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 宝石のセキュリティを全て頭に入れ、今回も簡単に侵入できそうな警備だとほくそ笑みながら美術館を出た。そろそろ夕飯の時間だろう。バイキング形式だと聞いていたし、自分の幼馴染はきっと飛びついているのだろうな、と思いながらホテルへと向かった。

 先に美術館を出ていた名探偵がこちらに向かって走ってきた。どこか焦っているような様子だ。

「なぁ、永愛見てねぇか? 灯台に行くって蘭たちとわかれてから誰もあいつの事見てねぇって」
「飯食ってなかったのか?」
「あぁ。レストランも灯台にもいなかったから、今から部屋見に行こうかと思ってよ」
「……俺も行く」

 彼女の部屋に向かい、ドアをノックしても反応がない。中に人がいる気配すらいない。持っていた針金でドアのカギを開け、中を確認すると案の定誰もいなかった。

 もしこれが永愛でなく他の奴なら夕食の時間に現れなかっただけで、散歩でもしているのかもと思うかもしれない。しかし飯が好きなあいつのことだ。飯をすっぽかすなんて何かに巻き込まれた他考えられない。


「フフフフ、この部屋の女をお探しかな? 工藤新一」
「誰だ!?」

 入ってきたドアの前に立っていたのは帽子とマスクで顔を隠した男。今の発言から永愛の居場所を知っているらしい。あいつに何かしたのだろうと考えるだけで怒りがこみ上げてくる。

「……永愛をどこにやった」
「返してほしければ、指定した時間に灯台の前に来い。美術館にある宝石と引き換えだ。工藤新一……いや、怪盗キッド」
「!?」

 俺を知る奴か、いやしかし工藤新一に脅迫の電話が来た。何かがおかしい、コイツは何か……。

「君には恨みがあってね。以前私が推理した事件を横取りされたんだよ。覚えてないと思うけどね」
「事件を横取り……?」
「ではまた灯台の下で。宝石も忘れずにね」
「待て!」

 男は煙球を使ってその場から消えた。永愛が捕まっている。いったい今どこに、彼女は無事なのか、焦りと怒りで思考が鈍る。怒りを抑えきれず壁を殴った。

「なんでだよ!!!」
「落ち着けってキッド」
「俺は冷静だ!」
「……、大丈夫だって。永愛は強いんだからよ」
「そんなの俺が一番よく知ってる! でも永愛は抜けてるとこもあるから危なっかしくて……」

 ベッドに腰を下ろし頭を抱えると、名探偵が俺の前に立つ。

「恐らく奴は怪盗キッドの正体を俺だと思っている」
「……だな。あいつの話には違和感があった」

 俺は予告時間通り宝石を盗み、名探偵は島の爆弾を何とかする。そして指定された時間に灯台の下に行き永愛を救う。それまでにあいつを見つけることが出来れば。
 永愛……無事でいてくれ。


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 目が覚めると薄暗い部屋の中で手足を椅子に縛られていた。動くと縛られた縄がさらにきつくなりどうしたものかと周囲を確認する。いったいここはどこだろう。多分何かで頭を殴られたんだろうな。痛いし下を向くとポタポタと血が地面に落ちる。
 部屋の中には犯人とみられる男が椅子に座っていた。私が起きたのを確認すると、立ち上がり近づいてきた。

「宝石を受け取るまで死ぬなよ」
「宝石……?」

 話を聞いていると、この男は以前事件解決の手柄を新一君に横取りされ、恨んでいたようだ。その事件以降探偵業をやめ、復讐のため調べていく中である仮説に辿り着き、新一君と怪盗キッドは同一人物なのではとなったらしい。確かに二人の顔は似ているけど。そして今回、キッドの盗んできたお宝を横取りして生活の足しにするとのこと。

「顔を見られたからすぐ消そうかと思ったが、あいつが大切にしているみたいだからな。脅しにつかうにはちょうどいい」
「工藤新一は怪盗キッドじゃないですよ」
「ふん。探偵だった俺の観察眼を舐めるなよ。……そろそろ約束の時間だ」

 足の縄を解かれ、縛られたままの手の縄を男が引っ張る。建物から出ると遠くの方に灯台が見えた。これなら逃げれるかもしれない。地面を蹴り体をねじりながら男の顔目掛けて蹴った。ひるんだ男の手から縄が落ち、灯台とは逆方向に走る。仲間はいないようだしここから私が逃げ切れば、キッドが宝石を渡す必要がなくなる。


ーーーーバンッ!!!

「っ!?」

 足を撃たれた……!? 足が熱くて一気に痛みがやってくる。地面に倒れ、叫ばずにはいられなかった。
 叫んでも周りにはこの男以外誰もいない。男の手には拳銃があり、銃口をこちらに向けながら歩いてくる。やばい、殺される!?

「勝手に逃げるな。馬鹿め」

 髪を掴まれ上を向かされる。足が痛くて気を失いそうだ。流れる血もお構いなしに男は私を引きずりながら灯台へ向かった。駄目だ、これじゃ足手まといだ。ごめん、快斗ーーーー



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