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 美術館で宝石を盗んだ俺は、工藤新一に変装し名探偵と一緒に灯台へ向かった。島に設置されていた爆弾は警察と共に全て回収したらしい。灯台の下には男ともう一人ーー永愛がいた。縄で縛られ血だらけになった彼女の状態を見て言葉を失う。

「嘘だろ……」

 名探偵が目を見開いて声を漏らした。自分は怪盗だ……冷静にならなければと頭では分かっているが、こみ上げてくるものを止められそうにない。

「殺してはいない。まだな」
「……」

 ブチンと自分の中の何かが切れた。トランプ銃を男に向かって放ち、身体を地面に縫い付ける。地面に倒れる男の上に仁王立ちで見下ろし、銃口を向けた。怒りの表情を見せる男と、自分を止めようとする名探偵が視界に映るが声は耳に入ってこなかった。
 早く始末しなければ、早く彼女を助けなければ、それしか頭になかった。

「離せ! くそっ!」
「永愛の脚を撃ったのか」
「ハッ! 撃ったさ。逃げようとするからだ。俺から何もかも奪ったお前に罰を与えたんだ」
「それなら俺を撃てば良いだろ。あいつは関係ねぇ」
「全てお前が悪い! お前のせいだ!!」

 会話が成立しないことに更に怒りがこみ上げてくる。この男を始末しないと気が収まりそうにない。しかしその時、弱々しいが凛とした声が耳に届いた。

「だめ、だよ……」
「っ!?」

 声の主に視線を向けると薄く開かれた目がこちらを見ていた。

「月下の奇術師怪盗キッドはいつも……冷静沈着でしょ?」
「永愛……」

 永愛の言葉で一気に頭が冷えて冷静になる。銃を下ろすと足元にいる男が声を荒げる。

「ふざけるなよ! 言う通りにしなければこの島を爆発してやる!!」
「爆弾は全て回収したよ」

 男は爆発のスイッチを何度も押すがカチカチと音が鳴るだけだった。暴れて体が自由になった男は持っていた銃を此方に向ける。

「俺が解いた事件をお前が奪ったからだ! 全部全部おまえのせいだ!」
「……あの事件にはまだ見落としていた点があったんだ」

 名探偵が俺の後ろで変声機を使って話すので、それに合わせて口を動かした。

「あと一つ、貴方は見落としていたんだ」
「何!?」

 男が恨んでいる原因の事件について説明すると、男は絶望した顔で自分の頭に銃口を向けた。発砲する前に名探偵が蹴ったサッカーボールが男の後頭部に当たり、男は気を失う。
 すぐさま永愛の元へ走り、止血を行う。ぐったりとした彼女に何度呼び掛けても返事はなく、冷えた身体を抱きしめた。次第に大きくなるパトカーと救急車のサイレン音が頭に鳴り響いた。





 この間は目に怪我を負って、今回はこんな目に遭った。精神状態が危うい時期もあった。今まで平和の中で生きてきた彼女が。こんなに傷つく彼女の姿を何度も見たのは名探偵と関わってからだ。工藤新一と関わらなければ……。
 ーーいや、アイツが彼女に何かしたわけではないのは分かっている。だけどもうこれ以上傷つく彼女を見たくはない。

 ベッドの上で眠る彼女の身体は包帯だらけだった。握りしめた拳から血が落ちていく。

「何でだよ、何で永愛がそんなに傷だらけになるんだよ……!」

 膝をつき布団を握りしめると、うっすら目を開けた永愛は俺の顔に手を添え微笑んだ。

「大丈夫、だよ。そんな悲しい顔しないで……快斗」
「……大丈夫なわけねぇだろ」

 そうしてまた彼女は目を閉じた。俺は彼女の回復を祈り、ホテルに戻った。





 翌日、永愛は車椅子に乗りながら明るい表情で病院から出てきた。周りに心配されながら俺の方へ近付いてくる。

「身体、大丈夫なのか?」
「うん。心配してくれてありがとう新一君」
「……」

 元気そうな顔にホッと息をついた。

 そしてふと思う。そういや昨日、俺の事「快斗」って呼んだよな。工藤新一に変装している怪盗キッドだと認識されていたはず。意識が朦朧としていたからか?

「……」
「どうしたの?」


 ーーまさかコイツ、俺の正体を?


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