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 この間の警視庁の爆破に巻き込まれてできた瞼の上の傷がもうすぐ治りそう。傷が残らなくて良かったな、とホッとした矢先、スマホが鳴った。画面に表示されるのは安室さんという文字。出たくないけど仕方ない。

「もしもし」
『こんにちは。今家にいますよね? 少しお時間よろしいですか?』
「今から用事があって……」

 嘘だけど。何とかして逃げよう。さっさと家から出てどこか移動しよう。

『今家の前にいます。出てきてもらえますか』
「は、はい……」

 なんてこった。
 家を出ると見覚えのある白い車がとまっていて、運転席には安室さんが見える。覚悟を決めて小走りで向かうと、助手席のドアを開けて乗るように言われた。

「私は一体どこに連れていかれるのでしょうか」
「美味しいものでも食べに行きましょう。ステーキは好きですか?」
「す、ステーキ!? とっても好きです」

 ステーキを食べさせてくれるだと。食べ物に釣られ、私は疑うこともせず助手席に乗ったのだった。隣で安室さんが笑っていることも知らず。


 数十分後、高級そうな店に連れてこられた。もっと良い服を着てこれば良かったと後悔する中、奥の個室に案内されてふと以前脅された時の記憶を思い出し、ハッとした。ホイホイついてきたけどまた脅されるんじゃ……いや絶対そうだ。

「どうされました? もう注文はしてありますのでどうぞ」
「えっと……やっぱり、その」

 彼の正面の席に座るよう誘導されるが、座ったら終わりのような気がして踵を返そうとしたとき、料理をもって店員さんが入ってきた。テーブルに置かれた大きなステーキに目がくらむ。駄目だ、我慢できない。

「本当に頂いていいんですか?」
「ええ、勿論」
「いただきます」

 ナイフでステーキを切り、口に入れるとジューシーで頬が落ちるかと思うほどの美味しさだった。美味しいかと聞かれて何度も頷く。
 そしてステーキの半分ほど食べた時だった。彼が真剣な顔をして口を開いたのは。

「あの時君は僕が公安であることに驚きませんでしたね。まるで以前から知っていたかのように」
「えっ」
「誰から聞いたんです? 君はコナン君から信頼されているようですし、FBIとも知り合いのようですしね。一体何者なんだ」

 いよいよ本題に入るのか。ゴクリとステーキを飲み込む。聞きたいことが多いようだけど、残念ながら私はただの一般人だ。偶然の積み重なりで知ってしまったことが多いけど、それを彼にどう納得してもらおうか。

「安室さんがどこの誰だろうと、私にとって良い人であるのは変わりないです。何度も助けてもらってますし。だから公安って聞いて納得しただけ……です」

 これで彼が納得してくれるのかは分からないけど。黙る彼に続けて話す。

「コナン君とは友達ですし、赤井さんとは事件っぽいものに巻き込まれた時に偶然知り合いになっただけなんです。ただの一般市民です私。運が悪いだけの」
「それだけで納得するとでも?」
「また何か脅しですか?」
「……。では交換条件はどうです? 君の親戚の方の話も聞かせていただけますか?」

 安室さん、どれだけ男になった私のことを知りたいの。

「だから誰のことだか……」
「あれからどれだけ調べても出てこないんです。まさか親戚ではないのかと思いまして。僕にまだ何か隠していますよね?」
「……」
「僕の秘密を知ったんです。君も話すべきですよね?」

 それは貴方が勝手に口を滑らせたんじゃ……。いやもう何を言っても聞き入れてくれないだろう。哀ちゃんの作った薬ってことは絶対話せない。しかし何か話さなければ彼は納得しない。それなら……。

「安室さんが会いたがっている男は私の親戚ではありません」
「やはり……」
「それと、私はその人と会ったことはありません。でも誰なのか、知ってはいます」

 だって私自身だから。目の前の彼は余程驚いたのか「えっ」と声が漏れていた。

「探偵さんですよね? 私が答えを教えても面白くないでしょう。あの男の正体を暴くくらい簡単じゃないですか? 一般人の私でも安室さんの秘密を知れたんですから」
「……」
「ね?」
「やはり君は面白い」

 にやりと口角を上げた彼の顔を見て背筋が凍った。とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのは間違いないけど、どうにか切り抜けられただろうか。

「ってことでこのステーキの続き、そろそろ食べてもいいですか?」
「……どうぞ」

 ようやくお許しが出た。半分食べたとはいえ、まだまだお腹は空いているし。ステーキを食べながらこの間赤井さんと電話越しに何を話していたのか気になった。

「そういえばこの間、赤井さんに何を言われたんですか?」
「ああ。永愛さんは美味しいもので釣ると良いと。奴の言うことを聞くのは癪でしたが、上手くいきましたね」
「何それ! 二人してちょっと失礼じゃないですか!?」
「貴女は頭がきれるのかそうではないのか、よく分かりませんね」

 彼は呆れた顔でそう言った。

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