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最後まで快斗はホストクラブに行くことを嫌がっていたけど、別の人と行くって言ったら「それなら俺が行く」と言ってついてきてくれた。快斗はとても心配症だ。

彼が声まで変えれる変装の達人だってことは知っているんだけど、今回は手を抜いているらしい。女性に見えなくもないレベルの女装だ。
日が沈み、ネオンが光る街を二人並んで歩く。スーツ姿の派手な男性に何度も声をかけられるが、皆途中で話すのをやめて去っていく。不思議な街だ。

「永愛、気をつけろよ」
「夜の街って感じだね、快美」
「かいみぃ!?」
「もっと女の子らしくしないとバレちゃうよ」

人生初のホストクラブ、メイクはバッチリしてきたしいつもより華やかな服を着てきたし浮かないよね。大丈夫だよね。
名刺に書かれた場所まで着き、店に入る。

「「「いらっしゃいませー」」」
「うぉっ」
「こ、こんばんは。赤薔薇さんって方いますか?」
「はい! お待ちください」

スーツを着た男性がたくさんいる。この空気感、緊張する……けど初めての場所ってわくわくする。快斗も顔がこわばっているし緊張しているみたいだ。

「誰だい? 俺を指名したっていう子猫ちゃんは」
「こちらの方です」
「ハッ! 君は! 俺の命の恩人じゃないか! 来てくれたんだね!」
「本当に来てよかったんですか?」
「もちろん! 隣の子はフレンドかい? 二人とも入って入って。今日はごちそうするよ!」

良かった。歓迎されているみたい。赤薔薇さんに奥の席へと案内される。そしてどのホストを席につけたいか好きに選んでくれとタブレットを渡され、彼は席を外した。
テーブルに飲み物が置かれていて、これも好きに飲んでくれて良いとのことだったので、美味しそうなものに口を付けた。緊張でのどが渇いていてゴクゴクと一気に飲んだ。

「ぷはっ、快斗快斗、ホストクラブに入っちゃったよ私達! 人生初だよ! すごいよ」
「すごかねーよ」
「どの人にする?」
「全員お断りだっての」
「えー。快斗ノリわるーい」

せっかく来たんだから楽しめば良いのに。初めての場所に来たからか気分が上がる。

「じゃあ人気ナンバーワンの人にしよっかなー。イケメンだー」
「俺の方がかっこいいだろ」
「えー嫉妬してるの? 可愛いなーもう!」
「無駄にテンションたけぇ……。それって」
「んー?」
「この匂い、ワインか。オメーいつの間に飲んでんだ」
「のど渇いちゃって飲んじゃった。あ、でも大丈夫だよ。私弱くないから」
「強くもないだろ」
「そんなこと……」

意識失うほど飲んだことないし、と言いかけてそういえば沖矢さんとバーに行ったとき眠ってしまったんだった。あの時は美味しくて何杯も飲んでしまったからなぁ。でも今日は快斗がいるし酔い潰れても大丈夫だ。

「じゃあケント君とフーマ君でお願いしまーす!」
「おい勝手に……」
「ご指名入りましたー!」

「ケントです。よろしくハニー」
「指名されたフーマでーす。いっちょよろしくー」

とてもキラキラした二人のホストが私と快斗の隣に座る。すごいや、まぶしくて見れない。
気持ちを落ち着かせようと、隣にいる女装した快斗を見る。

「急に何だよ永愛」
「……ちょっと落ち着いた」

落ち着いたけど快斗も側から見たらイケメンの分類に入るんだった。

「二人ともホストクラブは初めて?」
「はい、初めてです」
「初めてをありがとう。今日は楽しませるからよろしくね。まずは乾杯しようか」

四人で乾杯した後、名前を聞かれたり趣味の話をしたり赤薔薇さんの話で盛り上がった。

お酒が美味しくて何杯も飲んでしまったからだろうか。
それからの記憶がなく、目が覚めた時には快斗におんぶされていた。


「快斗?」
「ったく、やっと目ぇ覚めたか」
「ごめん、寝てた。あれ、カツラは?」
「永愛に取られた。お陰で男ってバレちまったし」
「えぇ!? 追い出された!?」
「いや、オメーが暴れだすから謝って店出てきた」
「あばれ……!?」

意識ないときに暴れた上に快斗のカツラを取ったのか。とんでもなく迷惑が掛かっている気がする。



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数十分前


ホストと話をする永愛は顔を真っ赤にして楽しそうだ。ホストにハマらなきゃ良いけど。

「これと同じのもういっぱーい!」
「かしこまりました」

「……どんだけ飲んでんだ」

幼馴染は酔っ払い女に仕上がっていた。あいつがこんなに酔っぱらってるの初めて見る気がする。そろそろ帰るか。早くこの暑苦しいカツラを取りたいしな。

「永愛、帰るわよ」
「えー、やだー。まだここにいたいー」
「もう酔っぱらってるでしょ」
「酔っぱらってなんかっ「酔っぱらってるっての」」
「かーえーらーなーいー。ケント君ともっとお話しする」
「そう言ってくれて嬉しいよ姫」

まるで子供のように駄々をこねる永愛。店に迷惑掛けるわけにもいかねぇし、無理矢理にでも連れて帰るか。
帰るぞ、と声を掛けて永愛の腕を引っ張るが、手をはじかれてしまう。もう一度彼女の手を引っ張るが振り解かれた。それを周りが引くレベルの速さで何度も繰り返した。お互い息が上がる。

「君たち大丈夫かい?」

永愛に触れようとするホストに、触らせまいと彼女の肩を抱き寄せる。

「わっ、どしたの?」
「……何でもねぇ」

体温の高い身体に火照った頬、うるっとした瞳に思わずドキリとする。すると彼女の腕が自分の背中に回され、強く抱きしめられる。驚いて思わず声が出た。
そして顔が近づいてきたと思ったら耳元で良い匂い、と囁かれる。

「はぁ!? ば、バッカ……!」

ヘラリと微笑む彼女に顔が熱くなった。何だよこれ、何だコイツ。こんなのされたら他の奴が惚れるだろうが。
なんとしてでも早く連れて帰る。そう思った矢先、永愛はテーブルに足をのせてシャンパンボトルに口を付けた。

「バーロー!」
「飲みたいのー!」

そう言って永愛は俺のカツラを掴みぶん投げた。そして……寝た。
微妙な空気が流れる中、俺はホスト達に謝罪をし店を出た。赤薔薇という男は俺が男だということに初めから気づいていて大爆笑していた。

ーー彼女には絶対アルコールを飲ませないと決めた。




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