を伸ばせば届いたんだ。なのに」
「そんなのしょうがないじゃん! 誰も長谷部があんなことをするなんて思ってなかったよ! そんなことで誰も清光を責めたりしない。それに今剣を殺した? のだって、何か理由があったんでしょ?」
 やはり大和守は優しい奴だと、加州は思った。最後まで自分のことを信じてくれている。そういうところが、沖田に似ていて、加州は嫌いなのだ。だから加州も、安心して後を任せることが出来る。
 加州は穏やかな顔をして、大和守の方を見た。
「安定、俺を折ってくれ」
 雨の音がやけに耳につく。大和守の唇が震えているのは、きっと雨の寒さからだろう。
「なっ……!そんなのっ」
「ひとつ、私の闘争を許さず、だろ。仲間に剣を向けた俺は、新撰組なら士道不覚悟で切腹だ」
「き――」
「安定」
 今まで黙っていた和泉守が、見かねて声を上げた。その表情は規律を重んじる土方歳三そっくりだと、加州は思った。
「そいつの目を見たら分かるだろ。それ以上言ってやるな」
「兼さん……」
「加州清光、お前は士道に背くことをしたのかもしれない。だが本当に悪いのはこのゲームとやらを仕組んだ奴だ。それでも、お前の気は変わらないんだな」
 長曽祢が最後の問い掛けをする。加州の決意は変わらなかった。
 頷く代わりに持っていた蜂須賀の刀を長曽祢に託し、改めて大和守に向き直る。
「頼むよ、安定。最期に斬られるならお前がいい」
「清光……」
 大和守は最初こそたじろいだものの、加州の本気に気付いたのか、段々とその目は覚悟を決めたものに変わっていった。柄を強く握り過ぎて、その指は白く変色している。加州は大和守の真っ直ぐな姿に安心して、改めて心から笑った。
 加州は中庭に膝をつき、頭を下げて低く構えた。庭に生えた雑草が雨粒をため込んでいて、濡れたズボンから冷たさが伝わってくる。
 大和守は加州の刀を両手に握り、加州の前に立った。
 雲の切れ間から月が顔を出し、足元から徐々に影が伸びる。大和守の伸びた影が自分に重なるのを、加州は地面に目を向けたまま眺めていた。
 そういえば、いつの間にか雨が止んでいる。ぼうっと地面を眺めていると、そんなどうでもいいことや、皆と過ごした楽しかった日々が次々と頭を過ぎっていった。
 屋根から星を眺めたのも、粟田口兄弟に誘われてスーパーイタイワニーで勝負したのも、バレンタインにチョコを作ったのも、全部楽しかったなぁ。
 加州は本丸の仲間が大好きだったことを思い出して、じんわりと目頭が熱くなった。
『皆に愛されたい』
 加州のその『願い』はとっくの昔に叶っていた。加州は皆から沢山の愛をもらっていた。ただ、『安定みたいになりたい』というもう一つの願いは、結局叶うことはなかったけれど。
 大和守がぽつりと加州に言葉を漏らす。
「清光」
「……何」
「顕現式の時、主に願いを聞かれたの、覚えてる?」
「まぁね」
「僕はその時、主に『清光みたいになりたい』って言ったんだ。僕はずっと清光みたいに強くなりたかった。冷静で、過去ばかり見てる僕と違ってちゃんと前を向いていて、皆に頼りにされて、そんな清光に憧れてた」
 大和守が自分と同じことを考えていたことに驚く。
「何それ。つーかあんた俺のこと嫌いだったじゃん」
「うん。清光もね。思えば、殆ど喧嘩しかしてなかったかも」
「お前平気で俺に不細工とか言うしね」
「それは清光が先に言うからだろ。あ、ちなみに今の清光の顔は結構不細工だよ」
「うっさいよ馬鹿」
「ふふ」
「ははは」
 二人の笑い声が静かな夜に響いた。雲が途切れ、星や月の光が隙間から顔を出す。秋の夜気は肌寒く、だけど何故か温かく感じた。
 大和守の握った刀が月の光を反射してキラリと光った。加州はそれを地面に滴った草露の反射から見ていた。
 沖田総司の愛刀――加州清光が加州を殺すのだから、これは自殺ということになるのだろうか。それでも、加州がこんな汚れ仕事を任せられるのは大和守しかいない。
 加州は目の前に大和守の足先が見えると同時、ゆっくりと目を閉じた。
 大きく息を吸う音と、瞬く間の衝撃。加州の身体は草木に包まれて緩やかに沈んだ。





 光の粒子が、加州の身体を包んでいた。大和守が握っていた刀に大きくヒビが入り、ポロポロと破片が零れ落ちていく。
 大和守の視界が涙で滲んだ。
 加州の身体が光に分解されていく。月に導かれるように、淡い光が天高くへと登っていく。
 それは今まで大和守が見たどの景色よりも儚くて、そして美しかった。
「綺麗だよ、清光」
 大和守の目から大粒の涙が零れ落ちた。それを拭うこともせず、空に消えていくひとつひとつの光を目で追った。目に焼き付けて忘れるもんかと誓った。涙で光がぼやけても懸命に堪えて見続けた。長曽祢も、和泉守も、堀川も、そこにいた誰もが最期の瞬間まで決して目を逸らすことはなかった。
 大和守は、もう『仲間同士で争うくらいなら皆死んだ方がマシだ』などとは思わない。
 漏れる嗚咽を抑え、最後の光に向かって叫ぶ。
「っ、もう、こんな争いは無意味だなんていうものか! 無意味なんかじゃない、清光の死を無意味なものになんてするもんか! 僕がっ、……僕がこのゲームを止めてやる! また清光が笑ってこの本丸に帰って来れるように、僕が皆を助けるから! 清光っ……」
 加州は最期まで仲間を想って死んでいった。大和守の知らない何かを抱え、悩みぬいて、最後まで自分と戦っていた。
 きっと他の誰もが皆、何かを抱え、それぞれの願いを胸に、このゲームを続けているのだろう。それが仲間同士で殺し合うことだとしても、大和守にはもうそれを否定することは出来ない。
 僅かに残る光の粒が、大和守の決意に答えるように風に揺れる。
 ふわりと大和守の頬を掠め、最後の一粒が空へと消えて行った。

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