ポアロに入ろうとしたところで、コナン君と同じくらいの子が私の服の裾を引っ張った。
「どうしたの?」
「さっきお兄さんからこの手紙をお姉さんに渡してくれって」
「ありがとう」
私に手紙を渡して、その子は去っていった。誰からの手紙だろうか。とりあえずポアロに入ってからゆっくり見よう。
「いらっしゃい、永愛ちゃん」
「こんにちは」
「その手紙どうしたの?」
「さっき渡されて……」
「ええ!? もしかしてラブレター!?」
「いやー、そんなまさか」
席に座り、封を開ける。隣で梓さんが興味津々で覗き込んでいて可愛い。白い便箋に綺麗な字で、これはまるでラブレター……。
「初めて会った時からあなたのことが好きでした。ってキャー! ラブレターじゃない! 誰から?」
「それが誰かに頼まれた子供から渡されて」
「えー、差出人不明!?」
「それより梓さん。私、このサンドイッチ食べたいです!」
「それよりって……。ほんと永愛ちゃんって花より団子ね。飲み物は紅茶?」
「はい。紅茶で」
メニューを閉じてもう一度手紙を確認する。こんな綺麗な字を書く知り合いなんていたかな。悶々と考えていると、サンドイッチと紅茶が運ばれてきた。
「手紙の相手、誰か分からないの?」
「はい。全く」
サンドイッチをパクリと一口。なにこれ、めちゃくちゃ美味しい。こんな美味しいサンドイッチ食べたことない。
「梓さんこのサンドイッチ美味しいです!」
「ありがとうございます」
梓さんに言ったつもりが、答えたのは奥にいた安室さんで思わずムッと口を閉じた。
「どうして貴方が……」
「それ安室さんの手作りなのよ」
「……」
「美味しいと言って頂けて光栄です」
美味しいけど、素直に褒めれないというか何というか。
「以前は色々と褒めていただいたのに、最近はあまり言ってくださいませんね」
「そりゃあ……」
貴方が私を脅すからでしょう。梓さんがいるから言わないけど。
「梓さん、休憩お先にどうぞ」
「ありがとうございます。永愛ちゃん、ゆっくりしていってね」
「はい」
多分、安室さんは私に聞きたいことがあるんだよね。梓さんがいなくなった瞬間、真剣な顔つきになって私の方へ歩いてきた。
「貴女の親戚だという男の子について聞きたいのですが」
私が哀ちゃんの薬で男になった姿、まさか同一人物だと気付いて聞いてきているのだろうか。
「どうしてでしょうか?」
「彼は非常に興味深い。良かったら彼の名前だけでも教えていただきたいのです」
心なしか安室さんがソワソワしている気がする。一体何を考えているんだろう。
「男の親戚、何人かいるんですよね。誰のことだかさっぱりで」
「永愛さんと同じ髪色、目の色で身長は僕より少し小さめの方です。二度会っているのでこの辺りに住んではいると思いますが」
「生憎親戚には最近会っていないんです。誰がどこに住んでいるのかも分からないです」
「そうですか」
どうしてそこまで知りたがる。しかも聞きたいのが名前だなんて。それに彼の興味をそそるような事したっけ。
「その子に会ってどうするんですか?」
「そうですね。まずは話をしたいですね」
「え、話ですか」
「えぇ。どうしてあんなに強いのかをお聞きしたい」
「……」
どうやら悪いようにはされないみたいだけど。それに私だってバレていないみたいだ。しかしなんで、どうして、と疑問しか湧いてこない。不意にテーブルの上に置いていた手紙に目を向ける。そういえばこの手紙のことをすっかり忘れていた。
「筆跡で調べるのはどうですか? 永愛さんの知り合いに同じ内容の文を書いてもらうんです。それで誰が書いたか分かるのでは?」
「あ、成程」
僕も書きましょうか、と言って彼は「好きです」と書いた紙を私に渡した。何か……微妙に照れるんだけど。ラブレターの差出人と筆跡が違う。
私に気がある人なんているのだろうかと思いながらも、知り合いの筆跡を調べにポアロを後にした。
まずは幼馴染の二人の所へやってきた。事情を説明すると青子は興味津々で話を聞いていてすぐに紙に書いてくれたけど、快斗はあまり興味なさそうだったから話を聞いてなかった気がする。
「快斗、私が今から言う言葉を書いてね。紙とペン持って」
「お、おう?」
「初めて会った時から好きでした」
「はっ、ハァ!? ……別に俺は」
「ほら早く書いて」
「……書いたけど、何だよこれ」
「やっぱり快斗でもないや。じゃあ二人ともまたね!」
やっぱり二人とも違う。二人にお礼を言ってその場を後にした。
「快斗、永愛の話聞いてなかったでしょ」
「……おう」
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子供達のところへ訪れた。恋愛対象外なのは分かってる。分かってるけど知り合いが少ないから仕方ない。事情を説明して紙とペンを渡した。
「じゃあ書いてもらっても良いですか」
「俺じゃねぇけど。……ほらよ」
「書けました!」
「書けたぜー」
「歩美も書けた!」
少年探偵団の皆に書いてもらったけど、やはり筆跡が違った。
「永愛お姉さんラブレター貰ったんだー! 良いなぁ」
「いや私宛かも分からなくて」
「きっと違うでしょうね」
「やっぱりそうだよねぇ」
哀ちゃんに言われて納得する。五枚分の好きと書かれた紙とラブレターを持って皆とお別れした。一人を除いて。
「どしたの」
「俺もついてく」
「ほんと? コナン君がいれば心強いや」
「次は誰んとこ行くんだ?」
「阿笠博士かな!」
「オメー本当知り合い少ねぇんだな。博士はなしでいいだろ。沖矢さんの所でも行くか?」
「君の言葉がグサッときたよ。じゃあ次は沖矢さん」
コナン君と二人で沖矢さんの所へ来たが留守だった。
途方に暮れていると、ラブレターの差出人がポアロに訪れたと連絡が来たので、ポアロに向かったけど待っていたのは全然知らない人だった。
しかもラブレターを渡したかった相手は私ではなく、梓さんだったらしい。どうやら子供が手紙を渡し間違えたようだけど、結局ポアロに来るんだったら直接渡せば良かったのではと溜息を吐いた。